第235話 土鯨討伐戦
――オァアアアアッ!!
砂漠内におぞましい鳴き声が響き渡り、船の残骸の下から全身が岩石の如き皮膚に覆われた土鯨が出現した。その様子を確認した船長は冷や汗を流しながらも笑みを浮かべ、船員たちに指示を出す。
「よし、やれ!!」
「発射!!」
「こっちも発射だ!!」
巨人族の船員が樽爆弾を運び込み、投石機に乗せると次々と土鯨に向けて撃ち込まれる。目的は土鯨の口内に撃ち込む事だが、まずは敵の注意を引くために樽爆弾を放つ。
樽爆弾が次々と撃ち込まれ、土鯨の頭部や下顎の部分に的中すると爆発を引き起こす。その結果、土鯨は怯んだように身体を逸らす。その様子を見て船長は土鯨に損傷を与えられたのかを確認するため、様子を伺う。
「そこまでだ!!奴の皮膚を砕く事は出来たのか!?」
「煙のせいでよく見えません、距離も離れてますし……」
「僕に任せてくれ!!」
「アルトさん!?いつの間に上の方に!?」
アルトの声が上の方から聞こえてきた事にドリスは驚くと、いつの間にかそこにはアルトが帆の上に存在し、双眼鏡を覗き込んでいた。この双眼鏡はアルトが魔物を観察するために自作した代物であり、彼は土鯨の様子を調べて答える。
「損傷は……爆発を受けた部分に罅割れが生じている!!だけど、大した損傷じゃない!!」
「くそっ……いや、それでも奴に損傷を与える事は出来たんだな!?」
「よし、このまま撃ち続けろ!!」
「もっと樽を用意しろ!!」
樽爆弾が的中した箇所に罅割れが発生している事をアルトが告げると、その言葉に士気は上がる。今まで無敵だと思われた土鯨にわずかながらでも損傷を与える事に成功した事に船員たちの士気は上昇し、新しい樽爆弾を投石機に設置しようとした。
しかし、ここで問題が起きた。それは投石機は一度発射すると次の発射に時間が掛かり、船に搭載された投石機は全て次の発射の準備をしなければならなかった。その間に土鯨が動き出し、砂船の方向へ向かう。
オァアアアアッ……!!
怒りを滲ませた鳴き声が響き渡り、その様子を見て船長はすぐに砂船を動かすように指示を出す。即座に船は動き出し、土鯨に背を向ける形となった。
「船を移動させろ!!このままだとぶっ壊されるぞ!!」
「でも後ろを取られてしまいますが、大丈夫ですかの!?」
「問題ねえっ!!特大の投石機を用意してあるからな!!」
砂船ヤマトは動き出すと、その後方に土鯨が迫る形となり、速度は土鯨が勝っていた。前回の時は眼球に攻撃を受けて引き下がったが、今回の場合は住処に侵入した敵を見逃すつもりはないらしく、執拗に追跡を行う。
オォオオオッ……!!
砂の海をまるで本物の海の様に泳ぎながら追跡を行う土鯨の光景にドリスは背筋が凍り付くが、船長は舵を切っている間に船員は後ろへと移動する。そこには船長の言う通りに一番大きな投石機が用意され、樽爆弾を3つも縄で縛りつけた状態で設置されていた。
「準備完了!!いつでもいけますぜ!!」
「よし、あいつが大口を開いた瞬間を狙うんだ!!」
「ギリギリまで引き寄せろ!!」
「これでぶっ倒してやる!!」
後方から迫りくる土鯨に対して船員たちは投石機を発射させる好機を見極め、狙いを外さないように慎重に待機する。やがて土鯨との距離が縮まり、あと少しで船に衝突すると思われた瞬間、土鯨が大口を開く。
土鯨は船を後ろから噛みつこうとしたのか、あるいは飲み込もうとしたのか不明だが、大口を開いた。その瞬間、全員がかりで投石機を動かすと3つの樽爆弾が土鯨の口内の中へ放つ。
「くたばれ、化物!!」
「家族の仇だ!!」
「死にやがれっ!!」
土鯨の口内に事前に着火した樽爆弾が放り込まれ、見事に飲み込ませる事に成功した。船を襲う前に口の中に何かが入った事に土鯨は気づいたとき、体内で爆発を引き起こす。
――ッ!?
土鯨の巨大な口から煙が発生し、船を追跡していた土鯨の動作が止まる。体内で3つの樽爆弾が爆発したのは間違いなく、普通の生物ならば体内で爆発が生じれば死ぬ事は間違いない。
しばらくの間は沈黙が続き、土鯨を倒す事が出来たのかと船員たちは様子を観察する。やがて土鯨の巨体が震え始め、ゆっくりと砂の中に沈み込む。
「な、何だ!?あいつ、消えたぞ!?」
「くたばったのか……?」
「まさか、逃げた!?」
土鯨が潜り込んだ事で船員たちは動揺するが、ここで甲板に存在する人間の中で誰よりも危険察知能力が高いネココは目を見開き、船にいる全員に呼びかける。
「まずい!!皆、伏せて!!近くの物に掴まって!!」
『えっ……!?』
ネココの言葉に全員が彼女に視線を向けた直後、船が突如として傾き始め、甲板に存在した者達は傾いた床に転げ落ちる。帆の上の方に立っていたアルトも危うく落ちそうになり、必死にしがみつく。
船が傾いた原因は砂を掻き分け、船の下から出現した土鯨が原因である事が判明し、土鯨は隻眼の瞳を怪しく光り輝かせながら船を下から押し上げようとしていた。
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