第225話 砂漠の遺跡

「そうか……なら、悪いが買い出しを頼めるか?ここから街までは徒歩でも3時間で辿り着ける。お前の飼っている魔獣ならもっと短い時間で辿り着けるだろう。日が暮れる前に戻ってこれるか?」

「まだ昼間ですし、多分大丈夫です」

「なら、この羊皮紙に書いてある薬を買ってきてくれるか?」

「はい、分かりました」

「お、おい船長!!本当に彼一人に向かわせるつもりか?」

「この人が逃げたらどうするんだ……あいてっ!?」

「馬鹿野郎!!誰のお陰でポチ子が助かったと思ってるんだ!!命の恩人を疑うな馬鹿共がっ!!」



レノとウルに買い出しに向かわせる事に何人かが反対しようとしたが、そんな彼等に対してエイハブは怒鳴りつけ、彼等がいなければポチ子の命は助からなかった。毒を受けた時にレノがウルに乗り込んで拠点まで運んでくれた。迅速に対応してくれたからこそ、ポチ子は助かった。


ポチ子が生きているのはレノのお陰であり、ゴンゾウもエイハブも深く感謝していた。そんな命の恩人が逃げ出すなどと失礼な事を言う者をエイハブは殴りつけ、仮にレノが逃げ出しても元々彼は部外者であるため、そもそも土鯨との戦闘に巻き込む事自体がエイハブ達の都合でしかない。



「この馬鹿共の事は気にしないでくれ。もしもあんたが戻ってこなくても、俺達はあんたらを恨みはしねえ。土鯨の時も、ポチ子も助かったのもあんたのお陰だからな」

「大丈夫ですよ、逃げたりしません……俺もあの化物退治を手伝わせてください」

「おおっ、その言葉を聞けただけでも嬉しいぜ」



拠点に暮らす者達の事情を知ったレノは彼等の事は見捨てられず、もう覚悟は出来ていた。仮にレノが手伝わなくても土鯨を倒すために彼等は戦う事は明白だった。ならばレノも彼等を見捨てず、一緒に戦う事を約束する――






――その後、薬の買い出しのためにレノはムツノへ向けて出発する。広大な砂漠を迷わないように地図を受け取り、最初にレノが向かったのはムツノと魔狩りの拠点の中間地点に存在する「遺跡」だった。



「あっ、見つけた!!本当にこんな場所に遺跡があった……」

「ウォンッ……」



レノが受け取った地図には砂漠に存在する遺跡の場所が記され、この場所が丁度いい具合にムツノと魔狩りの拠点に存在するため、道標替わりに利用で来た。この遺跡はムツノの街が作り出される前から存在するらしく、少し気になったレノは遺跡の探索を行う。


遺跡といっても砂漠の中に古ぼけた大理石製の建物が建っているだけに過ぎず、建物には見た事もがない紋様が記されている。かなり前から建てられた代物らしく、建物には魔物も入ってくるので滅多に人は立ち寄らない。



「へえ、前に見た森の中で見た事がある遺跡とは違った雰囲気だな……こういう場所に入ると、少しわくわくする」

「ワフッ(子供か)」



建物の中をウルと共にレノは調べるが、特に気になる物は存在せず、休憩を兼ねて持って来た干し肉をウルと共に食べる。今頃、ネココ達がどうしているのか気がかりだが、皆が無事である事を祈る。


革袋に入れた水を飲んでいると、ここでレノは前にアルトが所持していた「吸水石」の事を思い出す。あの魔石があればこんな革袋などに水を入れなくても指輪などに取り付けて自由に水が飲めるのだが、水属性の魔石なら自分も持っている事を思い出す。



(魔法で作り出した水はすぐに消えるから飲み水にはならないけど……これのお陰で助かったな)



この砂漠に入る切っ掛けとなったサンドワームとの戦闘を思い出し、水属性の魔石のお陰でレノは窮地を脱した。もしも風属性と火属性の魔法剣しか使えなければ今頃はレノはサンドワームに捕食されていただろう。



「そういえば風属性と水属性の魔法剣は試したけど、水属性と火属性を同時に発動した事はなかったな。まあ、相性が悪い同士の属性だし、組み合うはずはないか……」

「ウォンッ?」



レノは街に向けて出発する前に試しに荒正を引き抜き、3つの属性の魔力を同時に発動して剣に纏う事が出来ないのかを試す。最初に風属性と火属性の魔力を組み合わせて「火炎剣」を発動させた後、この状態で更に水属性の魔石から魔力を引き出す。



「さあ、どうなる!?」



荒正を両手で抱えた状態でレノは3つの魔力を同時に送り込むが、直後に火炎が纏っていた刃が煙を上げて消えてしまい、熱い蒸気が噴き出す。それを見て慌ててレノは剣を手放すと、剣から蒸気が消え去り、その様子を見てため息を吐き出す。



「水属性と火属性の魔力が反発して蒸気になったのか……これじゃあ、使い物にならないな」



流石に相反する属性同士の魔力の組み合わせは不可能だったらしく、互いの魔力が相殺して結局は魔力だけを無駄に消耗してしまう事が判明した。レノはため息を吐きながらも荒正を鞘に戻し、出発する事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る