第233話 家族の仇
「ドルトン、修理はどうなっている!?」
「夜明けには終わらせる!!だが、これが最後だ!!もうこの船は限界だ、持たないぞ!!」
「そうか……よし、なら今日はもう休むぞ!!明日の朝、出発だ!!」
『おうっ!!』
「兄ちゃん達の部屋はこっちだ、あたしに付いて来いよ」
修理を行うドルトンから話を聞いた船長は明日に備えて船員たちに休むように促すと、レノ達も部屋まで案内される。最初はゴンゾウとポチ子の部屋に案内されたが、人数が増えたのでわざわざ新しい部屋を用意してくれた。
「ほら、ここが兄ちゃん達の部屋だ。今は誰も使ってないから好きに使ってくれ」
「ほう、これは中々にいい景色だね」
「……でも、寒くなってきた。夜の砂漠は冷える、しっかりと温まらないと風邪をひく」
「ううっ……昼間はあんなに扱ったのに夜になると急に冷えますわね……」
既に時刻は深夜を迎え、明日の朝には出発するので身体を少しでも休ませる必要があった。人数分の毛布を渡されたレノ達は眠ろうとした時、ここでレノは思い出した様にネココに振り返る。
「そういえばスラミンはどうしたの?まさか、街に置いてきたの?」
「……スラミンならここにいる。暑い場所が苦手だから、私のマントの中に隠れてる」
「ぷるぷるっ……」
「えっ!?小さくなってない!?」
ネココがマントを広げると、彼女の背中から身体が10センチ程に縮んだスラミンが登場する。本題の彼は1メートルを越える大きさを誇るはずだが、どうしてこんなにも小さくなっているのかとレノは戸惑うと、アルトが説明してくれた。
「ああ、スライムは体内の水分の量によって自由に体型を変化できるんだよ。砂漠のような暑い場所だとすぐに縮んでしまうんだ」
「ぷるるんっ(暑すぎて蒸発すると思った)」
「か、可愛らしいですわね……ペットに欲しいですわ」
「駄目、この子は私の家族……あげない」
小さくなったスラミンを見てドリスは羨ましそうに視線を向けるが、そんな彼女にネココはスラミンを隠す。一方でスラミンは眠たそうな表情を浮かべ、ネココの毛布の中に潜り込む。
目を覚ませば土鯨と戦う事になるのを意識すると、レノはどうしても上手く寝付けなかった。瞼を閉じると土鯨の姿を思い返し、前回の時は魔弓術で瞳を奪う事に成功して撃退に成功したが、今度は撃退ではなく倒さなければならない。
(あんな化物に俺の魔法剣が通用するのか……?)
壁に立てかけた荒正にレノは視線を向け、考え込む。土鯨の巨体を思い返し、まるで小さな山ぐらいの大きさを誇る化物鯨に自分の魔法剣が通用するのかと不安を隠しきれない。
(アルトの集めた情報によると土鯨には火属性の攻撃は通用しにくい……なら、火炎剣や火炎旋風は当てにならないか)
土鯨が火属性の砲撃魔法を受けても影響がない話を聞き、残念ながらレノの火炎剣などの魔法剣は通じず、ドリスの爆炎剣さえも通用しない可能性はあった。唯一の弱点である「水」に関してはレノの「水刃」の魔法ならば通じる可能性はあるが、土鯨の巨体を思い返したレノは自分の剣で倒せる相手ではないと考える。
(はあっ……何でこうなったんだろう。あの時、サンドワームに襲われていなければ今頃どうなってたかな……もしかしたら砂漠を彷徨っていたかも)
サンドワームに襲われたためにレノ達は分断され、砂漠に迷い込む形になった。もしもサンドワームに襲われていなかった場合、あるいは砂嵐が発生していなければこのような事態には巻き込まれなかったかもしれない。
砂嵐に巻き込まれた時の事をレノは思い出し、溜息を吐きながら眠りに就こうとした時、ここである事を思い出す。視界に刻んだ「砂嵐」の風景、更にアルトから教わった土鯨の弱点を思い出したレノは起き上がる。
「そうだ!!」
「うわっ!?」
「にゃっ!?」
「な、何ですの!?」
唐突に大声を上げたレノに眠りかけていた仲間達が驚いた表情を浮かべるが、レノはすぐに起き上がると自分の魔法腕輪に視線を向け、荒正も掴み取る。自分が今思いついた事を実践するため、部屋を抜け出す。
「もしかしたら出来るかもしれない……ごめん、皆!!ちょっと出てくるよ!!」
「で、出るって、どこに!?」
「大丈夫、朝までには戻ってくるから!!」
レノは部屋を飛び出すと、他の3人は驚いた表情で彼を見送り、そのままレノは拠点の外へ飛び出してしまった――
――それから数時間後、遂に夜明けを迎えて船の修理が完了すると、船員たちが甲板に集まる。彼等は樽爆弾を運び込み、投石機の固定を行う。そして戦える力を持つ船員全員が乗り込むと、ネココ達もそれに同行する。
「おい、あの坊主はまだ戻ってこないのか?」
「こんな時に何処に行ったんだよ……」
「すいません、もう少しだけ待ってください。必ず、彼は戻ってくると思うので……」
「レノさん、いったいどうしたのでしょうか……」
「……レノを信じる」
レノの姿が消えた事に船長や他の者達も訝しみ、アルトは必死にレノが戻ってくるまで待つように促す。だが、しばらく時間が経過してもレノが戻る気配はなく、痺れを切らした船長は遂に砂船を出す事にした。
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