第222話 ゴンゾウとポチ子
「ほら、見てくれよ!!凄いだろ、ここがあたし達の部屋だ!!」
「へえ、結構広いんだね」
「子供に与えられる部屋の中では一番の大きさだ。俺の体型に合わせて作って貰っている」
岩山を削り取って作り出された住居にはゴンゾウとポチ子の部屋も存在し、子供とはいえ、巨人族の体型に合わせて作り出されたらしい。ちなみに岩山を削り取る作業はドワーフが行ったらしく、今現在は数名しか存在しないが昔はもっといたのかもしれない。
窓の外を確認する事が出来るらしく改めてレノは外の光景を確認する。砂漠なのでかなり暑かったが、思っていたよりも部屋の中は快適だった。ゴンゾウとポチ子はここで一緒に寝泊まりしているらしく、彼等はレノを座らせるとコップを用意する。
「これを飲んでくれ、俺達が育てた果物を磨り潰して作った」
「あ、ありがとう……果物なんてあるの?」
「ああ、砂漠でも育てる事ができる植物は育てている。この拠点に残った者が植物の管理を行っている」
「へへっ……初めてあたしと兄貴で育て上げた果物なんだ」
レノは果物を搾り取って出来上がったジュースを与えられ、少し悪い気もしながらも飲み込むと、甘みは少し強いが病みつきになりそうだった。話している間にもゴンゾウは壁に立てかけた石製の斧を取り出し、ポチ子は弓矢を取り出す。
「なあ、これから俺達は狩猟に出かけようと思っているんだ。良かったら、一緒にきてくれないか?」
「狩猟?拠点を離れるの?」
「ここで暮らす奴等は全員が仕事を与えられてる。俺達の場合は子供だが戦える力を持っている、だから戦って役に立つしかない」
「兄ちゃんも一緒ならきっと大物を狩れるだろうからな。そうだ、あのワンコも一緒に連れていくか?そろそろ起きると思うし……」
「ウルも一緒か……分かったよ、どれだけ世話になるか分からないけど俺も働くよ」
仲間達の事は気がかりだが、レノもしばらくはここの世話になる以上は働くしかなく、早速ウルを連れてレノはゴンゾウとポチ子と共に砂漠を出る事にした――
――砂漠に赴く際は準備を整えなければならず、まずは露出が多い恰好だと砂漠の熱で火傷を起こす可能性があり、全身を覆い隠すフードを纏う。ウルの場合は魔物なので普通の人間よりも暑さは耐えられるが、それでもきついのか辛そうな声を上げる。
「ウォンッ……」
「ウル、大丈夫?俺の水を飲む?」
「ほら、ワンコ頑張れよ。獲物を見つけるまでは戻れないんだからな?」
「初めての砂漠だ、無理はないだろう……だが、日中の間に獲物を見つけ出して戻らないといけない。頑張ってくれ」
夜の砂漠は日中の暑さが嘘のように気温が下がり、しかも夜行性の魔物が本格的に動き出す。だからこそ獲物を狩るには昼の間は動きが鈍い魔物を探し出して見つけるしかない。
この砂漠の生息する魔物の種類は十数種類しか存在せず、その頂点に立つのが土鯨である。出来る事ならば食用の魔物を見つけ出したい所だが、仮に食用ではなくても街に持って行けば買い取ってくれる魔物ならば捕まえて持ち帰る必要があった。
「ふうっ、腹減ったな……久々に砂熊の肉が食いたいな」
「えっ……熊?砂漠に熊がいるの?」
「ああ、滅多に見かけないが非常に獰猛で厄介な相手だ。だが、肉は珍味として有名だ」
「へ、へえっ……」
砂漠にも熊型の魔物がいる事にレノは意外に思うが、他にも何種類かの魔物の説明をしてもらう。しばらくは話しながら歩いていると、ポチ子が何かに気付いたように鼻を鳴らす。
「んっ……臭う、臭うぞ!!あっちの方が獣臭い!!」
「え?本当に?」
「ポチ子の嗅覚は誰よりも鋭い……魔物の種類は分かるか?」
「この臭いは……間違いない、砂蛇の臭いだ!!」
「砂蛇……?」
ポチ子の言葉にレノは首を傾げ、砂熊の次は砂蛇なる魔物がいるのかと思った時、彼女はその場で伏せて臭いを嗅ぐ。そして一目散に駆け出す。慌ててその後をゴンゾウとレノとウルが続く。
「ウル、お前は何も臭いを感じないの?」
「ウォンッ……」
「へへっ、あたしの嗅覚はそこいらの魔獣なんかとは比べ物にならないんだ!!」
狼型の魔獣であるウルも感じ取れない微かな臭いをポチ子は嗅ぎ取り、やがてレノ達は大きな砂丘を登って周囲の光景を見渡せる場所に移動すると、砂の地面を移動する大型の魔物を2体発見した。
「シャアアアッ!!」
「ガアアッ!!」
「やった、砂蛇と砂熊だ!!」
砂漠では土気色鱗に覆われた大蛇と、土気色の体毛に覆われた熊が向かい合って威嚇していた。互いに牽制しながらも襲い掛かるタイミングを伺い、牙を剥き出しにしながら向かい合う。
レノ達は砂丘に身を伏せながら様子を伺い、ゴンゾウとポチ子は襲い掛かる準備を行う。ウルも久々の獲物に笑みを浮かべ、一方でレノも久しぶりの狩猟なので少しだけ緊張する。
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