第188話 再び下水道へ

「出て来い、化物!!」

「ブフゥウウッ……!!」



檻に閉じ込められたミノタウロスは鼻息を鳴らし、自分の檻の南京錠を外したレノに視線を向けると、ミノタウロスは自分の両手と両足に力を込め、鋼鉄の枷を力ずくで破壊した。



「ブモォオオオオッ!!」

「くぅっ……!?」

「レノ、早く出てっ!!」



ミノタウロスは咆哮を放つと、扉を押し開いて外へと飛び出す。その様子を見たレノはネココの声を聞いて急いで部屋を出ると、通路の方には既に獣人族の傭兵がレノ達の後を追ってきていた。



「見つけたぞ!!捕まえろ!!」

「油断するなよ、こいつら魔法剣士だ!!」

「殺しても構わねえっ!!」



傭兵達が迫る光景を確認してレノ達はすぐに逃げ出すが、この時に傭兵が魔物が閉じ込められている部屋を潜り抜けようとした際、扉から腕が伸びてきて先頭を走っていた男の顔面を掴む。



「ブモォッ……!!」

「あぶぅっ!?」

「な、何だ!?」

「おい、嘘だろ!!どうしてこいつが……うわぁあああっ!?」



顔面を掴まれた傭兵はミノタウロスの握力によって顔を握り潰され、地面に血が滴り落ちる。その様子を見た傭兵達は悲鳴を上げるが、ミノタウロスは顔面を握り潰した傭兵を放り捨てると、通路に存在する他の人間を見下ろす。


ミノタウロスが現れた途端に先ほどまでの強気の態度はどうしたのか、傭兵達はミノタウロスを前にして怖気づき、逃走を開始する。



「ひいいっ!?ば、化物だ!!」

「何でミノタウロスが解放されてるんだよ!!」

「カトレアさんを呼べ!!こんな奴、あの人以外に抑えきれねえよ!!」

「ブモォオオオッ!!」



逃げようとする傭兵に対してミノタウロスは怒りの声を上げると、次々と傭兵を殴りつけ、掴み、投げ飛ばす。その腕力はタスクオークをも上回り、握りしめた拳の破壊力は煉瓦の壁に叩きつけるだけで亀裂が広がる。


純粋な戦闘力であればタスクオークや赤毛熊を遥かに上回り、その頑丈な皮膚は鋼鉄の剣さえも通さない。その角は刃物の如き鋭さと岩の如き頑丈さを誇り、正にこのカジノ闘技場で扱う魔物の王者といっても過言ではない――






――その一方でミノタウロスが傭兵達を相手にしている中、レノ達は通路を進んで上の階か、外へと繋がる通路を探し出す。レノの見立てではカトレアはこの通路を利用して上の階に移動したはずだが、今のところはそれらしき階段や通路は見当たらない。



「この扉は……兵士の休憩所の様ですわ」

「……こっちは倉庫、多分だけど試合に出る人間の装備品が置かれている。どれも鈍らで役立ちそうな物はないけど」

「こっちの扉は……あ、梯子だ!?」



通路のあちこちの扉を開きながらレノ達は逃げ道を探すと、ここでレノは下に続く梯子を確認した。梯子の下を確認するとかなり暗く、底の方がよく見えなかった。この時にネココは鼻を鳴らすと、彼女は嫌そうな表情を浮かべる。



「この梯子の下から酷い匂いがする……もしかしたら、下水道に繋がっているかもしれない」

「下水道?こんな場所にどうして……」

「チュチュッ!!」

「きゃっ!?れ、レノさんの胸からネズミのような鳴き声が!?」

「あ、忘れてた……リボン、出てきていいよ」



レノはリボンを懐に隠したままだと思い出し、彼女を外に出すとリボンは何かを伝えたいように梯子を指差して鳴き声を上げる。



「チュチュチュッ!!」

「え?下水道を通れば外へ繋がる場所まで自分が案内できる?」

「……そういえばネズミ婆さんの隠れ家に行くときも下水道を使っていた」

「ま、また下水道に入るんですの!?」

「他に方法はない……それに下水道なら道が入り組んでて追手を巻きやすい。逃げるならここからがいいかもしれない」



リボンの提案を聞き入れたレノは真っ先に梯子を下りると、その様子を見てネココとドリスは渋い表情を浮かべながらも自分達も後に続く。鼻が良い獣人族のネココと、貴族であるドリスにとっては下水道を通るのは精神的にきついが今は他に道はない。


梯子を下りた先は案の定に下水道へと繋がっており、どうしてカジノの地下に下水道に繋がる梯子が存在するのかと思うが、ここでレノは梯子を下りた時に通路の床に何かが落ちている事に気付く。



「何だ、これ……?」

「チュチュッ……?」



通路の床には何故かゴブリンの腕だと思われる物が落ちており、他にもコボルトの足やオークの頭などの肉体の一部が散乱していた。その様子を見てレノは只事ではないと感じ取り、周囲を警戒する。



「何か、嫌な予感がする……」

「ううっ、臭いですわ」

「……鼻がいかれそう」



レノが周囲の状況を確認する間、ネココとドリスも下りてくると、二人を見てレノは周囲に散らばっている死骸の事を話そうとした。だが、ここで梯子の上の方から物音が聞こえ、あまり長居すると兵士が追ってくると判断し、先へ急ぐ事にした。

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