第41話 退魔のローブと交換条件

「それでしたらこちらのローブはお勧めしますぞ」

「これは……?」

「元々は魔導士のために作り出された物ですが、一流の冒険者の方からも人気のしなものでございます」



小包の中身は「ローブ」らしく、黒を基調としており、それを手にしたネカは自慢げにローブの説明を行う。



「このローブはこの店の商品の中では最も価値があり、そして旅人の方からも人気が高い代物でございます。暑さや寒さにも強く、通気性も良好。しかも非常に頑丈で破れにくく、それでいながら水洗いだけで汚れが落ちる優れものでございます」

「おおっ、それは凄いですね!!」

「それだけではありません!!このローブの正式名称は退魔のローブと呼ばれているのですが、このローブの最も秀でた特徴は強い魔法耐性を誇るという事です!!」

「魔法、耐性……?」



ネカが手にした「退魔のローブ」とは最初に彼の言った通り、元々は魔導士のような職業の人間が着込むために制作された特別製のローブらしい。この退魔のローブは非常に高い魔法耐性を持ち合わせ、魔法に対する攻撃に対してある程度の威力までは防ぐ機能が存在するという。


例えばレノが「嵐刃」などの魔法で退魔のローブを切り裂こうとしても、魔法耐性の性質を持つローブは切り裂かれる事はないという。当たった箇所に衝撃は受けるのは避けられないが、ローブは傷つくことはないらしい。



「この退魔のローブを身に付けていれば仮に魔導士から攻撃を受ける事態に陥ったとしても、最低限の損傷に抑えることが出来ます!!魔法による攻撃でなくとも、頑丈に出来上がっておりますので普通の刃物でも簡単に切れる事はありません!!これぞ正に魔法のようなローブ!!」

「なるほど……でも、それだけ高性能だとお高いんでしょう?」

「お察しの通り、確かに値段の方は少々根が張りますな。それでも買い取り手は後を絶たず、我が商会でもこの店にしか置いておりません」

「そんなに人気があるんですか?なら、具体的な値段は……」

「金貨10枚でございます」

「き、金貨10枚!?」



レノは金貨10枚という言葉に動揺し、それほどの大金はレノは持ち合わせていない。しかし、ネカによるとこの値段で販売しても他の街ではすぐに売れてしまうという。



「この退魔のローブは冒険者からは特に人気が高く、階級が高い冒険者は収入も多いのですぐに大きな街で販売すれば売れてしまいます。最もこの街にはこの退魔のローブを購入できるような収入の多い冒険者はいませんが……」

「え、そうなんですか?」

「基本的には冒険者は階級が昇格すると、すぐに他の大きな街に赴いて活動を開始します。こんな小さい街では鉄級以上に昇格した冒険者はすぐに次の街に拠点を移しますからね」

「ああ、なるほど……」



ニノの街は他の街と比べると小さい部類であるため、街の規模が小さいと冒険者に依頼する人間の数も少ない。依頼が少ないと冒険者は稼ぐ事も出来ず、依頼を多く達成させなければ階級の昇格も難しい。そのためにニノの街の冒険者の殆どは一定以上の階級を昇格させると次の街に拠点を移して活動するのが慣わしになっているらしい。



「この街の冒険者の殆どが銅級から鉄級……そんな階級では挑む事が出来る依頼も制限され、収入の方も少なく、だからこそ高性能であってもこんな高額のローブを購入する者は滅多に現れません。先ほどはこの店に一つしかないといいましたが、実際の所はこの街でこのローブを購入する者はもう現れないでしょう」

「それなら、他の街で販売したりはしないんですか?」

「無論、それも考えました。しかし、この退魔のローブは先ほども申した通りに貴重品なので私としても簡単に手放すのを躊躇っていました。取引する際に金ではなく、物々交換を望む人間も時にはいますから、この退魔のローブも欲しがる人間が現れると思い、この店に置いていたのです。もちろん、商品として購入してくれるお客様が現れるのならば販売する事に何も問題はありませんが」

「そうだったんですね……でも、金貨10枚か」



レノは退魔のローブに興味をそそられるが、生憎と今の手持ちは先のネカから受け取ったお金を含めても金貨5枚分に届くかどうかである。ネカがわざわざレノを呼び出して退魔のローブを紹介したのは、彼に購入を進めているからなのは間違いない。


暑さや寒さにも強く、それでいて頑丈で水洗いでも汚れが落ちる衣類は長旅をする人間からすれば非常に魅力的だが、持ち合わせがない以上はレノは諦めるしかないと思ってネカに話しかけようとした時、ここで彼の方から口を開く。



「今日、レノ殿をお呼びしたのは他でもありません。レノ殿にある頼みごとを引き受けて欲しいからです」

「え?頼み事、ですか?」

「ええ、もしもの話ですがレノ殿が私の頼みを聞いて下さるのであれば……この退魔のローブを無償で差し出しても構わないと考えています」

「ええっ!?」

「勿論、金貨10枚分の価値はある仕事です。しかし、レノ様の実力ならば果たせると私は考えております」



ネカは真剣な表情を浮かべ、先ほどまでと雰囲気が一変し、商人として仕事相手に対応する顔つきへと変化した。その様子を見てレノはネカの頼みが只事ではないと悟り、とりあえずは話を聞く事にした。



「その頼みとはいったい何ですか?」

「……実はこの街にはとある魔物の目撃情報がありましてな。レノ様にはその魔物の討伐をお願いしたいのです」

「魔物、ですか?でも、そういうのは冒険者に頼めばいいのでは……」

「いいえ、駄目です!!こんな街の冒険者では相手にならないほどに強力な相手なのです!!」



興奮した様子でネカはレノの言葉を否定し、この街に暮らす冒険者では話にならないほどの強さを誇る魔物をレノに討伐してほしいと彼は考えていた。ゴブリンとホブゴブリンをあっという間に倒し、更にはかつて自分が命を救ってくれた隻腕の剣聖の弟子であるレノだからこそ彼は頼む。



「この街の冒険者に頼るぐらいならば私はレノ様に仕事を依頼したい!!もしもこの仕事を引き受けて下さるのであればこの退魔のローブは前金代わりという事で貸し出しましょう!!更に依頼を果たしてくれれば別の報酬も用意します!!だから、どうかお願いいたします!!」

「あ、あの……頭を上げてください。まずはその……仕事の内容から教えてくれませんか?」



机に額を押し付けんばかりに頭を下げてきたネカにレノは戸惑うが、とりあえずは彼から頼み事の内容を聞いてから引き受けるかどうかを判断する事にした。

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