第151話 容疑
「あの……殺人鬼って、どういう事ですか?」
「何だあんた、知らないのか?ああ、その身なりだと旅人さんか?なら知らなくても仕方ないか……」
「実はこの街ではな、最近になってあんな死体が街のあちこちで発見されるようにったんだよ」
「死体が?」
「ああ、しかも相手が普通の人間じゃなくて、腕利きの傭兵や冒険者ばかりなんだよ。さっき見つかった男も有名な盗賊団の団員だったらしいぞ」
川の中に入った兵士達が死体を陸へ上げ、担架へ乗せて運び込む。その様子を見てレノは物騒な話だと思ったが、この時にレノは傭兵の顔を見て驚く。
(えっ!?あの顔の男は……)
殺された傭兵の顔を確認すると、それは昨日にレノ達にちょっかいをかけたキバという名前の男で間違いなかった。彼が死体で発見されたという話を聞いて驚き、レノは彼を殺したのがロウガではないかと考えた。
(まさか、見せしめのために殺した?いや、いくら何でもそんな事は……)
キバが死体となって発見された事にレノは動揺を隠せず、いったい何が起きたのかと戸惑っていると、ここで背後から気配を感じて咄嗟に振り返る。すると、そこには昨日のアルトを誘拐したと嘘を吐いた男が立っていた。
「あんたは……」
「お、お前……お前がやったのか?」
「え?」
「と、惚けるな!!キバの兄貴を殺したのは、お前なのか?」
「はあっ!?」
突如として現れてとんでもない事を尋ねて来た男にレノは呆れた声を出すが、男は怯えた表情を浮かべながらレノがキバを殺した殺人犯なのかを尋ねる。
そんな疑問を抱かれる事自体がレノにとってはいい迷惑だが、男は怯えた様子でレノが自分の兄貴分を殺したのかを問う。どうやらふざけているつもりではないらしく、そんな彼にレノはきっぱりと答えた。
「殺してなんかいないよ、だいたいあんたらは俺に二度と関わらない約束だろ?」
「し、信じられるか!!兄貴を、兄貴を殺したのはお前なんだろう!?」
「いい加減にしろ、一方的に絡んできて人に迷惑を掛けたのはどっちだ!?」
「ひぃっ!?」
男の言い分にレノは怒鳴りつけると、彼は悲鳴を上げて逃げ去っていく。その様子を見てレノはため息を吐き出し、何だか面倒事に巻き込まれそうになる予感がした――
――予定通りに鍛冶屋へと辿り着くと、約束通りにムクチが待ち構えていた。彼はレノが望んだ通りに魔法金属製ミスリルの鞘を用意し、ちゃんと魔石を嵌め込むための金具も取り付けてあった。
「おらよ、これでいいのか?」
「うわぁっ……ありがとうございます」
荒正を返却して貰い、新しい鞘を受け取ったレノは嬉しそうに腰に差すと、元々の鞘と比べると重くはなったが特に問題はなかった。鞘に荒正を収めて具合を確かめると、ここでムクチが口を挟む。
「……仕事中、変な奴等がお前の事を聞きに来たぞ。多分傭兵だな」
「え、傭兵が?」
「ああ、変わった刀を持つ黒髪の少年を探しているとな。特徴はお前に当てはまるし、多分お前の事だろう?黒髪なんて珍しいからな」
「まさか……」
レノは先ほど遭遇した男の事を思い出し、牙狼団が自分の事を探しているのかと疑問を抱く。まさか本当にキバを殺したのが自分だと思い込んで調査しているのかと考えると、いい気分はしない。
ムクチは客の情報を明かすような真似はせず、知らぬ存ぜぬを通したそうだがレノはそんな彼に礼を言う。その後、武器を回収したレノは宿屋へと戻る際、周囲に警戒を行う。
(……尾行されているな)
感覚を集中してレノはさりげなく周囲に視線を向けると、建物の影からこちらの様子を伺う男を発見する。よくよく観察すると、一人ではなく複数名の男がレノの事を尾行していた。
(何なんだこいつら……牙狼団か?)
団長であるロウガに二度と自分に関わらないように注意するように警告したが、それを破って自分を尾行してきた男達に対してレノはため息を吐き出し、敢えて人気のない場所へと移動を行う。
路地裏へと駆け込むと、後ろから男達が追いかける。やがて路地の先に存在した空き地に辿り着くと、レノは改めて男達と向かい合う。男達は冷や汗を流しながらも武器を構え、レノに怒鳴りつけた。
「や、やっと追い詰めたぞ!!」
「もう逃げられないからな……」
「よくも兄貴を……」
「また、あんたらか……昨日も痛い目を見たのにまたやられたいのか?」
レノは追いかけてきた男たちの顔を見て昨日も戦った牙狼団の男達だと知る。彼等に対してレノは荒正に手を伸ばすと、そんな彼等の背後から見た事もない男が現れた。
「何だお前等?こんなガキにやられたのか、情けない奴等だな!!」
「う、うるせえっ!!」
「金は払ってんだから黙ってやっちまってくれよ!!」
「仕方ねえな……下がってろ」
姿を現した男性は人間の男性で黒色のローブを纏い、その手には杖を持っていた。それを見たレノは人間の「魔術師」ではないかと気づき、警戒心を抱く。
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