第230話 拠点への帰還
「あの土鯨を倒す!?それは本気で言っているんですの!?土鯨はかつて王国騎士でさえも討伐に失敗した一級危険指定の魔物ですわよ!?」
「それは分かっているけど……命の恩人の頼みだし、無碍には出来ないよ」
「……相変わらずお人好し過ぎる」
「土鯨か……僕も噂で聞いた事はあるが、砂漠地帯で異常進化を遂げた個体、非常に興味深いね!!」
レノから話を聞き終えたドリスは愕然し、ネココは呆れた表情を浮かべ、アルトは強い興味を引いたように興奮する。合流して早々にレノはまたもや厄介事に巻き込まれている事を謝罪し、改めて頼み込む。
「とりあえず、俺は拠点へ戻って薬を渡さないと……皆はどうする?」
「当然、付いていく。レノを一人にすると危ない」
「そ、そういう事情なら仕方ありませんわね……私も王国騎士として困っている民を見捨てる事は出来ませんわ」
「僕も行かせてもらうよ!!本人たちから土鯨の事を聞かせてもらいたいからね!!あ、勿論ちゃんと気を遣うよ。彼等からすれば家族の仇だからね、ちゃんと配慮しておくよ」
ネココ達もレノに同行する事を約束してくれたが、ここで問題なのは酔いつぶれているウルの対処だった。ウルが目を覚まさなければどうしようもならず、徒歩で先に戻るにしても時間が掛かり過ぎてしまう。
「ウル、ほら起きて!!」
「グゥウッ……」
「駄目ですわ、起きる気配がありません」
「仕方ない、なら僕のきつけ薬を使うしかないか」
「……きつけ薬?どうしてそんなのを持ってるの?」
「いつか旅をするときに役立つかと思って、薬剤に関する知識も覚えておいたのさ。よし、これを使おう」
アルトは怪し色の液体が入った硝子瓶を取り出すと、蓋を開く。その瞬間、言いようのない悪臭を感じ取ったレノ達は距離を取り、特に鼻が良いネココは文句を告げる。
「アルト、臭い!!何を出したの!?」
「それはちょっと口には出来ないな……大丈夫、人体に害はないよ」
「こ、この臭さは異常ですわ!!」
「は、鼻が……」
特に嗅覚が優れているわけでもないレノとドリスでさえもアルトが取り出した薬瓶の臭いに耐え切れず、距離を取る。アルトはちゃっかり自分だけ口元にハンカチで覆い隠し、気絶しているウルに近付く。
アルトが薬瓶をウルの鼻に近付けると、先ほどまでは酔睡していたウルであったが、すぐに目を見開き、砂漠に彼の悲鳴が響き渡る――
――ウルが復活した事により、足を取り戻したレノ達だったが、とりあえずは街に引き返してアルトとドリスはラクダを借りる。流石にウルの背中には4人は乗り込めず、この二人はラクダに乗って移動する事にした。
砂船が普及してからは徒歩や馬やラクダなどを借りる人間も激減したらしく、意外と良心的な値段で購入する事が出来た。この際に砂漠を旅するために色々と準備を整え、レノ達が拠点に戻ってきたときは既に夕方を迎えようとしていた。
「すいません、遅くなりました!!」
「おおっ、戻ってきてくれたのか!!」
「ほらな、言った通りだろう!?あたしの言う通りだ、兄ちゃんが見捨てるはずがねえ!!」
「よく戻ってきてくれた。だが、そいつらは誰だ?」
レノが戻ってくると船長、ポチ子、ゴンゾウが出迎えるが、レノが連れてきた者達を見て不思議そうに首を傾げる。そんな彼等にアルトは前に出ると、親し気にレノの肩を組んで自己紹介を行う。
「初めまして、レノ君と一緒に旅をしている魔物の研究家のアルトと申します」
「研究家?何だそれ?」
「僕は魔物の生態を調べる事が得意です。皆さんから土鯨の話を聞きにここへ来ました。もしかしたら土鯨の弱点が判明するかもしれないので詳しく聞かせて貰えますか?」
「ああ、それはまあ、構わないが……そっちの嬢ちゃんたちは何だ?お前等の女か?」
「お、女!?違いますわ、私はおうこっ……あいたぁっ!?」
「うわっ!?急にどうしたんだよ!?」
「……ただの傭兵、そこの二人の護衛を行っている」
自然な流れで自身の事を話そうとしたドリスにネココが後ろからお尻を抓って喋らせないようにすると、自分達の事を傭兵だと話す。そんな彼女の行動にドリスは憤慨しながら講義する。
「ちょっと、ネココさん……急に何をするんですの!?」
「……そっちの方こそ何を考えているの。この人達に王国騎士である事を話すのは危険過ぎる」
「ど、どうしてですの?」
「もう忘れたの?前に国が派遣した王国騎士は土鯨の討伐に失敗して犠牲を出している……王国騎士が討伐に失敗した土鯨のせいでこの人達は家族を失った。この人達が王国騎士を恨んでいる可能性だってある」
「あっ……」
ネココの言葉にドリスは呆気に取られた表情を浮かべ、改めて船長たちに振り返る。船長たちはドリス達を見て首を傾げるが、レノが連れてきた仲間という事で快く迎え入れてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます