第280話 ゴブリンの襲撃
「……見つけた!!そこかっ!!」
「きゃっ!?」
レノは弓を取り出すと、魔弓術を発動させて矢を放つ。風の魔力を宿した矢は一直線に隠れている敵の元へ近づき、見事に撃ち抜く。
「ギィアッ!?」
「この声は……ゴブリンか!?」
『ギィイイイッ!!』
草原のあちこちからゴブリンの集団が出現し、それを見たレノ達は戦闘態勢に入った。すぐにレノは新しい矢を装填し、次々と迫りくるファングの群れに対して矢を放つ。
「吹き飛べっ!!」
「ギャウッ!?」
「ギィアッ!?」
「ギギィッ!?」
風の魔力を宿した矢は的確にゴブリンの急所を貫き、回避しようとした個体も矢が軌道を変化させて確実に身体を貫く。レノの魔弓術は自由自在に軌道を変化させる事が出来るため、下手に避けようとすれば逆に命取りとなる。
更に魔力を強めに込めれば衝突の際に矢に纏った風の魔力が拡散し、衝撃波を生み出す。それによって一度に複数の敵を吹き飛ばす事に成功し、次々とゴブリンは討ち取られていく。
「す、凄いですわ……この調子なら、私達の出番もないのでは?」
「……私達が動く暇もない」
「流石はレノ君だ」
「いや、皆も手伝ってよ!!矢も無限にあるわけじゃないんだからさ!!」
「ウォオオンッ!!」
レノが矢を撃ち続けて次々とゴブリンを蹴散らす中、ウルは咆哮を放つ。するとゴブリンの群れは白狼種の気迫に一瞬だけ、怯えた表情を浮かべるが、すぐに雄たけびを上げて襲い掛かる。
『ギィイイイッ!!』
「ウォンッ!?」
「……ウルの鳴き声を聞いても逃げようとしない。こいつら、普通のゴブリンじゃない」
大抵のゴブリンならばウルが鳴き声を上げるだけで怯えて逃げ惑うのだが、明らかに恐怖を抱きながらもゴブリン達は引く様子はなく、レノ達に向けて駆け出す。その様子を見てネココは疑問を抱き、一方でレノの方も矢が底を着きようとしていた。
「くそ、もう矢が切れた!!ここからは剣で戦うしかない!!」
「やるしかありませんわね!!レノさん、合体技ですわ!!」
「アルト、私達もやる」
「お、遂にあの薬を使う時が来たのかい?」
レノはドリスと共に魔法剣の準備を行うと、ネココはアルトに視線を向けて蛇剣を差しだす。すぐにアルトは鞄から瓶を取り出すと、その中身を刃に垂らし、火を用意する。
「準備は出来たよ」
「……火炎蛇剣!!」
「えっ!?」
ネココの蛇剣が火を纏うと、彼女は刀身を伸ばしてゴブリンの群れに放つ。蛇のように伸びた刃はゴブリンの群れへと襲い掛かり、刃の先端の部分は炎を纏っていた。
蛇剣の刃で切り裂かれるだけではなく、炎の熱によってゴブリンは火傷を負い、悲鳴を上げて逃げ惑う。アルトが事前に刃に塗りつけたのは可燃性が非常に高いトレントの樹液から作られた酒であり、実は砂漠に出る前に調達した代物だった。
「す、凄いですわ!!まるで魔法剣ですわ!!」
「……ふっ、これからは私も魔法剣士を名乗ろうかと考えている」
「それは止めておいた方がいいよ。だって、そろそろ……あ、消えた。やっぱり、長続きはしないか」
刃に炎を纏わせたといっても、それはあくまでも刃に溢した樹液が引火しただけに過ぎず、レノの「火炎剣」と違って長続きはしない。時間的には10秒足らずで蛇剣に纏っていた炎は消え去り、元の状態に戻ってしまう。
「やっぱり、長続きはしないか……もう少し実験が必要だね」
「……問題ない、それなら普通に斬るだけ」
『ギィアアアッ!?』
ネココは蛇剣を振り払うと、伸びた刃は次々と敵を切り裂いていく。だが、ここでゴブリンの中から人間から奪ったと思われる盾を身に付けた個体が登場し、盾を利用してネココの蛇剣を弾き返す。
「ギギィッ!!」
「くっ!?」
「盾!?そんな物も持っていましたの!?」
「皆、気を付けろ!!どうやらこいつらただのゴブリンじゃない、ホブゴブリンも混じっているようだ!!」
「ホブゴブリン!?」
ゴブリンの中には通常のゴブリンよりも大きく、成人男性並みの慎重と体躯を誇る大柄なゴブリンも含まれていた。ゴブリンの上位種である「ホブゴブリン」も混じっていたらしく、しかも武装していた。
以前にレノは商団を襲っていたホブゴブリンを倒した事はあるが、あの時は2体のホブゴブリンしか存在しなかった。しかし、今回は10体近くのホブゴブリンが存在し、しかも中には全身を鎧で纏った個体も存在した。
『グギィイイイッ!!』
「ほ、ホブゴブリンの群れ!?」
「……こいつら、厄介」
「グルルルッ……!!」
武装したホブゴブリンの集団の登場にドリスは驚き、ネココは舌打ちを行う。ウルも威嚇の鳴き声を上げる中、一方でレノは弓を背中に戻すと荒正に手を伸ばしかけるが、ここで何かを思いついたように蒼月も手にする。
右手に蒼月、左手に荒正を握りしめたレノはホブゴブリンの集団に視線を向けると、今まで試した事はないが両手に持つ二つの武器に魔法剣を発動させ、二つの刃に風の魔力を纏わせた。
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