第119話 白銀の騎士セツナ
「ふん、久しぶりに会ったというのに随分としけた顔をしているな、ドリス?」
「むっ……そういう貴方の方こそ、胸が小さくなったのではありませんか?あら、ごめんなさい。私の方が大きくなったのですわね」
「なっ……ふ、ふん、そういうお前の方こそ、頭に回る分の栄養も胸に回ったんじゃないのか?」
「何ですって!?」
「やる気か!?」
「二人とも、お辞め下さい!!」
ドリスとセツナは互いに睨み合うと火花を散らし、腰に差した剣を引き抜こうとする。それに対してセツナの傍に控えていた少年の騎士が間に割って入り、喧嘩を始めようとする二人を引き留めた。
「落ち着いて下さいセツナ様!!それにドリス様も……我々がここへ来た理由をお忘れですか?」
「リン、邪魔をするな!!この無駄乳女を調子に乗らせるわけにはいかん!!」
「無駄乳!?聞き捨てなりませんわ!!」
「いい加減にしてください!!」
リンと呼ばれた少年が一括すると、セツナとドリスはその迫力に押されて引き下がるが、互いに睨み合うのを止めない。一方でレノ達は何が起きているのか分からずに困っていると、ここでリンが彼等に気付いたようにドリスに尋ねた。
「ドリス様、この方達は……」
「……この方達は協力者ですわ。彼等のお陰でこうして黒狼の残党を捕まえる事ができました」
「ほう、こいつらが黒狼とやらか……」
「貴様……よくも俺達の前に顔を現せたな!!」
セツナが黒狼という言葉を聞いて盗賊達に振り返ると、チェンが真っ先に彼女に怒声を放つ。彼からすれば5年前、組織の潰滅の切っ掛けとなった少女を前にして冷静でいられるはずがない。
自分を睨みつけるチェンに対してセツナは冷めた表情を浮かべ、捕まっている他の者達の様子を伺い、ため息を吐き出す。
「こんな奴等が我が白狼騎士団の名前の由来となった黒狼の残党だと?興ざめだ、帰還するぞ、リン!!」
「はっ!!」
「な、何だと……ふざけるな!!俺達がお前等のせいでどんな思いを……」
「黙れ」
チェンはセツナの言葉に激高するが、そんな彼に対してセツナは鋭い視線を向けると、少女が発するとは思えないほどの威圧感にチェンは押し黙る。傍に立っていたレノ達でさえも咄嗟に身構えるほどの殺気を放ったセツナにチェンは身体を震わせた。
「黒狼と白狼騎士団の関係は私も聞かされている。だが、はっきりと言ってやろう。お前達には同情の余地はない」
「ふ、ふざけ……」
「お前等のせいでどれだけの命が奪われた?どれほどの人間が苦しめられた?挙句の果てに盗賊に身を落とし、今尚も民衆に害を為すお前達はただの害虫だ。いや、それ以下の存在だ」
淡々とした口調でセツナは縛られているチェンに語り掛け、その彼女の瞳を見てチェンは言いようの知れない恐怖を抱き、他の盗賊達も震え上がる。雰囲気が変化してきた事にレノ達でさえも不安を感じ取り、距離を取ってしまう。
「――せめてもの情けだ、この私の手でお前達を捌く」
セツナは腰に差していた剣を抜くと、銀色の刀身が露となり、その剣の柄には青色に光り輝く魔石が嵌め込まれていた。彼女は剣を構えると、何の躊躇もなくチェンの胸元に目掛けて突き刺す。
「逝け」
「がはぁっ……!?」
心臓を一刺しで貫いたセツナの姿にドリスは声を上げるが、直後に異変が発生した。剣が突き刺された箇所から徐々に肉体が氷結化し、刃を引き抜かれるとそこにはチェンの氷像が立っていた。
その氷像に対してセツナは剣を構えると、一太刀を浴びせる。その結果、衝撃を受けた氷像は全身が砕け散り、地面に崩れ落ちる。その光景を見て他の盗賊達は悲鳴を上げ、レノ達も何の躊躇もなくチェンを殺したセツナを見て震え上がる。
「ふんっ……どんな悪党でも、最後の散り際だけは美しいな。リン、そうは思わないか?」
「はい、セツナ様のおっしゃる通りです」
セツナは氷像が砕け散った時、氷が四散する際の光景を見て満足そうに頷くと、リンへ振り返る。リンはその言葉に無表情で頷き、改めてドリス達に振り返る。ドリスはセツナの行動を目にして眉をしかめ、何故殺したのかを尋ねた。
「どうして、殺したんですの?無抵抗の相手を……」
「何を言っている?ああ、お前の手柄を横取りするつもりはない。ちゃんと陛下には報告しておいてやる、王国騎士のドリスが黒狼の残党を始末したとな」
「そういう意味ではありませんわ!!」
「何をそんなに怒っている?ああ、そういえば協力者がいると言っていたな。この男を捕まえたのはそちらの者達か?リン、この男は賞金首か?」
「はい、その通りです」
「それなら今ここで賞金を立て替えてやれ、それなら文句はないだろう?」
リンはセツナの命令を受けて手配書の確認を行い、その中からチェンの顔を確認すると表記されている金額の賞金を確認して小袋に詰めると、近くに立っていたレノに手渡す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます