第279話 黒い箱
「ん?お腹空いたわけじゃない?なら、何が気になるんだ?」
「ウォンッ!!」
「あっちの方?あっちに何か見つけたの?」
ウルはレノの服の袖に噛みつき、こっちに来いとばかりに引き寄せる。食事の途中ではあるがレノは仕方なくウルが何を見つけたのか調べるために向かう。
「皆はここで待ってて、すぐに戻ってくるから」
「……いってらしゃい」
「気を付けて下さいね」
「すぐに戻ってくるんだよ」
「ぷるんっ」
レノはウルに連れられるままに移動すると、その後にスラミンも続き、どうやら食事を終えて暇なのかウルの背中に飛び乗る。レノはウルが何を発見したのかと興味を抱くと、彼は野営地から少し離れた場所に存在する地面を叩く。
「ウォンッ!!」
「どうしたウル?この下に何か埋まっているのか?」
「ガウッ!!」
ここを掘れとばかりにウルは地面をばんばんと叩き、その様子を見てレノは不思議に思いながらも地面の様子を伺う。よくよく観察するとこの場所の地面だけが何故か掘り起こされたような跡が存在し、誰かが地面を掘った後、再び埋め直したような印象を抱く。
地面の異変に気付いたレノはウルとスラミンを下がらせると、蒼月を抜いて刀身に魔力を込める。すると即座に刀身に「竜巻」を纏わせる事に成功し、それを利用してレノは地面に刃を押し当てる。
「二人とも下がってろ……はあっ!!」
「キャインッ!?」
「ぷるるんっ!?」
竜巻の力を利用してレノは地面を強烈な風圧で掘り起こし、まるで削岩機のように地面の土砂を削り飛ばす。その結果、大量の土砂が周囲に散らばり、ウルとスラミンは悲鳴を上げて離れる。
やがて地面がかなり掘り起こされると、ここでそこの方に何やら黒色の箱のような物が出現し、それに気づいたレノは蒼月に纏わせた竜巻を掻き消すと、箱を取り出す。大きさは50センチほど存在した。
「何だ、この箱……?」
「レノさん、何事ですの!?」
「凄い音が聞こえたよ!!」
「……敵?」
騒ぎを聞きつけたドリス達も駆けつけると、彼女達はレノが穴の中から黒色の箱を取り出そうとする場面を見て驚き、すぐに全員が箱の前に集まって覗き込む。
「これは……何だい?」
「箱、ですわね」
「ネココ、何か分かる?」
「……黒い箱」
「ウォンッ(見ればわかるよ)」
「ぷるんっ(こんな時にふざけないでよ)」
ネココの言葉にウルとスラミンが突っ込みを入れ、彼女の頭の上にウルは顎を乗せ、その上にスラミンも乗り込む。ペット達に頭に乗り込まれたネココは少し重たそうな表情を浮かべ、とりあえずは箱の様子をもう少し詳しく調べる。
「……この箱、只の箱じゃない。金属製で蓋の部分が溶接されている」
「溶接?では、開く事は出来ませんの?」
「無理やりにこじ開けるしかない……でも、蓋を溶接するぐらいだから普通じゃない。よほど何かを隠したいのか、あるいは封じ込めたい物が入っているのかもしれない」
「なるほど、迂闊に開けるのは危険か……ん?この紋章は……」
「どうかしたの?」
アルトは箱の表面に刻まれている紋章に気付き、首を傾げる。何処かで見覚えがあり、前に読んだ本の中にこれと同じ紋章が刻まれていた事を思い出す。
「この紋章、前に本で見かけたことがあるな……だが、よく思い出せない。前に見た事あるのは確かだ何だが……」
「この紋章、髑髏に蛇が巻き付いていますわね……いかにも怪し気ですわ」
「もしかしたら呪われた品物かもしれない……ここは見なかった事にして埋め直す?」
「う〜ん……」
レノはウルが見つけた金属製の箱に視線を向け、どのように対処するべきか悩む。だが、ここで何か異変を察したのかウルとネココの鼻がぴくりと動き、周囲を警戒する様に視線を向ける。
「グルルルッ……!!」
「この臭い……気を付けて!!」
「て、敵ですの!?」
「魔物かい!?」
微かに感じた臭いにネココとウルは反応し、即座にドリスとアルトも周囲を警戒した。レノも蒼月を構えて周囲を観察し、人並外れた視力で辺りの様子を伺う。
丁度レノ達が存在するのは丘の上であり、見晴らしが良い場所に立っている。逆に言えばレノ達も周囲から目立つ場所に立っている事を意味しており、背中に抱えていた弓を取り出す。
(何処だ?何処にいる?そうだ、あの時の様に……)
レノは「無音剣のキル」と呼ばれる敵と戦った事を思い出し、この敵は完全に存在感を消す事で透明人間のように相手に認識されず、襲い掛かるという厄介な能力を身に付けていた。その能力を破る際、レノは風の魔力を周囲に拡散させる事で風の流れで敵の位置を探る方法を身に付けた。
一流の武芸者は「心眼」という能力を扱い、心の眼で敵の位置を探ると言われている。だが、レノの場合は心眼とは異なり、聴覚や触覚を研ぎ澄ませて相手の位置を探る。
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