第234話 出航
「……悪いが、もう待つ事は出来ねえ!!出航の準備だ!!」
「そんなっ!?待ってください、必ずレノさんは戻ってきますわ」
「悪いが、それを待つ時間は俺達にはねえんだよ。言っておかなかったが、この酒は実は日持ちする代物じゃねえんだ……この酒はな、時間が経過するとアルコールが抜けちまうんだ」
「そういえば……確かにそんな話を聞いた気がする」
アルトは樽に入った酒の正体が砂漠地方のトレントの樹液である事を思い出し、この樹液はアルコール度数の高い酒ではあるが、時間が経過するとアルコールが分解されてしまう事を思い出す。
既に酒を購入してから二日近くの時間が経過しており、このまま時間が経過すれば土鯨との戦闘前にアルコールが抜けきってしまう。そうなれば作戦は台無しになり、10年以上の月日が無駄になってしまう。
「俺達に時間はねえ、悪いが坊主は置いていく。このまま土鯨の住処へ向かうぞ!!」
「レノさん……」
「……仕方がない」
「くっ……何処に行ったんだ、レノ君」
「くそ、こんな時にいなくなるなんて……本当は逃げ出しちまったんじゃないのか!?」
「きっと怖気ついたんだ!!」
戻ってこないレノに船員の何人かが不満を漏らし、自分達は命を賭けて戦うというのに姿を消したレノに文句を漏らす。そんな彼等の言葉に黙って聞いていられずにネココ達は言い返そうとした時、ゴンゾウが彼等を殴りつけた。
「ふんっ!!」
「ぐあっ!?」
「いでぇっ!?」
「な、何をしてるんだ!?ゴンゾウ!?」
「……俺の友達を侮辱するな」
「そうだぞ!!兄ちゃんはな、俺の命の恩人だぞ!!お前等だって土鯨に襲われた時、兄ちゃんのお陰で助かったんだろうが!!」
「その通りだ、馬鹿共がっ!!恩人をけなすような奴はこの船に乗る資格はねえ!!」
「す、すいません……」
「口が過ぎました……」
ネココ達が怒る前にゴンゾウ達が動き、彼等を叱りつける。その様子を見てネココ達は気分が晴れたが、同時に戻ってこないレノに対して焦りを抱く。
(いったいどうしたんだレノ君……君は何処にいるんだ?)
戻ってこないレノに対してアルトは甲板から外の様子を伺うが、そこにはやはりレノの姿は見えない。もうこれ以上は待てないため、遂に船は出航してしまう。
「お前等、待ってろよ!!必ず奴のぶっ倒してやるからな!!そうすれば俺達はもう大金持ちだ!!」
「船長、頑張れっ!!」
「生きて帰って来いよ!!」
「奴の頭を吹き飛ばしてこい!!」
拠点に残るのは戦う力を持たない女子供や老人だけであり、戦える力を持つ者は全員が船に乗り込む。全ての準備を整え、船は砂漠を出発すると砂丘を乗り上げながらも土鯨が住処へと向かう――
――それからしばらく時間が経過し、遂に砂船は土鯨の住処が存在すると思われる領域へと辿り着く。土鯨の住処の付近には破壊された砂船が散乱しており、その数は数え切れなかった。
この領域に訪れた砂船は全て土鯨によって破壊され、生き物さえも滅多に近づけない。時折、破壊された砂船の物資を狙って訪れる人間もいるが、一人残らず土鯨によって飲み込まれたという。
「ここが奴の根城だ……全員、覚悟を決めろよ。もう後戻りは出来ねえ……」
「……凄い光景ですわね」
「見てくれ、あれはジン国の旗だ。どうやらここで王国の討伐部隊が戦ったらしい」
「……この残骸を漁れば金目の物もありそう。だけど、降りる気にはなれない」
砂船の残骸の中にはジン国の旗が掲げられた船も多数存在し、過去に何度かこの場所に国が派遣した討伐隊が送り込まれたようだが、結果は全て失敗に終わったらしい。それらの光景を眺めながらも砂船は移動すると、ここで船長は船を停止させる。
「奴はまだ気づいていないようだな……もしかしたら地中深くで眠っているのかもしれねえ」
「眠る?」
「本来、奴が活発的に動くのは夜の間だけだ。前の時も夜明けの直前で襲われたからな……だから昼の間は動きが鈍いはずだ」
「なるほど、それで土鯨を引き寄せる方法はあるんですの?」
「おう、あれを使うんだよ」
船長は甲板に設置した投石機を指差し、既に投石機には樽爆弾が詰め込まれ、船員は発射の準備を整えていた。船長は頷くと、船員は投石機を利用して樽爆弾を放つ。
「よし、やれ!!」
「へいっ!!」
「行っけぇっ!!」
投石機が作動すると、樽爆弾が船の側面から放たれ、樽爆弾は数十メートルほど離れた場所に放たれる。発射の際に事前に縄に火を灯し、やがて中身の酒に引火すると、酒の中に混じっていた火属性の魔石が熱に反応して爆発を引き起こす。
「うおっ!?」
「わうっ!?」
「くっ……!?」
「きゃっ!?」
「にゃうっ!?」
「これは……凄まじいな」
樽爆弾が地面に衝突するのと同時に爆発を引き起こし、その威力は凄まじく、丁度落下地点に存在した大船の残骸を吹き飛ばす程の威力だった。まともに衝突すればタスクオークや赤毛熊でさえも粉々に吹き飛ばせる威力は誇り、その光景を見ていた者達は唖然とする。
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