第149話 闘技祭

「あの、闘技祭というのは何ですか?」

「何ですとっ!?レノ殿は闘技祭の事を御存じないのですか!?」

「国内でも有名な武芸大会ですわよ!?」

「武芸大会……?」

「そう、国中から腕自慢の猛者が集まると言われる大会さ」

「……割と有名」



レノ以外の者は闘技祭がどのような催し物なのかを知っているらしく、彼等の説明によると「闘技祭」とは国内に存在する武人ならば知らぬ者はいない程に有名な大会だという。


闘技祭は国内では二度行われるが、厳密に言えば国内に存在する闘技場が別々の時期に行う。現在の時期ではゴノ闘技場で闘技祭が行われるが、半年後には別の街の闘技場で開催される事になっている。



「闘技祭は最低でも国内から1000人の武芸者が集まり、厳しい予選を突破して本選に出場する事が出来るんだ。まだ開催時期までは日にちはあるけど、そろそろ予選の申し込みの受付は閉め切るだろうね」

「私がこの街に訪れたのは闘技祭に参加するため、各地から集まった武人と接触し、彼等に我が商団の護衛役として働いてもらうためです。アルト殿もこの際に腕自慢の方を護衛に雇われてはどうですか?」

「そうだね、今はレノ君達と一緒だから安全かもしれないが、そろそろ僕も護衛を雇う事を真面目に考えるべきか……」



アルトやネカのように闘技祭を目当てに集まる武人を勧誘するために訪れる人間も多く、それだけ国内でも有名な催し物である事が伺える。だからレノ達が街に訪れた時も闘技祭が目当ての観光客も多く、闘技祭の一週間前でも街の全ての宿屋は借り尽くされるほどに人気が高いらしい。



「闘技祭ですか……となると、あの女も参加するかもしれませんわね」

「闘技祭の前日でも色々な催し物があるからね。この時期は本当に人がよく集まるよ、僕も何度か闘技祭を観戦した事があるけれど、あれは本当に凄かったね」

「やはり注目を浴びているのは全大会の優勝者チャンピオンでしょうな、前回の試合は本当に凄まじかった。特に決勝は手に汗握る戦いでしたな!!」

「……私は興味ない」



闘技祭に関しては一般人からの注目も高いが、ネココは興味なさげに献立表を覗き込む。レノも闘技祭には興味はあるが、開催が一か月後となると流石にそこまで長い間は街に滞在する予定はない。



(宿代だって馬鹿にならないし、それにそんなに人気があるなら観戦するのも苦労しそうだな……)



レノの目的は王都へ向かうためであるため、あまり一つの街に長居する事は出来なかった。第一に新しい鞘の製作に予想以上のお金が掛かってしまったため、路銀を無駄には出来なかった。


今回は闘技祭とは縁がなかったと判断してレノは鞘が完成次第に街を出発しようかと考えていると、この時にドリスが何か考え込んだ表情を浮かべている事に気付く事が出来なかった――






――その日の晩、レノはアルトと同じ部屋で眠っていると、開け開いた窓から何かが聞こえた。魔物が巣食う山で暮らしていたせいか、音や気配には敏感なレノは目を覚まして反射的に武器に手を伸ばす。



「……何だ?」



窓を確認しても特に怪しい人影はなく、シノの時のように襲撃者が現れたという感じではない。気になったレノは窓から外を覗き込むと、そこには誰もいない裏庭にてドリスの姿が存在した。



「くぅっ……あと少し」



ドリスは右の掌を伸ばすと、意識を集中させるように指先から炎を放つ。昨日の夜は指先に火を灯すだけでも精いっぱいだった彼女だが、今では5本の指に火を生み出す事に成功する。


火を灯すのにまだ時間はかかるが、確実に体内の魔力を操作する術を身に付け始めており、彼女は額の汗を拭う。真面目に訓練を行うドリスを見てレノは感心する一方、あまりに無茶をし過ぎると彼女は倒れてしまいかねない。



「ドリス……」

「しっ……黙って見てる」



窓から声をかけようとしたレノだったが、隣の部屋の窓からネココが声をかける。彼女は口元に人差し指を押し当てて邪魔をしないように促す。



「……本人が満足するまで頑張ればいい。私が見張ってるから、レノは気にしないで眠ってて」

「でも、あんまり無茶をすると……」

「ドリスも強くなろうと頑張っている。そういう人間は言葉で止めようとしても無駄、今度からは誰にも見つからない場所で特訓しようとする。それなら目で見える範囲で特訓させておけばいい」



ネココの言葉にレノはドリスに視線を向け、彼女は今度は5本の指から同時に火を出す訓練を始めていた。その様子を見てレノは昔の自分も訓練をしていた時は誰にも見られないように頑張っていた事を思い出す。


幼少期は自分が訓練をする姿を養父のダリルに見られると止められると思い、彼に見つからないようにこっそりと訓練をしていた。それを思い出したレノはドリスを止める事は出来ず、ネココに頷いて後の事は彼女に任せる事にした――

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