第154話 仇を取る
「その、キバという人は何処で殺されたんですか?」
「……おい、地図を用意しろ」
「は、はい!!」
ロウガが指示を出すとすぐに傭兵の一人が机の上に地図を広げ、殺された場所をロウガは指差す。確かにレノ達が宿泊している宿屋からそれほど遠くはない場所に川が流れている場所が存在した。
「情報によると、奴はここで殺された。目撃したのはうちの団員だ、おいここで間違いないな?」
「は、はい!!確かに兄貴はこの場所で殺されました!!」
目撃者の団員によると彼はキバを捜索中、橋の上で彼が殺される場面を目撃したといいう。団員の話によるとキバが殺害された時に残念ながら殺人鬼の後ろ姿がしか確認できず、犯人は川にキバを落とすとすぐに逃走したという。
「橋の上で兄貴を見かけた時、兄貴は黒髪の男と話していました。兄貴はその男に何か怒鳴り散らしていたんですが、突然そいつがマントの下に隠していた剣を取り出して兄貴を……」
「マント?」
「そいつは灰色のマントを身に付けて姿を隠していたんだ。俺が見えたのはそいつの頭ぐらいで……特徴なんて黒髪の短髪だった事ぐらいしか分からなかった」
「……後ろ姿だけしか見ていないなら男とは限らないんじゃないの?」
「そんなはずはねえっ!!女にあんな真似が出来るもんかっ!!」
あくまでも犯人の後ろ姿しか見えず、髪の毛の色と髪型しか確認していないという話にレノは疑問を抱き、どうして相手が男だと言い切れるのか疑問だった。もしかしたら黒髪の女剣士の可能性もある事を指摘すると、目撃者の男は否定した。
「そいつは兄貴を剣で刺した後、剣を抜いた後に兄貴の身体を片手だけで放り込んだんだ!!あんな力業、女が出来るはずがねえ!!それに俺がみた奴は兄貴よりも小さかったんだ、小柄な女の出来る芸当じゃねえよっ!!」
「落ち着け、騒ぐんじゃない」
「あ、すいません……」
キバが殺された場面を見ていた団員はロウガの言葉に大人しくなるが、レノとしてはキバが無残に殺された後に川に投げ飛ばされた事は分かったが、犯人が女ではないとう根拠としてはどうかと思った。
犯人の特徴はレノのように小柄で黒髪の剣士であり、常人離れした怪力を誇るという。しかし、この時点でレノは容疑者として疑われる事に疑問を抱く。彼はハーフエルフである事を隠すために耳元の髪の毛は長く伸ばしている。それだと短髪という部分に当てはまらない。
「話を聞く限りだと髪の毛が短髪なら俺は当てはまらないんじゃない?」
「おい、どういう事だ……短髪だとは聞いてないぞ」
「えっ!?い、行ってませんでしたか?」
レノは自分の髪の毛を掴んで尋ねると、目撃者の男にロウガは視線を向けると彼は冷や汗を流しながら愛想笑いを浮かべる。この時点でレノは男が黒髪の剣士に襲われたとしかロウガに報告していなかった事を知り、これで容疑は晴れたのかとため息を吐く。
「俺はキバを殺していないし、そもそも短髪じゃない……容疑が晴れたのなら帰ってもいいですか?」
「待て……確かにこいつの話だと犯人は短髪だ。だが、本当にそう言い切れるのか?」
「はあっ?」
「おい、お前は本当にキバを殺した奴が短髪だと言い切れるのか?」
「え、いや……言われてみればそうだったような、そうでなかったような……」
ロウガの言葉に目撃者の男は汗を流しながら思い出そうとするが、本人もはっきりと覚えていないのか肯定も否定も出来ない。その様子を見てロウガは話を戻す。
「……悪いがこいつは頭の出来が良く無くてな、犯人が黒髪だとは覚えていてもしっかりと髪型までは記憶していない可能性もある。つまり、そちらの容疑が完全に晴れたわけじゃない」
「……脅しているようにも見えましたけど?俺を嵌めるためにわざと嘘の証言をさせているんじゃないですか?」
「そんな事はない……とはいえ、俺としてもキバを殺したのがあんたではないと考えている」
「えっ!?そうなんですか!?」
「このガキが犯人だと思って捕まえるように命じたんじゃ……」
「馬鹿共が!!俺は話を聞きたいから穏便に連れて来いと言っただろうが!!」
傭兵達はロウガがレノを犯人だと思い込んで自分の元へ連れてくるように指示したと考えていたが、当のロウガは本当にレノから話を聞くために呼び出しただけだと説明する。
「俺としてはあんたが犯人の可能性は低いと思っている。だが、逆にあんたが殺していないという証拠もない。その一方であんたと犯人の特徴が共通している件もある以上、疑わざるを得ない」
「証拠も何も、俺はやっていない……そうだ、宿屋の人に確認を取ったらいい、俺は外に出ていないと証明してくれるよ」
「それは証拠にはならない。殺されたのは深夜だ、宿屋の人間に気付かれないように抜け出す事も出来る」
「なら他に犯人じゃない証拠をどうやって示せばいい?そもそも俺が殺したという証拠もないのはそっちも同じでしょう?目撃証言だけで俺を犯人と言い張るのが無理もあるし、そもそも目撃者が……」
「俺の部下、だからな。俺達があんたを嵌めようと口裏を合わせているかもしれないと疑う気持ちは分かる。だが、俺達はそんな真似はしない……掟を犯したとはいえ、キバは俺の弟分だ。必ず仇を討つ……そのためには俺はどんな手を使っても犯人を見つけ出す」
レノの言葉にロウガは強い意志を宿した瞳を向け、そんな彼を見てレノは本気で彼がキバの仇を討つために真剣に調査をしている事を知る。しかし、だからと言って犯人だと疑われるレノとしては気分は良くない。
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