第121話 騎士団への勧誘

「ドリス、大丈夫かな……元気だといいけど」

「……そんなに気になる?」

「ふむ、確かに彼女の立場からすれば辛いだろうね。ありもしない功績を広められて、しかも一番弱みを見せたくない相手に助けられた形だからね」

「まあ、心配したって仕方ないさ。王国騎士の立場の人間と気軽に会う事なんて出来ないからね」



ドリスを心配するレノにネココは不思議そうに首を傾げ、アルトも少しだけ気がかりな様子だが、ネズミ婆さんは酒を飲みながら気にする必要はないと告げる。確かに王国騎士であるドリスに対してただの一般人であるレノ達では簡単に会う事も出来ず、もしかしたらもう関わり合う事もないかもしれない。


彼女がこれからどうなるのか心配しながらもレノは通行証に視線を向け、これで目的の王都までの道のりまでの問題の一つが解決される。この通行証を所持していればどんな街でも通行料を免除してもらい、場合によっては身分を証明する証にもなる。


レノが持っている通行証を特別製で国から認められた人間にしか与えられず、滅多に手にしている人間はいない。もっと言えばこの通行証は身分証としての役割もあり、これからの旅では色々と役立つだろう。



(今度、ドリスと出会う時があればお礼を言おう)



通行証を手にしたレノはドリスに心の中で感謝し、これからの旅の事を皆に話す事にした。予想外に滞在期間が長くなったが、もうシノの街に残る理由はなくなり、明日には旅立つ事を話す。



「ネズミ婆さん、アルト、俺達は明日の朝にはこの街を出るよ」

「そうか、もう次の街に行くのかい?」

「となると……ゴノに行くつもりかい?あそこは気を付けな、この街以上に危険な奴等が住み着いているからね」

「……場所が場所だから仕方ない。それに今の時期だとそういう輩が集まってる」

「えっ……どういう意味?」



次の街へ向かう事を話すと全員の顔色が変わり、その様子を見てレノは疑問を抱く。次の街に何かあるのかを問うと、3人が答える前に酒場の扉が派手に開け開かれる。



「やっと見つけましたわ!!」

「え、この声……」

「……ドリス?」



酒場に存在した客が視線を向けると、そこにはフードを纏ったドリスが存在し、彼女が現れた事にレノ達は驚くが、そんな彼等の前に彼女はやってきた。


唐突に現れたドリスにレノ達は戸惑うが、彼女はレノに視線を向け、その場で跪く。その行動に酒場に存在した者達は呆気に取られるが、彼女は地面に膝を突いた状態で頭を下げる。



「レノさんにお願い申し上げますわ!!どうか、私の騎士団に入ってください!!」

「ええっ!?」



ドリスの発言にレノは驚愕の表情を浮かべ、どうして急にそんな事を言い出したのかを尋ねようとすると、彼女は説明を行う――





――先日、黒狼の残党を捕縛した際に国側は二人の王国騎士の手柄に仕立て上げた。そのためにドリスは不本意ながらも初めて功績を残した事になり、彼女の名声は上がった。


王国騎士として恥じぬ功績を上げたという事でドリスは国王から早急に彼女に新しい騎士団を結成し、王都へ戻ってくるように促す。本来であれば王国騎士は騎士団を率いる権利を与えられるため、ドリスも例外ではなく彼女も人材を選りすぐって騎士団を結成しなければならない。


しかし、騎士団を結成する際にドリスは敵対視する相手は白狼騎士団と団長であるセツナであった。ドリスはどうしてもセツナにだけは負けられず、彼女が率いる騎士団の人材を越える逸材を見つけ出し、白狼騎士団を越える新しい騎士団を作り出す事を決意する。


白狼騎士団は王都の守護を任される程のより優れた人材が揃っているが、それに勝るか最低でも同等の人材を用意しなければドリスは白狼騎士団を越えた事にはならないと判断し、彼女は考えた末に自分と同じ魔法剣士で腕も経つレノの事を思い出す。


彼女は恥を忍んでレノを騎士団に入れるために頼み込む。恩人であるレノを自分の騎士団に配下として勧誘する事に関しては色々と思う所はあるが、それでも彼女の知る人物の中でレノ以外に白狼騎士団に所属する団員に勝る人間は心当たりがなかった。




「どうか、どうかお願いしますわ!!私の騎士団に入って下さいましっ!!」

「ちょ、落ち着いて!!足に縋りつかないで!?」

「……どうどう」

「やれやれ、大変な事になってきたね」

「全く、何なんだいあんたらは……面倒事によく巻き込まれるのはロイの奴と一緒だね」



ネズミ婆さんは目の前で騒ぎ立てるレノ達を見て呆れた表情を浮かべながらも、昔の事を思い出す。若いころのロイもレノの同様に面倒事に巻き込まれる事が多い人物だと思い出し、苦笑いを浮かべた――

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