第130話 牙狼団

「止めてください、嫌がってるでしょう?」

「くっ……こ、このガキ!!よくも俺の腕を……」



レノから腕を振り払った傭兵の男は腰に差していた剣に手を伸ばすが、それを見ていたネココは一瞬で姿を消すと、音もたてずに男の背後へと移動して短刀を首筋に構える。



「止めておいた方がいい……それを抜けば冗談ではすまなくなる」

「ひっ!?」

「おい、てめえ!!俺の部下に刃を向けるとは良い度胸だな!!」

「そちらの方が先に私達にちょっかいをかけてきたのでしょう!?」



ネココに対して4人組の中でもリーダー格と思われる男性が前に出ると、ドリスが怒鳴り返す。ネココは男の首から刃を戻すと、レノ達の元に戻って向かい合う。



「グルルルッ……!!」

「ぷるるんっ(やんのかこらぁっ)」

「落ち着いて、ウル、スラミン」

「ちっ……お前等、俺らを誰だと思っている!?泣く子も黙る「牙狼団」だぞ!!」

「……聞いた事もない、そんな名前の傭兵団なんて」

「な、何だと!?」



どうやら4人組はただの傭兵の集まりではなく、牙狼団という名前の傭兵団に所属している事が発覚する。しかし、傭兵であるネココが名前を知らない限りはそれほど有名な存在でもないらしく、彼女の言葉に男は顔を真っ赤にした。


その一方で最初にレノに腕を掴まれた男は痣が出来ている事に気付き、子供だと思って油断していたが異常な握力に腕が本当に折れるかと思った。レノに腕を掴まれた男だけは彼が只者ではないと知り、自分の兄貴分である男を宥める。



「あ、兄貴……こいなガキ共なんて放っておきましょうよ」

「ああっ!?何を言ってんだ、まさかびびったんじゃないだろうな!!」

「いや、それは……」

「そこのお前達、何を騒いでいる!!」



喧嘩に気付いた城門の警備兵が駆けつけると、流石の傭兵達も手荒な真似は出来ずに舌打ちして離れる。兵士達はレノ達と牙狼団と名乗る傭兵団の4人組の間に割って入り、何をしていたのかを問う。



「お前達、何を騒いでいた?」

「ふん、この無礼な人たちが私の剣を奪おうとした所を止めたら急に怒鳴り込んできたんですわ!!」

「ふざけんなっ!!先にちょっかいを仕掛けてきたのはてめえ等だ!!見ろ、こいつの腕の痣を!!」

「あ、兄貴……」



レノに捕まれた男の腕を4人組の中で一番偉そうな男が掴んで警備兵に見せつけると、確かに指で掴まれたような痣が残っていた。しかし、騒いでいるのが柄が悪そうな傭兵4人とまだ年若そうな3人の男女と知ると、警備兵は困った表情を浮かべる。



「……とりあえず、もう少し詳しく話を聞きたい。俺達に付いてくるんだ」

「ふざけんなっ!!こっちはさっきから待たされてるんだぞ!!これ以上に時間を無駄にできるか!!」

「抵抗するようなら拘束するぞ!!」

「……仕方ありませんわね、レノさん。あれを見せてください」

「え?ここで?」



兵士に逆らう傭兵達の姿を見てドリスはため息を吐き出すと、レノに声をかける。彼女の言葉にレノは戸惑いながらも先日の一件で国から支給された「特別通行証」を取り出すと、兵士達に見せつけた。



「あの、これ……」

「む、なんだ?通行証を持っていたのか?しかし、通行証があるからといって……」

「た、隊長!!これをよく見てください!!もしかしてあの……」

「な、これは王家の紋章……!?」

「ああっ!?何を騒いでるんだ?」



兵士達はレノが取り出した通行証を見て慌てふためき、その様子を見ていた牙狼団は訝し気な表情を浮かべるが、すぐに兵士達は態度を一変させてレノに敬礼を行う。



「こ、これは失礼しました!!まさか、国の重要人とも知らずに無礼な態度を……どうぞ、お通り下さい」

「え?いいんですか?」

「はい、この許可証のお持ちの御方は最優先に通すのが決まりですので!!」

「はあっ!?おい、どういう事だ!!俺達の方が先に待っていたんだぞ!?」

「お前等はこっちにこい!!事情聴取を行う!!」

「ふ、ふざけるな!!どうしてあんなガキどもが……」



レノが特別通行証を持っている事を知ると兵士の対応が変わり、他の通行人よりも先に中へと通してくれた。その様子を見ていた牙狼団は不満を口にするが、騒ぎを起こしたという理由で兵士に連行される。


警備兵に連れされていく牙狼団を後目にレノ達は扉を潜り抜け、街の中へと通される。その様子を男達は悔し気な表情で見つめ、最後まで抵抗していた男が叫ぶ。



「街の中で出会った時は覚えていろ!!てめえらの顔は忘れねえからな!!」

「貴様、なんて事を!!来い、事情聴取は取りやめだ!!牢に閉じ込めろ!!」

「く、くそがっ……!!」



男達は警備兵に連れていかれ、後に他の人間の証言もあって彼等が先にちょっかいを掛けようとしていた事が発覚し、警備兵に厳重注意されてさらに罰金まで支払う羽目になった――

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