第231話 土鯨の弱点
――レノが連れてきた3人はすぐに他の者達にも紹介され、快く迎え入れられた。この時にドリスは王国騎士の素性を隠し、表向きは傭兵となる事にした。国に仕える騎士の自分が傭兵を名乗る事に彼女は最初は抵抗感があったが、止む無く傭兵と名乗って彼等から話を聞く。
「それじゃあ、今まで聞いた情報をまとめると……まず、これまでに送り込まれた土鯨の討伐部隊はほぼ全滅、生き残りも逃げ帰ってしまった。これは間違いないね」
「その中には王国騎士も含まれていた……その王国騎士の事はドリスは知っているの?」
「申し訳ありませんが、よく知りませんわ。私が王国騎士なる前に亡くなられた様なので……」
「ふむ、その王国騎士は恐らくは「烈火の騎士」と呼ばれた魔法剣士だろうね。ドリス君と同様に火属性の魔法剣を得意とする魔法剣士のはずだ」
アルトは過去に存在した王国騎士の事も知っているらしく、土鯨の討伐を任されたのはドリスと同様に火属性の魔法剣を得意とする魔法剣士だと判明する。まだドリスやセツナが王国騎士になる前の時代に活躍した王国騎士だが、彼は土鯨の討伐に失敗して死亡したという。
「烈火の騎士は炎の剣の使い手だとは聞いていたけれど、土鯨とは相性が悪かったようだね。ここの住民の話によると、土鯨は火属性の砲撃魔法を受けても無傷だったらしい」
「砲撃魔法……」
「魔導士が扱う魔法の中でも威力に特化した魔法ですわね。魔力の消耗量が激しく、連発には向かない魔法だとは聞いてますが……」
砲撃魔法という言葉にレノは昔の事を思い出し、かつてレノはエルフの里に暮らしていた時、里の子供達に魔法で虐められていた事を思い出す。彼等が扱っていた風の魔法も砲撃魔法の一種ではあるが、子供が扱う魔法なのでそれほどの威力はない。
しかし、大人の魔導士が扱う砲撃魔法の威力は桁が違い、歴史に名を刻んだ魔導士の中には山の様に大きな岩を一撃で吹き飛ばしたという記録も残っている。だが、そんな砲撃魔法すらも土鯨には通用しなかったという。
「ここの住民に聞いた話だと、偶然にも砂船に乗り込んでいた魔導士が土鯨に砲撃魔法で攻撃を仕掛けた結果、その魔導士は火属性の砲撃魔法で攻撃を行ったけど傷一つ付かなかったらしい。この事から考えるに土鯨の全体を覆い込む岩石の皮膚は相当に熱や衝撃に強いんだろう」
「それでは私の爆炎剣は……」
「はっきり言って相性が悪いだろうね。少なくとも並の魔導士の砲撃魔法程度では損傷は与えられない」
「そんな……」
「……そんな怪物、どうやって倒すの?」
並の魔導士でも普通の岩程度ならば破壊できるほどの砲撃魔法は扱えるはずだが、土鯨の全身は岩石をも上回る皮膚に覆われ、生半可な攻撃は通用しない。そんな化物に対抗手段はあるのかとネココは尋ねると、ここでアルトは岩石の欠片のような物を取り出す。
「これを見てくれ」
「それは……岩の破片?」
「いや、違う。これは今朝、土鯨との戦闘で砂船が攻撃された時、船にこびり付いていた土鯨の皮膚の一部さ」
「あ、あの時の……」
レノはアルトの言葉を聞いて今朝に砂船が襲われた時の事を思い出す。土鯨は魔狩りが「ヤマト」と名付けた船を沈めようと体当たりを仕掛け、この時に岩石の皮膚の一部が偶然にも船にくっ付いていたらしい。
「この皮膚をよく見てくれ。こうして水を賭けると……ほら、変色しただろう?」
「あっ、本当だ!!」
「……まるで泥みたい」
「不思議ですわね……あ、崩れた!?」
アルトがコップの水を注いだ瞬間、土鯨の皮膚の破片は変色したかと思うと、泥の様に柔らかくなって崩れてしまう。どうやら水を浴びると土鯨の皮膚は柔らかくなって崩れてしまうらしく、この弱点があるせいで土鯨は水場の近くには訪れないという。
「土鯨の皮膚は恐らくは岩石というよりも、土砂を練り固めて構成された物なんだ。だからこうして水を浴びせて水分を吸収させると柔らかくなって崩れてしまう。本当に不思議な皮膚だよ、粘土ともまた違うみたいだ」
「へえ……なら、土鯨に水を浴びせれば皮膚が崩れて中身に攻撃できるの?」
「その通りさ、もしも戦闘中に雨でも降れば土鯨は肉体を維持する事も出来ずに崩壊するだろうね。でも、生憎と今は乾季の時期らしくてここ最近は雨は全く降っていないらしいんだ」
「なら、水を浴びせて倒すのは難しそうですわね……」
水を利用して岩石の皮膚を崩した攻撃は悪くはないが、土鯨の巨体を考えると全身に水を浴びせる方法は雨が降る以外にはあり得ない。だが、水を受けて皮膚が剥がれ落ちるのならばレノの「水刃」などは効果があるかもしれなかった。
だが、弱点が判明しても倒す手段が問題であり、とりあえずは水を浴びせて箇所を攻撃する方法が有効的に思われるが、水が貴重な砂漠で土鯨を倒せるだけの量の水を確保するのも難しい。そこでアルトは船長から別の作戦で土鯨を倒す話を聞いていた。
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