第127話 最初の一歩
「……はああっ!!」
「おっ……!?」
ドリスは気合の雄叫びを放ちながら指先を突き出すと、火が灯る。小さくて軽く息を吹きかけるだけで消えてしまいそうな弱々しい火だが、それでも彼女は自分の魔力だけで火を灯す事に成功した。
自分の指先に出現した火の魔力によって構成された種火のように小さな火を見てドリスは戸惑い、すぐにレノに振り返る。レノは成功した事を伝えるように頷くと、彼女は嬉しそうな表情を浮かべて指先に出来た火を覗き込む。
「こ、これ……本当に私、自分の力だけで生み出す事が出来たのですね?」
「うん、そうだよ。それは正真正銘、ドリスさんの力だけで生み出した火だよ」
「ああ……感動ですわ」
レノの言っていた通りに魔石の力を借りず、本当に自分の魔力だけで火の魔力を操れるようになった事にドリスは喜ぶ。だが、すぐに指先に灯る火を見て落胆してしまう。
「でも、随分とちっぽけな火ですわ。これが今の私の限界なのですね」
「練習すればもっと魔力を操れるようになるよ、そうなったらきっと今以上に火の魔力を使いこなせるようになれるよ」
「そうですわね……この火の大きさが、今の私の強さその物ですわ」
指先に灯ったマッチのように弱々しい火を見ながらドリスは呟き、この火の大きさこそ自分自身の強さの投影していると彼女は感じた。ほんの少しでも風が吹き抜ければ消えてしまいそうな小さくて弱々しい火だが、それでもドリスは落ち込まない。
今の自分は確かにこの火のように弱々しい存在かもしれない、それでもドリスは確かに自分が成長したという自覚はあった。昨日まで出来なかった事が今日は出来るようになった、ほんの僅かでは一歩ではあるが、ドリスは自分が成長したのだと実感出来た事に嬉しく思う。
「レノさん、私は頑張りますわ!!もっともっと強くなって……この火が大火になるぐらいに強くなってみせますわ!!」
「その意気だよ、頑張ろうね」
「はい!!私、やってやりますわ!!必ずやあの女を越える魔法剣士になってみせますわ!!」
「……うるさくて集中できない、もう少し静かに話して!!」
「「ご、ごめんなさい……」」
離れた場所で訓練中だったネココに文句を言われ、レノとドリスはもう少し離れた場所で訓練を行う事にした――
――同時刻、王都へと帰還したセツナは任務のために外へと出向いていた。彼女は部下を連れず、山の中を移動していると、泉を発見する。馬に水を補給させようと彼女は泉に近付くと、水面を見てある事に気付く。
「……ふむ」
泉に近付いたセツナはゆっくりと水面に指先を伸ばし、水に触れた瞬間、水面に波紋が広がって水中から魚と人間が組み合わさったような生物が出現する。
「シャアアアッ!!」
「魚人か……こんな場所に生息していたのか」
地上では滅多に見かけない「魔人族」に対してセツナは感心した声を上げ、今にも自分に襲い掛かりそうな相手に対して彼女は一切身動きせずに待ち構える。そんなセツナに対して魚人は鋭い爪を振りかざそうとするが、彼女の顔面に触れる寸前で魚人の動きが止まった。
セツナの指が触れた箇所から水面が凍り付き、水中から姿を出した魚人の肉体が凍り付いていた。一瞬の間にセツナは指先から放つ自分の魔力で泉の水を凍り付かせ、水上に上がろうとした魚人をも氷結化させた。彼女はゆっくりと起き上がると、自分に襲い掛かろうした状態で凍り付いた魚人に視線を向け、刃を振り抜く。
「時間を無駄にしたな」
凍り付いた魚人の首が斬り裂かれ、地面へと倒れ込む。その様子を確認したセツナは白馬に跨ると、その場を離れる。それから時間が経過すると、セツナによって氷結化した泉が解け始め、やがて首を斬られた魚人は地面の上に上半身を倒れ込んだ。
ドリスが目標とするセツナは子供の頃からレノと同様に魔力を操作する技術を身に付け、その力は他の王国騎士達の中でも頭一つは抜けていた。若くして王都の守護を任されるだけの実力は誇り、その力は歴史に名を遺す伝説の勇者にも匹敵すると民衆から囁かれていた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます