第150話 負けられない、負けたくない

「ふうっ……大分、コツを掴んできましたわ」



ドリスは自分の指先から放たれる火に視線を向け、この二日の間に彼女は着実に自分の体内に存在する魔力を操作する技術を身に付け始めていた。まだレノには遠く及ばないが、少しずつ自分が成長してという実感をわいていた。


今までのドリスは強くなるために努力を怠ったつもりはないが、彼女が鍛えてきたのは剣術や体術だけであり、魔法剣士にとって一番大切な「魔力」を操作する技術が疎かにしていた事を知る。



「悔しいですけれど、今の私ではあの女には勝てませんわ……!!」



ドリスの頭に「セツナ」の顔が思い浮かび、彼女は悔しそうに拳を握りしめる。自分と同じく公爵家の令嬢にして王国騎士の位を与えられた少女、だけど自分と違って彼女の場合は実力で王国騎士の称号をつかみ取った。


初めてセツナと出会った時の事はドリスも忘れられなかった。まだ子供の頃、彼女が王国騎士に就任した際にドリスも立ち会っていた。自分と同じような年齢の子供が国王の前で騎士の位を与えられる場面をドリスは忘れられなかった。正直に言えば羨ましい、彼女様になりたいとも思った。


しかし、後にフレア家の慣わしでドリスが王国騎士の座を与えられたとき、彼女はセツナと出会った。憧れを抱いていた相手と初めてまともに会話する事になったドリスは緊張していると、合って早々にセツナはドリスを見てしかめっ面を浮かべる。



『お前みたいな未熟者のガキが騎士だと……王国騎士の称号も地に落ちたな』

『なっ……それはどういう意味ですの!?』

『言葉通りの意味だ、お前は王国騎士に相応しくはない』



ずっと憧れていた相手からの辛辣な言葉にドリスは怒りを抱き、この時点でドリスとセツナは激しく敵対視するようになった。顔を合わせれば喧嘩をせずにはいられず、人目を気にせずに取っ組み合いをした事もあった。元々、ドリスとセツナの実家も関係は良好とは言えず、対立はどんどんと深まる。



『お前が王国騎士に相応しくはない、私はお前なんか認めないぞ!!』

『上等ですわ!!それなら私は貴女を越えてみせる!!』

『私を越えるだと?やれるものならやってみろ、この牛乳女うしちちおんな!!』

『なんですって!?この、雪女!!』



王都で最後に出会った時の事を思い出し、あの時は国王の誕生会だったというのに派手に喧嘩したせいで二人は追い出されてしまった。後に両者ともに実家から厳しく叱られたが、後悔はしていない。


その後にドリスは王国騎士として「黒狼の残党」を探し出すためにシノの街へと赴き、またもやセツナと遭遇した。相も変わらず苛つく相手であった事は変わりはなかったが、彼女には見られたくない所を見られた。



「絶対、あの女にぎゃふんと言わせますわ!!」



頬を叩いて気合を込め直すと、ドリスはまずは完璧に魔力の操作を極めるために練習に励む。自分と同じように魔法剣士であるレノの教えを信じ、彼を目標にしてまずは体内の魔力だけで魔法剣を生み出せるぐらいになるように頑張る。


ドリスの予想ではセツナもレノのように魔力を操作する技術を身に付けていると考え、今までセツナとの実力の差が縮まらなかった原因はこの「魔力操作」の技術であるとドリスは確信を抱く。この技術を満たした時、ドリスはセツナに追いつけると判断した。



(負けませんわよ、あの女にだけは絶対に!!)



今現在は指先から火を灯す程度の事しか出来ないが、訓練を続ければいつかは自分の魔力だけで魔法剣を生み出せる事を信じ、魔力が尽きるまでドリスは練習を続ける。結局は彼女は夜が明けるまで訓練を続け、意識を失う。


その後は夜通し付き合う羽目になったネココが彼女を部屋へと放り込み、自分も眠りこけ、結局目を覚ましたのは二人とも昼過ぎだった――






――鍛冶師であるムクチと約束の時刻を迎え、荒正と鞘を受け取るためにレノは一人で鍛冶屋に向かっていた。彼から受け取った剣を携え、宿屋から鍛冶屋に向かう途中、街の中に流れている川の方で人だかりができている事に気付く。



「あの、何かあったんですか?」

「死体だよ、死体!!また川に死体が浮かんできたんだ……」

「えっ、死体!?」



川の方に視線を向けると、そこには棒を抱えた兵士が水面に浮かんでいる死体を引き寄せる姿が存在した。その様子を見てレノは驚き、集まった人間達はひそひそと話し合う。



「きっと、また例の殺人鬼にやられたんだろうな……」

「殺されたのはまた傭兵らしいぞ……」

「可哀想に……それにしても犯人は何が目的なんだ?」

「さあな、殺人鬼の気持ちなんてわかるかよ」



人々の話を耳にしたレノは「殺人鬼」「殺された」「また傭兵」という気になる単語を耳にして住民から詳しい話を聞く事にした。

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