第98話 公爵家の令嬢暗殺未遂
「それで、あんたは誰から命令を受けたんだい?」
「そこまでは教える事は出来ませんわ。それよりも私の事はともかく、本題に入ってくれませんか?情報料は前払いで既に渡しましたわよ?」
「おっと、そうだったね。だけど、こいつらにも聞かせていいかい?あんたと同じようにこいつらも色々とあって黒狼の残党から命を狙われていてね」
「この御二人も……?」
ドリスはネズミ婆さんの言葉を聞いて不思議そうな表情を浮かべ、そんな彼女にレノ達はこれまでの経緯を軽く話す。自分達が黒狼の残党であったロウをという男を捕まえた事、そして昨夜にヤンを捕まえて拘束している事まで話す。
「ロンだけではなく、あのロウとヤンを捕まえた!?それは本当ですの!?」
「はい、といってもロウの方はもう自害したらしいですけど……」
「確かにその話は聞いていましたが、まさかロウを捕まえた相手が貴方達だったとは……」
「ヤンの方は私が捕まえているよ。後であんた達に引き渡す、隙を見せれば自害しようとしてくるから気を付けな」
「そうですか……王国騎士としては賞金首を捕まえて警備兵に引き渡さない事には色々と言いたい事はありますが、この際は目を瞑りますわ」
「お、中々話が分かるじゃないかい。それじゃあ、そろそろ本題に入ろうか……といっても何処から話すべきかね」
ネズミ婆さんがロンを脅して聞き出した情報は色々とあり、まずは5年前に壊滅された黒狼の残党同士がどうやって集まって何の目的で手を組んだのかを語り始めた――
――切っ掛けは5年前、傭兵団である黒狼の団長が死亡し、その後の派閥争いによって勢力は激減、組織は以前のような勢いを失う。二代目に就任した新しい団長はそれでも組織を維持するためにあらゆる手段を模索した。
二代目に選ばれた男の名前は「モルド」という名前で先代の団長の弟分だった。先代が生きていた時は副団長を任せられるほどの人望はあったが、肝心の実力の方は兄には遠く及ばなかった。
傭兵団の頭をやる人間に荒くれ者ばかりの傭兵をまとめ上げる「力」そして他者から慕われるカリスマ性が必要不可欠だった。しかし、モルドの場合は傭兵としての実力は兄に遠く及ばず、求心力の方も兄と比べたら低かった。それでも彼なりに組織をまとめ上げようと努力を行い、結果から言えば組織の解散を免れたのはモルドの人徳のお陰である。
しかし、勢力が大きく削られた事も事実であるため、黒狼の名声は落ちてしまい、国からの信頼も失い始める。モルドは色々と苦心した末、団員達を養う金を得るために裏稼業を行う。
まだ国との繋がりが立たれる前にモルドは王国の貴族の中でも有力な存在に取り入り、彼等から暗殺の依頼を引き受けて実行する。結果的には貴族から多額の報酬と引き換えに彼等が快く思わない存在を抹消していく。
この試みは意外な程に上手く行き、勢力は減ったといっても黒狼は元は傭兵団の中でも最大級の組織であったため、腕前は一流の傭兵は数多く存在した。しかし、組織の運営が上手く行っていたのは最初の方だけで半年も経過すると状況は一変する。
ある時にモルドはとある人物から暗殺を依頼され、その依頼対象が何と公爵家の令嬢だった。誰がどのような理由で公爵家の令嬢の命を狙うように指示したのかは不明だが、相手が公爵家というだけはあって流石のモルドも躊躇した。
しかし、依頼した人物は暗殺を引き受けなければ黒狼が裏稼業を世間に晒すと脅され、仕方なくモルドは依頼を引き受けたという。ここまでの話をロンはモルド本人から聞かされていたという。この時のロンは黒狼専属の薬剤師としてモルドとはよく話をすることがあったという。
その後、相手が公爵家の令嬢というだけはあってモルドも慎重に動き、そして最善の機会を待った。全ての準備を整うとモルドは信頼する部下に暗殺を命じたが、結果は失敗に終わる。しかも失敗の理由が送り込んだ暗殺者が令嬢に「返り討ち」にされた。
暗殺対象に狙われたのは後にドリスと同じように王国騎士の位を与えられる少女であり、僅か11才という年齢で公爵家の令嬢は暗殺者を打ち破る。すぐに公爵家は暗殺者の遺体から素性を調べ上げ、そして犯人が黒狼に所属する傭兵団だと判明する。
仮にも公爵家の令嬢が狙われたとなれば流石に国側も黙っていられず、すぐに黒狼の調査が行われ、そして彼等が裏稼業で暗殺を行っていた事が発覚した。それを知った貴族達はすぐに国王に黒狼の殲滅を申し出ある。彼等の中には黒狼との繋がりを持つ貴族も存在し、自分の悪事が暴かれる前に黒狼を殲滅するように申し出た。
国王はすぐに黒狼を傭兵団ではなく、盗賊団と認定して討伐するように騎士団に命じる。その騎士団を率いていたのは襲われた公爵家の令嬢の兄であり、自分の妹を狙われたと知った兄は怒りに燃えて黒狼の殲滅を実行した。
ロンは事前に黒狼が狙われている事を知って騎士団が派遣される前に身を隠していたが、他の黒狼の面子は逃げ切れず、騎士団によって次々と討ち取られた。騎士団から難を逃れた物は数名しか残らず、他の者達は一人残らず捕縛される。
当然ではあるが団長であるモルドは処刑され、所属していた傭兵達も犯罪者として取り扱われ、今尚も監獄で収監されている。但し、暗殺稼業には関わっておらず、改心の見込みがある者は厳罰を許された。だが、事前に逃げ出していたロンは彼が裏で傭兵を利用して毒薬の実験に使っていた事も発覚し、捕まれば死刑は免れないために今まで身を隠していたという。
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