第97話 ドリスとの和解
――その後、すぐに酒場には警備兵と街で経営を行う薬剤師がかき集められ、ロンが使用した麻痺毒に侵された人間達の治療が行われる。幸いにもロンが所有していた解毒薬もあり、彼本人から聞き出した解毒薬の調合法を聞き出して薬剤師達がすぐに治療に取り掛かった。
レノ達に関しては自分達は毒薬師に襲われた事、それを返り討ちにした後に建物内の毒煙を外に排出させた事を説明すると、ドリスは自分の勘違いでレノに仕掛けた事を謝罪する。
「この度は私の勘違いで大変な迷惑を掛けてしまい、誠に申し訳ございません!!」
「い、いや……別に誤解が解ければいいんですよ」
「そういうわけにもいきませんわ、もしも私が勘違いで貴方に怪我をさせていたと思うと……!!」
「まあ、別にあんたもこいつも怪我をしてないならいいじゃないかい」
ドリスはレノに対して何度も頭を下げ、自分の勘違いで剣を向けた事を謝罪する。そんな二人に対してネズミ婆さんはロンから聞き出した情報を話す。
「それよりもあいつから聞き出した情報を共有するのが先だよ。あんたもよく聞きいておきな、奴等の本当の狙いをね」
「狙い?」
「敵が狙っているのはこの王国騎士じゃないの?」
「えっ!?私、狙われてますの!?」
ネズミ婆さんの言葉にレノとネココは不思議に思い、一方でドリスは黒狼から命を狙われていると知って驚いた反応を浮かべる。
ネズミ婆さんの話も気になるが、その前にレノはどうしてドリスが黒狼の情報を収集するためにこの街に訪れたのかを尋ねた。
「そういえば王国騎士さんはどうして黒狼の事を調べてたんですか?」
「あの、ドリスで結構ですわ。ご迷惑をお掛けしましたし、敬語もいりません」
「……分かった。ならドリスの目的を先に教えて欲しい」
「えっ!?そ、そうですわね……」」
ドリスはレノに対して自分が王国騎士だからといって妙に気遣う必要はないと告げたのだが、ネココが真っ先に自分を呼び捨てにして用件を尋ねてきた事に戸惑う。だが、特に気分を害したという様子でもなく、彼女は自分がこの街に赴いた事情を話す。
「実は私はある御方から命令を受け、この街に潜伏しているという黒狼の残党の調査に赴いていました。本来ならば他の騎士が任されるはずの任務でしたが、色々と事情があって私が出向いてきましたの」
「へえ、そうだったのかい。昨日はどうして教えてくれなかったんだい?」
「……情報屋の方にペラペラと自分の素性は話せませんわ。他の人に情報を売られたら困りますもの」
「なるほど、意外と頭が良いじゃないかい。確かにその考えは間違っていないね」
ネズミ婆さんがドリスに対して茶化すような態度を取るが、そんな彼女に対してドリスは鎧越しでも分かる程に大きな胸を張って告げる。
「当然ですわ!!こう見えても私、結構頭は切れる方だと自覚していますわ!!」
「……その割には勘違いでレノに襲い掛かったくせに」
「あうっ……」
ドリスはネココの一言に縮こまり、そんな彼女を見てレノは戸惑う。国内でも数名にしか与えられない「王国騎士」という位を与えられる程の人物なのだから冷静で頭も切れて歴戦の強者のような風格を漂わせる人物だと思っていた。
しかし、実際に会って話してみるとドリスは想像していた人物像とは大きくかけ離れ、何となくであるが接しやすい人物だった。年齢が近いという理由もあり、レノは彼女が騎士だからといって気負いはせずに話す事が出来た。
「ドリスさ……いや、ドリスは自分が黒狼から狙われている事は知らなかったの?」
「全く知りませんでしたわ……だって、私がここへ来たのは昨日の話でしかも黒狼の事を調べ始めたのも昨日の夜からですわ。何時の間に黒狼に私の存在を知られたのか……」
「あんたね……そんな目立つ格好をした奴が情報収集なんて無理があるだろう。しかもあんたは王国騎士なんだよ?自分がどれだけ目立つ存在なのか理解していないのかい?あんたが街にやってくるなんて情報はあたしだって一週間も前に知ってたよ」
「そ、そんなに前から!?」
王国騎士の位を与えられているドリスは自分がどれだけ目立つ存在なのか自覚しておらず、ネズミ婆さんの言葉を聞いて衝撃の表情を受ける。そんな彼女にレノとネココは呆れるが、それでも実力に関しては確かだった。
(あの爆炎剣という技……まともに受ければ危なかった)
ドリスが繰り出す「爆炎剣」なる魔法剣の威力はレノが生み出す「火炎剣」をも上回り、彼女が本気を出せば恐らくはレノ達が苦労して倒したトレントを相手にしても負ける事はないだろう。
爆炎という言葉通りに剣に触れただけで激しい爆発を引き起こし、最初にドリスが手加減した一撃を繰り出した事でレノは助かったが、最初から彼女が本気で攻撃を仕掛けていたらレノは倒されていたのは間違いない。
二度目の攻撃の時はどうにか魔法剣を逆に吸収する事に成功したが、同じことをもう一度やったとしても確実に成功させる自信はレノにはない。少し抜けている所もあるが、その強さは間違いなく本物であった。
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