第129話 闘技場の魔物

「いや、本当に助かったよ。こいつは普通のボアじゃなくてな、ここから少し離れた場所にある村では山の主と呼ばれていた奴だ。捕まえるのには苦労したが、もしもここで逃げられたり、死なせていたら俺達は首にされていたな……」

「確かに普通のボアよりも一回りは大きいけど……どうやって捕まえたんですか?」

「罠を仕掛けて眠り薬を食べさせた後、どうにか荷車に運んでここまで連れてきたが、結局はこの有様だ。たく、やってられねえぜ……こんな危険な事、毎日やらされるなんてよ」

「文句を言うな、それじゃあ俺達の事はもう気にしないで先に行ってくれ。これ、少しだがお礼だ……出来れば今回の件は内密にしてほしい」



兵士の一人が小袋を渡すと、どうやらボアを取り逃がしそうになった事の口止め料らしく、それに対してドリスは眉をしかめて遠慮した。



「いえ、受け取れませんわ。困っている人を助けるのは騎士の……むぐっ!?」

「……ありがとう、私達は先に行く」

「ああ、助かったよ……今、そこの姉ちゃんは騎士とか言わなかったか?」

「気のせい、それなら私達は先へ行く」

「むぅうっ……!?」



ネココはドリスが喋る前に口元を塞ぎ、彼女を強制的に連れ出す。やがて兵士達に声が聞こえない場所まで移動すると、ネココはドリスの口元を話す。



「ぶはっ!!な、何のつもりですのネココさん!?私は騎士として賄賂を受け取るなんて……」

「……これは賄賂じゃない、命を救ったお礼として貰った。それにドリスはしばらくの間は王国騎士を名乗るを止めるんじゃなかったの?」

「うっ!?」



ドリスはネココの言葉に言い返す事が出来ず、自分が相応しい実力を身に付けるまでは王国騎士を証明するペンダントは身に付けない事を心に誓った事を思い出させられる。


彼女は困った風にレノに視線を向けるが、別にレノとしても彼等の命を救ったのは事実であり、それにもう受け取ってしまった以上は今更突き返す事も出来なかった。



「ネココの言う通り、お礼を受け取るぐらいはいいんじゃないかな」

「そ、そんな……」

「……ドリスは頭が固すぎる、おっぱいは柔らかい癖に」

「ど、どうしてこんな時に私のおっぱいの話になるのですか!?」

「昨日、寝る時に私を抱き枕にして散々におっぱいを押し付けたから……最初は苦しかったけど、慣れると病みつきになる」

「や、止めてくださいましっ!!」



わきわきと両手を動かしながら接近するネココにドリスは恥ずかし気に自分の胸元を隠すが、話している間にもレノ達はゴノの街の城門へと辿り着く。城門の前には行列が出来ていた。



「おい、まだ通れないのか!?早く入れてくれよ!!」

「そこ、騒ぐんじゃない!!」

「通行料は銅貨8枚だ!!払えない者は中には入れられん!!」

「くそ、また値上げしやがって……ほらよ、これでいいだろ!!」

「お父さん、私早く闘技場がみた~い!!」

「もう少しで入れるんだから、大人しくしなさい」



結構な人数の行列に気付き、レノ達は最後尾へと移動する。どうやら訪れている人間の殆どが闘技場目当ての観光客らしく、予想以上の闘技場の人気にレノは驚く。



「こんなにいっぱい他所からも人が集まってくるのか……そんなに凄い場所なの?闘技場って?」

「腕に自信のある人間は一獲千金を狙える場所……よく見て、観光客以外にもいかつい恰好をした奴等がいっぱいいる。あいつらの目的は闘技場に出場して大金を稼ぐ事」

「確かにお強そうな方がちらほらと見えますわね……」



観光に訪れた旅人以外にも武装した人間も多く、全員が冒険者や傭兵と思われる格好をしていた。ネココの推察では彼等の目的は闘技場に出場し、金を稼ぐために赴いてきた者達らしい。


レノ達の前に立っている4人組も恐らくは傭兵であると思われ、彼等は後から訪れたレノ達の格好を見ると、全員が武装している事から自分達と同じように闘技場に参加するつもりなのかと尋ねて来た。



「……おいガキ共、お前等も闘技場に参加するためにここへ来たのか」

「え?いや、別にそんな予定は……」

「だろうな、お前等みたいなガキ共が来るような場所じゃねえ。間違っても闘技場で名を上げようと考えるなよ。死にたくなかったら街にいる間は大人しくしておくんだな」

「むっ……」



男達の言葉にドリスは眉をしかめ、騎士である彼女は他の人間から侮られる事に不満を抱くが、余計な諍いを避けて黙っておく。しかし、ここで男の一人がドリスの身に付けている剣に視線を向け、そのあまりにも美しさに驚きの声を上げる。



「おいおい、見ろよこの嬢ちゃんの剣……こいつは上物だぞ」

「へえ、武器だけは中々立派な物を身に付けているじゃないか、どれどれ……見せてみろよ」

「なっ……止めなさいっ!!」

「何だよ、見るぐらいいいだろうが……うおっ!?」



ドリスの身に付けている魔剣「烈火」に手を伸ばそうとした男の腕をレノは掴み、握りしめる。子供とは思えないほどの握力に傭兵らしき男は顔を歪め、慌てて振り払う。

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