第221話 土鯨を倒すために
「ここにいる奴等は皆、土鯨から大切な人を奪われている。その中には子供もいる……奴を殺さない限り、俺達は前に進んで生きていく事は出来ない」
「なあ、頼むよ。あんたの力を貸してくれ、あの化物の目を射抜くなんて只者じゃねえ……今まで色々と失礼なことを言って悪かった!!どうか、力を貸してください!!」
「力を貸すのはいいけど……」
ゴンゾウとポチ子に頭を下げられ、困った風にレノは頭を掻く。彼等の事情は理解したし、出来る事ならば力になってあげたいと思った。だが、問題なのはレノが仲間とはぐれた事であり、皆がどうしているのか心配だった。
馬車を引くウルがいなくなった事で他の皆は馬車を引く手段を失ってしまった。ネココ達が今頃どうしているのか気にかかり、合流したい所ではあるが結構な時間が経過しているらしく、戻るのも時間が掛かる。
「ここから砂漠を抜け出す場合、どれくらいの時間が掛かる?」
「ここは砂漠の中心部に近い、砂船を利用したとしても半日は掛かるぞ」
「半日……」
「馬やラクダを使っても砂漠を抜け出すには3、4日は掛かるな」
ウルの場合はウマやラクダよりも早く動けるが、少なくとも砂船程の速度は出せない。仮にウルに乗って砂漠を抜け出そうとしても3日近くの時間は掛かり、何の準備もなく砂漠を移動するのは危険過ぎた。
(今の俺は武器ぐらいしか持ち合わせていないし、水や食料も無しに砂漠を渡るのは危険だ。ここは協力するしかないか……)
何の準備も無しに砂漠を渡るわけにもいかず、レノは彼等に協力する事を約束する代わりに自分を他の仲間の元に送り届けるように頼む事にした。
「船長さんと話がしたい、何処にいるの?」
「きっと、墓場だよ。船長は帰って来る度に墓場に行くんだ」
「墓場……」
「船長の家族も土鯨に殺された。船旅が終われば必ず墓の前で報告する」
「なら、今は話しかけられないな……」
危険な船旅から戻って来る度に墓参りを行うという船長の元には流石に行きにくく、船長に出会う前にレノは拠点の中を案内してもらう――
――この拠点には全員合わせれば100名近くの多種多様の種族の人が暮らしているらしく、巨人族は20人、獣人族は30名、ドワーフは数名、他は人間で構成されていた。彼等はこの街の出身ではなく、大半がムツノに訪れようとしていた外部からの人間らしい。
この場所では地下水が取れるので水の心配はなく、食料に関しては定期的にムツノに買い込んでいるらしい。砂船を出して魔物を討伐し、食用となる物は持ち帰り、それ以外の魔物は街で売り捌いて金に換える事で生計を立てているという。
「この砂漠には多数の危険種指定されている魔物が生息している。中には毒性を持つ魔物も多い。それに砂丘も多いから馬車などの乗り物では移動しにくい。だから大抵の人間はムツノへ向かう砂船を使うんだ」
「砂船は凄いんだぞ!!風属性の魔石を利用して自由に動けるからな、それに常に移動し続けるから他の魔物に見つかっても襲われる心配はないんだ」
「へえ……」
砂船を所有する者は比較的安全に砂漠を移動できるらしく、特に巨大船ならば魔物の方から逃げていくという。この砂漠で砂船を襲える存在がいるとすれば土鯨に限られ、あの土鯨こそがこの砂漠の魔物の生態系の頂点に立つ存在らしい。
「あの魔物……どうして土鯨という名前なの?」
「……あの土鯨は元々はこの街には存在しない魔物だった。土鯨は本来は砂漠でなく、別の地域に生息する魔物だった」
「え?なら、どうして……」
「理由は不明だが、数十年ほど前から突如として奴は現れたらしい。あの巨体で容赦なく砂船を襲い、多くの命を奪ってきた。しかも年月が経過する事に身体はより大きく成長し、遂には国の軍隊が手が付けられない程の存在へと変化した。かつて王国騎士が訪れて討伐を行おうとした事もあったが、結果は失敗に終わり、王国騎士は殺されてしまった」
「あの王国騎士が……!?」
「もう大分前の話だけどな……そいつは何でも風を操る魔法剣士だったみたいだぞ」
レノは王国騎士が土鯨に敗れているという話を聞いて戸惑い、この国に置いて王国騎士は最強の戦力であるはずだが、その王国騎士さえも敗れたならば土鯨は想像以上に危険な存在である。
ジン国は土鯨を討伐する事を諦め、今の今まで放置してきたらしい。しかし、土鯨に殺された者達は集まり、奴に復讐するために砂船を作り出してこんな場所にまで拠点を築き上げて戦う準備を整えていた。もう彼等は土鯨を倒す事だけを目標としており、奴を倒すためならばどんな手段だろうと躊躇しないという。
「なあなあ、兄ちゃん!!俺達の部屋に来てくれよ!!」
「え、兄ちゃん?」
「俺の兄貴はゴンゾウの兄貴だけだけど、これからあんたの事を兄ちゃんと呼ばせてもらうよ!!兄貴、あれを見せてもいいよな?」
「ああ、そうだな。一緒に戦うなら隠し事は無しだ」
土鯨を撃退した一件でポチ子はレノに懐き、彼の腕を引いてゴンゾウに確認を取ると、二人はレノを自分達が暮らしている部屋へ案内した。
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