第164話 二つ名持ちの傭兵
「ね、ネココさん!!あの方達は何ですの!?顔見知りのようですけど!?」
「……あいつらは私と同じ傭兵、しかも二つ名を持っている」
「傭兵!?では、私達を襲ったのも……」
「きっと、あいつらも傭兵……ただのごろつきにしては装備が良かった」
ドリスは自分達が襲った相手が傭兵だと知り、どうして傭兵が自分達を狙ったのかと疑問を抱く。ネココは先ほどの二人を思い出し、顔色を青くする。
「……ジャドクは毒蛇使い、奴はネズミ婆さんと同じく魔物使いの資質を持っている。あいつが操っている毒蛇も魔獣」
「魔物使い!?」
「あいつは数種類の毒蛇を従えている。その中には相手を殺すのではなく、身体を麻痺させたり、戦闘に特化した蛇もいる」
「戦闘に特化した蛇?それはどういう……」
「来たっ!!」
ネココはドリスの質問に答える前に背後を振り返って叫ぶと、ドリスは後ろを振り向いて驚く。いつの間にか屋根の上に赤色の鱗で覆われた蛇が数匹ほど存在し、普通の蛇とは比べ物にならない速度でドリスとネココの後を追う。
「シャアアッ!!」
「こいつらに巻き付かれたら振りほどく事は出来ない!!骨どころか身体が引き千切るまで締め付けてくる!!」
「引き千切る!?そんなに狂暴な蛇がいるんですの!?」
「あれは魔獣、ただの蛇じゃない!!」
飛び掛かってきた赤蛇に対してネココはドリスに注意を行い、二人は赤蛇から逃れるために地上へ向けて飛び降りる。かなりの高さはあったが、赤蛇は背後まで迫り、飛び降りるほかに選択肢はなかった。
「ドリス、しっかり掴まって!!」
「わわわっ!?」
『シャアアッ!?』
飛び降りた瞬間、ネココは蛇剣を引き抜いて再び建物の屋根に刃を突き刺し、ゆっくりと刀身を伸ばしてドリスを抱えた状態で地上へ向かう。その一方で後を追いかけた赤蛇たちは勢いあまって地上へ向けて飛び込んでしまい、派手に地面に叩きつけられてしまう。
かなりの高さだったので赤蛇たちは地面の上で苦しみもがき、その間にネココとドリスは無事に地上へと降りたつ。だが、残念ながら二人が降りた場所は街道ではなく、またもや路地裏であった。
「シャアアッ!!」
「くっ!?まだ生きてますわ、しつこいですわね!!」
「無視して!!今は逃げるのが先決!!」
高所から落下した赤蛇達だったが、すぐにネココとドリスが降りてきたのを確認すると襲い掛かろうとする。体の痛みよりも獲物を前にすると本能で飛び掛からずにはいられないらしく、二人は路地裏を駆け抜けて赤蛇から逃れようとした。
「おっと、ここは通行止めだぞ」
「うっ!?」
「あ、貴方はさっきの……もう追いついたんですの!?」
「こう見えても足には自信があってね」
しかし、街道に繋がる出入口の前には先ほどネココに襲い掛かった女性が立っていた。その女性の顔を見てネココは呟く。
「双刃の剣士、アリスラ」
「やっと名前を思い出したのかい?ネコちゃん」
「……その呼び方は止めろと何度も言ったはず」
ネココの事を「ネコ」と親し気に呼ぶ女性にドリスは戸惑い、二人がどのような関係なのかと尋ねようとした時、二人の背後から落下の衝撃から回復した赤蛇の群れが飛び掛かってきた。
『シャアアアッ!!』
「くっ!?」
「きゃあっ!?」
「ちっ……仕方ないね、頭を下げな二人とも!!」
赤蛇の群れがドリスとネココに襲い掛かる寸前、アリスラと呼ばれた女性は手にしていた剣を抱えて跳躍すると、先ほどのように刃同士を重ね合わせて「鋏」のような形に変化させると、飛び掛かってきた赤蛇に向けて刃を放つ。
「鋏断ち!!」
『ッ――!?』
空中に飛び上がった数匹の赤蛇をアリスラは一瞬の間に刃で斬り裂き、胴体を斬り裂かれた赤蛇達が地面に倒れ込む。その様子を見てドリスは驚き、ネココは冷や汗を流す。
鋏の如く刃で赤蛇を斬り裂いたアリスラは刃にこびり付いた血を振り払うと、改めて重ねていた刃を外し、二人と向き合う。その姿を見てドリスは背筋が凍り付き、ネココも蛇剣を構える。
「また、腕を上げた……?」
「そういうお前の方こそ面白い武器を持ってるじゃないか。どうだい?また昔みたいに殺し合ってみるかい?」
「な、何なんですのいったい……」
警戒するネココに対してアリスラは余裕の態度でまるで友達に語り掛けるように話しかけるが、それを見ていたドリスは二人の関係性が良く分からずに戸惑う。だが、この時に老人の怒声が路地裏に響く。
「はあっ……はっ……アリスラ!!貴様、儂の蛇をよくも殺したな!!」
「おう、爺さんか?悪いね、どうも獲物を奪われそうになると我慢できなくて殺しちまった」
ここまで走ってきたのか息切れを起こした状態ながらもジャドクは赤蛇を殺された事を怒鳴りつけると、悪びれた様子もなくアリスラは語る。そんな彼女にジャドクは激怒した。
「何を言っておるのだお前は!!儂とお前は今は同じ依頼を受けているのだろうが!!獲物を奪うも何もあるか!!」
「……同じ依頼?」
「ど、どういう意味ですの!?」
「それは答えられないね……さあ、ネコ。大人しく捕まるなら手荒な真似はしない、だけど抵抗するようなら……ここで殺すよ」
雰囲気を一変させ、真剣な表情を浮かべたアリスラは剣を構えてネココに語り掛けると、彼女の言葉にネココは舌を出して答える。
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