第232話 土鯨を倒す方法
「船長によると、土鯨を倒す方法があるとすれば身体の外側からではなく、内側から攻撃する以外に方法はないらしい」
「……内側?それはどういう意味?」
「つまり、土鯨の口の中に爆発物を送り込んで内側から爆発させるんだ。どんな生物だろうと、体内で爆発が起きれば死なないはずがないと船長は言っていたよ」
「爆発!?そんな事が出来ますの!?」
アルトの言葉にドリスは驚き、レノとネココも信じられない表情を浮かべる。いったいどんな爆発物を用意したのかとアルトに尋ねる前にポチ子が現れた。
「あ、やっと見つけたぞ!!ここにいたんだな、兄ちゃん達!!」
「ポチ子?」
「うちの船長が呼んでるぜ。土鯨の野郎をぶっ倒す準備が整ったんだ!!兄ちゃん達も見てくれよ、あいつを倒すために作っていた武器がやっと完成したんだよ!!」
ポチ子の言葉にレノ達は顔を見合わせ、とりあえずは彼女の言う土鯨を倒すための武器を見せて貰う事にした――
――ポチ子の案内の元、レノ達は修理中の砂船の元に移動すると、そこには大量の樽が並べられていた。船員たちは船の前に人間が入れる程の大きさの樽を運び込み、それを並べていく。その様子を船長は見届けると、レノ達に振り返って笑いかける。
「おおっ、お前等も来たか!!こいつを見てくれ、遂に完成したぞ……これが土鯨をぶっ倒すための武器だ!!」
「武器って……これは投石機ですの?」
甲板には今朝は存在しなかったはずの「投石機」のような物が設置され、どうやらこの樽を飛ばして土鯨を攻撃するつもりらしく、船長は頷くと樽を叩く。
「こいつの中身は何だと思う?」
「中身……もしかして、例の爆発物ですか」
「おうよ!!この中を見てみろ!!」
船長は樽の蓋を開くと中身を見せつけ、それを覗いたレノ達は驚きの表情を浮かべる。中身はどうやら酒らしく、しかも色合いを見てレノは自分達を襲った砂漠地方に生息するトレントの樹液である事を見抜く。
船長は樽の中にアルコールの度数が強い酒を入れ、更に彼は火属性の魔石を取り出すと、縄で縛りつけた状態で樽の中に入れて蓋をしっかりと閉める。蓋の中央には縄が通るだけの穴が存在した。
「へへへ、この中に入っている酒はよく燃えるんだ。そんな酒の中に火属性の魔石を入れた状態で引火したらどうなると思う?」
「まさか……」
「……燃え広がった酒に火属性の魔石が反応し、高温で熱せられた魔石はやがて崩壊して爆発を引き起こす。しかもこれだけの量の樽が全部爆発すれば……この岩山だろうと崩壊は免れないね」
「そう、その通りだ!!俺達はこの酒と魔石を集めるのに10年以上も頑張ったんだ!!来る日も来る日も砂漠の魔物共を狩り続け、酒を飲むのも我慢して地道に頑張ってきたんだ!!酒好きの俺が10年以上も酒の一滴も飲まずに頑張ってきたのはあいつをぶっ殺すためだ!!」
船長曰く、この酒と火属性の魔石を利用した「樽爆弾」で土鯨を倒すつもりらしく、土鯨が現れた時にこの樽爆弾に火を灯し、その状態で投石機を利用して土鯨へと攻撃を行う。これが土鯨の討伐作戦の要となる兵器だった。
この作戦のために魔狩りを結成した船長は10年以上も時を費やして資金を用意し、そして準備を整えたという。これほどの量の酒と魔石を用意するのに相当な苦労を重ねたが、それでも全員が音を上げずに頑張ったのは土鯨を打ち倒すためである。
「この樽爆弾を利用して奴をぶち殺す!!そうすれば俺達はもう砂漠で奴を恐れる必要はなくなる!!家族の仇を討てる!!あと少しだ、もう少しで俺達の願いは叶うんだ!!」
『うおおおおっ!!』
船長の言葉に拠点に暮らす者達は歓声を上げ、ここにいる誰もが土鯨から大切な人を奪われた者達だった。だが、話を聞いていたレノ達は大量の樽爆弾と投石機に視線を向け、本当にこれで倒せるのかと疑問を抱く。
「……アルトさん、確か土鯨は熱と衝撃に強いとおっしゃってましたよね」
「ああ、言ったね」
「仮に……もしも仮に土鯨が体内も熱に強かった場合、この作戦で倒せると思いますか?」
「……分からない。正直、いくら何でも体内で爆発が起きれば大抵の生物は死ぬだろう。だが、土鯨の場合はそもそも謎が多いんだ。絶対に上手く行くとは言えないよ」
「そんな……」
「……でも、この人達は止まらない。私達もそれに付き合うしかない」
作戦の内容を聞かされたレノ達は不安を抱くが、10年以上も作戦の準備を行った船長たちを止める事は出来ず、土鯨を倒すためにレノ達も最善の準備を整えるしかなかった――
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