第308話 行動開始
――十数名の冒険者と傭兵と共にレノ達は西側の城門から抜け出すと、南側へ向けて移動を開始した。既に時刻は夜更けを迎えており、敵が人間ならば眠気を抱いて警戒心が緩んでいるかもしれない。
しかし、今回の敵は人間ではなく魔物であり、大抵の魔物は夜行性であるため、むしろ昼間の時よりも活発的に行動している。それも考えてゴブリンキングが夜に目覚める可能性もあるため、急いでレノ達は行動を開始する必要があった。
「皆さん、ここからは出来る限り目立たずに移動しましょう……といっても、軍勢に近付けばかならず気づかれますわ。その時は覚悟を決めましょう」
「は、はい……」
「失敗したら命はないな……」
「だ、大丈夫だ。俺達には王国騎士様が付いているからな……そ、そうですよね?」
「…………」
ドリスは同行した人間の言葉に否定も肯定も出来ず、失敗すれば全員の命が危ない。だが、ゴブリンキングを倒す好機は今しかなく、もしもゴブリンキングが目を覚ませば取り返しのつかない事態に陥る。
「ネココ、どう?近くに魔物はいる?」
「……特に臭いは感じない、だけどウルとスラミンは目立つからここらで待っていた方がいい」
「クゥ〜ンッ……」
「ぷるぷるっ……」
巨体であるウルと外見が目立つスラミンは途中までしか同行出来ず、南側の城壁の傍で2匹を待機させた。万が一の場合は2匹を呼び出して助けてもらう事態も訪れるかもしれないが、ぎりぎりまで敵に気付かれなために2匹は置いていく。
遂に街の南側にレノ達は到着すると、身体を伏せながら様子を伺う。魔物の軍勢の様子を観察すると、昼間の時よりも街から離れており、ゴブリンキングは相変わらず眠りこけていた。
「……あれ?」
「どうかしたの?」
「いや、あいつら……何だか身体を休めているというか、割と眠っている奴等も多い」
「休む?夜行性の魔物は活発的に行動するんじゃないの?」
「体力を温存させているのか、それとも……」
この中では一番視力が優れているレノが魔物の軍勢の様子を伺うと、ここで意外な事に魔物達の大半が身体を休ませるように眠りこけている事が判明する。夜行性の魔物が夜に身体を休ませている事にレノ達は不思議に思うが、こちらとしては都合がいい。
もしかしたらゴブリンキングが起きる前に自分達も身体を休めようとしているのかもしれず、次に魔物達が目を覚ました時は街に一斉に襲い掛かるかもしれない。だが、その前にレノ達はゴブリンキングを仕留めるために出来る限り慎重に接近する。
(……これ以上に近付くと流石に気づかれるかもしれない。それなら、もうここからは走った方がいいかもしれない)
(よし……なら、作戦開始だ)
(上手く行くといいんですけど……)
寝静まっている魔物の軍勢とゴブリンキングに討伐隊は接近すると、ここでレノはアルトから預かった収納鞄に手を伸ばす。そして取り出したのは「酒瓶」であり、中身は以前にムツノ地方に生息するトレントの樹液から作り出された酒である。
土鯨の討伐の際にも利用した樹液をアルトが持っていたのは彼が何かに利用できるかもしれないと考え、魔狩りの元で世話になっていた時に購入した代物だった。ちなみに収納鞄に入れた物体は時間の概念を受けないため、時間経過によって樹液のアルコールが抜ける事もない。
(全員に行き渡りましたわ。これで準備万端ですわね……)
(……大丈夫、へまをしなければ必ず上手く行く)
(うん……頑張ろう)
酒瓶を人数分取り出すと、全員が緊張した表情を浮かべながらも事前に用意しておいた道具を利用し、酒瓶に布を詰め込むと火を灯す準備を行う。そしてドリスは緊張を解す様に深呼吸を一度だけ行うと、掛け声を上げる。
「今ですわっ!!」
『うおおおおっ!!』
レノ達は酒瓶の布に火を灯して「火炎瓶」を作り上げると、ゴブリンキングに目掛けて投擲を行う。この時に声に気付いた魔物達は異変に気付くが、既にゴブリンキングにの元に放たれた火炎瓶を防ぐ手段はなかった。
火炎瓶はゴブリンキングの肉体には当たらず、ゴブリンキングの周囲の地面に向けて落下し、瓶が割れるのと同時に引火性が高い樹液に火が灯り、一瞬にして炎が燃え広がる。これによってゴブリンキングの周囲は炎に包まれ、流石にゴブリンキングも目を覚ます。
「ギアッ……!?」
「目を覚ましましたわ!!仕掛けるなら今です!!」
「レノ、ドリス……雑魚は私達が抑える、だから二人はあいつに集中して!!」
「分かった……!!」
周囲が炎に包まれている事に気付いたゴブリンキングは慌てふためき、その間にレノとドリスはゴブリンキングの元に駆け出す。逃げ場を失ったゴブリンキングの元には二人が向かい、他の者達は魔物の軍勢がゴブリンキングに加勢出来ないように足止めするために動き出した。
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