第120話 その後……

「こちらの男の賞金です、どうぞお受け取り下さい」

「…………」

「……どうも」



リンから渡されたレノはそれを見て呆然と立っている事しか出来ず、代わりに彼の隣に立っていたネココが受け取る。リンは二人に頭を下げるとセツナの元へ戻り、ドリスに話しかけた。



「残りの者達は私達が責任を以て街まで連行します。構いませんね、ドリス様?」

「え、ええ……それは構いませんが、どうして貴方達がここへ来たのですか?それを答えなさい!!」

「ふん、国王陛下はお前の事を心配してな……わざわざ子守役として私を派遣したんだ」

「陛下が……!?」

「お前が部下も率いずに盗賊の残党を相手にさせる事に不安を感じたんだろう。だから私が手伝いに来てやったんだ、有難く思え」

「くぅっ……!!」



セツナの言葉にドリスは悔し気な表情を浮かべ、国王からの命令であるならばドリスの立場からでは文句は言えない。その表情を見て満足したのかセツナは捕まえている盗賊達を自分が連れてきた配下に連行するように命じる。



「全員、連れていけ!!」

『はっ!!』

「い、嫌だ……止めろ!!近づくなっ!!」

「頼む、許してくれ!!俺は脅されていただけなんだ!!」

「ひいいっ!?」



往生際が悪く抵抗する盗賊達を騎士達は無理やりに立ち上がらせると、強制的に連行する。その様子をレノ達は見ている事しか出来ず、最後にセツナはレノ達に振り返って告げた。



「私の代わりにこの小娘の面倒を見てくれたようだな、感謝するぞ」

「セツナ!!」

「ふっ……私は一足先に戻るぞ、残念だがお前に貸す分の馬はない」



最後にセツナはドリスを冷やかすと、騎士達と共に盗賊を連行して街へと向かう。その様子をドリスは悔し気な表情で見送る事しか出来ず、とりあえずはレノ達も彼等の後に続いて徒歩で街に帰還する事になった――






――後日、黒狼の残党は二人の王国騎士によって壊滅されたという噂が国中へと広まる。その内容は黒狼の隠れ家を見つけ出したのが「黄金の騎士」であるドリスであり、その彼女と協力して共に黒狼の残党を討ち取ったのが「白銀の騎士」として名だ高く、白狼騎士団の団長であるセツナであると語られた。


実際の所は白狼騎士団は盗賊の連行をしただけに過ぎず、黒狼の残党を壊滅させたのはドリスではなく、レノ達の力である。だが、この真実を知る者は当事者と被害者である盗賊達しか知らず、その盗賊達も即刻に処刑される。


黒狼に属していたとはいえ、彼等の中には5年前に存在した黒狼とは何の関係もない人間が大半だった。しかし、盗賊に身を落として人々に迷惑を掛けたという理由から即座に彼等の処刑は決行された。実際の所は広まった噂の真偽を明かすわけにはいかず、早急に国が処分を判断したに過ぎない。


そして今回の件の真の功労者であるレノ達の手柄は公表されず、その代わりに口止め料代わりなのか彼等全員に大金が支給された。また、国内の街ならば自由に通り抜ける事が出来る特別通行証も発行され、この通行証を見せればもう街に入るための通行料を支払う必要はなくなった。



「たくっ、あんたらのせいでとんでもない事に巻き込まれたね」

「ちょっと待ってください、僕も巻き込まれた側ですよ」

「……でも、お陰で儲かった。こんな大金、滅多に手に入らない」

「そうだね……でも、なんだかすごい事になったね」



黒狼の残党が壊滅してから数日後、レノ達はシノの街の酒場に集まって目の前に置かれた袋に視線を向ける。中身は金貨が数十枚入っており、今回の件を他言しない事を条件に渡された国からの支給金だった。


レノは目の前に置かれた大金に対して思う所は色々と会ったが、他の3人は割と嬉しそうな表情を浮かべ、アルトの方も有難そうな表情を浮かべる。



「いや、本当に助かったよ。奴等に奪われた僕の荷物も回収されて検分が終わるまでは返してくれないから、危うく一文無しになる所だった」

「まあ、私としては今回の件が公にならないのは都合がいいね。この程度の口止め料で情報屋の口を塞ぐのは少し不満だけどね」

「……私は大満足、これだけあれば色々と出来る」

「…………」



3人の喜ぶ顔を見てレノは自分の前に置かれた通行証に視線を向ける。実はレノだけは支給金の他に通行証を発行して貰っている。理由としてはドリスが口添えしたらしく、彼がいなければ盗賊団の頭を捕まえる事は出来なかったと報告してくれたらしい。


この数日の間は色々と取り調べを受けたりしてレノ達も自由に行動は出来なかったが、改めて旅を再開する事が出来る。それは喜ぶべき事なのだが、レノが気がかりなのはドリスの事だった。



(ドリス、落ち込んでないといいけど……)



今回の一件は世間ではドリスとセツナの手柄として伝わっているが、実際の所はドリスは人質として捕まり、何も出来なかった事に激しく落ち込んでいた。結局はレノに助けられなければドリスは今頃は殺されていたか、最悪の場合は辱められていたかもしれない。レノ達に合わせる顔がないのか彼女はまだこの街に滞在しているはずだが、ここ最近は顔を合わせていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る