第220話 魔狩りの拠点
レノが乗り込んだ「ヤマト」という名前の砂船は、砂漠の中に存在する巨大な岩山が並ぶ場所に辿り着き、岩山同士の間に入り込むと停止する。どうやら魔狩りと呼ばれる集団は岩山の中で暮らしているらしく、岩山を削って作り出した住居に住んでいた。
「おう、お前等!!戻ってきたぞ!!」
「お帰りなさい!!」
「随分と遅かったな!!」
「飯はっ!?酒は持って来たのか!?」
船から下りた瞬間に数名の巨人族と獣人族の女性が出迎え、他にもポチ子よりも幼い子供達も存在した。中にはドワーフの老人も存在し、彼の元にエイハブは赴くと帽子を脱いで笑いかける。
「ドルトン、悪いがまた修理を頼むぜ」
「生きていたか……ふん、また随分と派手にやられたようだな」
「ああ……明日の朝までに頼めるか?」
「分かった、何とかしてやる……だが、次の修理で限界だ。もうこれ以上はこの船は持たないぞ」
「分かっている……次の航海で奴を仕留めてやるぜ」
「ふんっ……」
ドルトンと呼ばれたドワーフはエイハブの言葉に鼻を鳴らし、土鯨に衝突した時に壊れた破損個所を確認して修理を行う。すぐに彼の元に人が集まり、修理を手伝う。その様子を見てエイハブは頭を掻き、改めてレノに振り返って皆に彼の紹介を行う。
「おう、お前等!!凄い奴を連れてきたぜ!!この坊主の力を借りれば土鯨を次こそ討ち取れるかもしれねえ!!」
「うわっ!?」
「坊主って……本当に子供じゃないか!?」
「人間の子供か?随分と小さいな……」
「お兄ちゃん?それともお姉ちゃんなの?」
レノは肩を叩かれて前に出ると、拠点に残っていた者達はレノの姿を見て首を傾げ、どう見ても強そうには見えない。だが、そんな彼等にエイハブは堂々と答える。
「確かに一見するだけだと強そうには見えないだろう。だがな、こいつのお陰で俺達はあの化物鯨を追い払う事に成功したんだ!!」
「そんなの嘘だ!?」
「人間にそんな事、出来るはずがない!!」
エイハブの言葉に拠点に残っていた者達は信じられない表情を浮かべ、どう見ても人間の子供にしか見えないレノがあの土鯨を追い払ったなど信じられるはずがない。
土鯨は砂漠で暮らす者からすれば自然災害と同等な存在だと認識され、土鯨に挑もうとする者などいない。土鯨は圧倒的な力を誇り、その強さは魔物の生態系の頂点に立つと言われる「竜種」にも匹敵すると言われている。そんな凄まじい戦闘力を持つ土鯨を人間の少年が追い払ったなどと言われても簡単に信じられるわけがなかった。
「嘘じゃねえっ!!俺達が証人だ、こいつのお陰で俺達は助かったんだ!!」
「そうだそうだ!!」
「こいつはな、たったの一本の矢で土鯨の片目を奪ったんだぞ!!」
「う、嘘だ!!そんな事、出来るはずがない!!」
「証拠はあるのか!!」
船に乗っていた船員はレノが土鯨を追い払った事を訴えるが、それでも実際に現場に立ち会わせていない者は信じられず、ただの人間の少年が土鯨を撃退する力を持つなど想像できなかった。だが、そんな彼等に対してエイハブは船に乗せていた「サンドワーム」の死骸の一部を運び出す。
「こいつを見ろ!!この坊主の強さの証拠だ!!」
「さ、サンドワーム!?」
「まさか、その子供がやったのか!?」
「その通りだ!!よく見ろ、このサンドワームの顔面を!!一流の剣士だってこんな芸当は出来ないだろう!!だが、この坊主はただの剣士じゃねえ!!魔法剣士だ!!」
見事に顔面が真っ二つに切り裂かれたサンドワームの死骸を見せつけると、拠点に残っていた者達も信じられない表情を浮かべる。いったいどのような手段を用いればこんな芸当が出来るのかと驚かずにはいられず、改めてエイハブはレノの肩を掴んで大声で語り掛ける。
「俺は確信した!!この坊主と俺達が力を合わせれば、数十年間を苦しめられてきた土鯨を仕留められるとな!!奴を倒せば莫大な報酬金が国から支払われる!!それさえ受け取れば俺達はこの砂漠で一番の大金持ちになれるんだぞ!!」
「倒す……あの化物を!!」
「俺の両親の仇を……!!」
「私の子供の仇を討てるの……?」
「そうだ!!俺も、お前等も、ここにいる奴等は全員があの憎い化物鯨に奪われたんだ!!俺の家族も……妻もあいつに殺された、だが奴の暴挙もここまでだ!!戦うぞ、家族の仇を取るんだ!!」
『おぉおおおおっ!!』
エイハブが拳を天に翳すと、その言葉を聞いた者達も同様に腕を上げる。その様子を見届けたレノは冷や汗を流し、自分はとんでもない事に巻き込まれようとしている事に気付く――
――その後、レノは客人として迎え入れられ、とりあえずは岩山を削り取って作り出した住居の一室に案内される。ゴンゾウとポチ子も同行し、とりあえずは彼等からこの拠点に暮らす人間達の事情を説明してもらう。
「さっきは驚いただろう。ここにいる者達は昔、土鯨に家族を殺されて行き場を失った者達が集まってるんだ」
「ちなみにあたしもそうだ……家族と一緒に砂船でムツノへ向かおうとした時、船が土鯨に襲われてあたしだけが助かった。その後、砂漠を放浪していた所を偶然にもエイハブ船長の乗っていた船に救われて世話になっているんだ」
「なるほど……そうだったのか」
レノは机を挟んでゴンゾウとポチ子から話を聞きだし、この拠点に暮らす者と船の船員たちの全員が過去に土鯨に大切な人を奪われた者達の集まり、今は「魔狩り」という組織を作り出して生活している事を知る。
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