第118話 白狼騎士団
「――さてと、こいつらはどうするべきかね。流石にこれだけの人数となると、街まで運び込むのは難しいね」
「街から兵士を呼んでここまで迎えに来させるしかないだろうね。それまでは彼等の見張りを行うしかないか」
「……これで私達も命を狙われる事はなくなる」
「うん、やっと安心できるよ」
レノ達は捕まえた盗賊達に視線を向け、彼等を街の警備兵に突き出せば全てが終わる。カトレアだけは取り逃がしてしまったが、どうやら彼女は黒狼に所属していたとはいえ、別に他の人間と違って黒狼という組織に強い思い入れがあるわけではない事が判明した。
ロンと同様に黒狼に所属する幹部といっても全員が国に対して復讐心があるわけではなく、あくまでも国への復讐を誓っていたのはチェンとヤンとロウの3人だけだと判明する。
カトレアとロンは能力的に優れていたので二人を引き込んだが、そもそもロンは彼等を裏切って王国騎士のドリスと取引を持ち掛けて自分だけは助けてもらうとしたし、カトレアに至ってはあっさりとチェンたちを見限って姿を消した。
「ドリスもこれで堂々と帰れるね。黒狼の残党を捕まえれたし、良かったね」
「……いえ、私は何もしていませんわ。結局、私は人質になってレノさん達に助けられただけ、私は何の役にも立ちませんでしたわ。今回の一件は全てレノさん達の手柄です。私は任務を果たす事が出来なかった」
「まあ、それはそうかもしれないね」
今回の一件ではドリスは黒狼の残党に対して何も出来ず、むしろ人質として捕まってしまい、役に立つどころか足を引っ張ってしまった。だが、彼女が捕まったのもレノ達に責任があり、彼女の作戦に反対せずに二人も賛同し、結果的には敵に逆に罠に嵌められてしまった。
ドリスが尾行されている事はレノ達も気づいていたが、それを早く報告しなかったために彼女は捕まってしまった。もしもあの時に別の行動を取っていればドリスが捕まる事もなかった可能性もある。だが、それを言ったところでドリスは納得するはずがなく、彼女は取り戻した装備の中からペンダントを取り出す。
「……このペンダントは王国騎士のみに装備が許される物ですわ。このペンダントを失った時、王国騎士の位は剥奪される程に大切な物です」
「へえっ……随分と綺麗なペンダントだね。そいつは魔石かい?」
「聖光石と呼ばれる特殊な魔石ですわ。私が国王様から直々に受け取った大切な物ですが……今はこれを身に付ける資格は私にはありませんわ」
ペンダントを手にしたドリスは悔し気な表情を浮かべ、黙って自分の首にかける事はせず、懐へと戻す。そんな彼女にレノ達はどのように声を掛ければいいのかと迷っていると、ここでネココが猫耳を立てる。
「待って……何かが近付いてくる、しかも凄い数の馬の足音」
「何だって!?あんたら、まだ仲間がいたのかい!?」
「えっ!?いや、違うぞ!?俺達は何も知らない!?」
ネココの言葉を聞いてネズミ婆さんは驚いた風に盗賊達に視線を向けるが、彼等は慌てて首を振る。それならば近付いてくる大量の馬の足跡の正体は何なのかとレノ達は身構え、ネズミ婆さんは口笛を吹いて鼠達を周囲の建物へと隠れさせる。
やがて現れたのは白馬で統一された騎馬隊がレノ達の視界へと入り、その数は100名は存在した。そして戦闘を走るのは銀色の鎧を身に付けた少女を見ると、ドリスの顔つきが一変した。
「あ、あれは……!?」
「ドリス?どうしたの?」
「……白狼騎士団ですわ!!」
「何だって!?」
白狼騎士団という言葉に全員が衝撃を受けた表情を浮かべ、一方で捕まっていた盗賊達も目を見開く。特にチェンは前方を走る少女を目にして身体を振るえさせ、怒声を放つ。
「お前がっ……お前さえいなければぁっ!!」
「お頭!?」
「落ち着いて下さい!?」
縄で縛られた状態でチェンは暴れ狂い、その様子を確認したのか駆けつけてきた先頭を走っていた少女は後列の騎馬隊に手を上げると、速度を落としてレノ達の前に立ち止まる。そんな彼等の前にドリスは前に出ると、白馬に跨った少女に語り掛ける。
「お久しぶりですわね……セツナ」
「ふっ……相変わらず元気そうだな」
白馬に跨ったまま少女はドリスを見下ろすと、やがて馬から降り立ち、改めてドリスと向かい合う。少女はドリスにも負けず劣らずの美貌を誇り、その姿を見たレノが見惚れる程だった。
――少女の容姿は煌めく銀髪の髪の毛を腰元まで伸ばし、宝石を想像させる美しい紫色の瞳、人形のように整った顔立ち、ドリスほどではないが大きな胸元、くびれた腰つき、年齢の方はドリスと同じくらいだと思われた。
彼女もドリスと同じように公爵家の令嬢で王国騎士の位を授かり、更には兄の跡を継いで白狼騎士団の団長を務めている。名前は「セツナ・リルフェン」王都の守護という大任を任されている彼女がこの場所に現れた事にレノ達は動揺する。
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