第155話 まさかの依頼
しばらくの間は沈黙が続き、やがてロウガは何かを決心したように立ち上がる。それを見たレノは彼が何をするつもりなのかと身構えると、予想外の行動を取った。
「……あんたに頼みがある」
「頼み……?」
「俺の弟分を殺した犯人の捜索を手伝ってくれ」
「団長!?」
「本気で言ってるんですか!?」
予想外のロウガの言葉にレノだけではなく、彼の部下の団員達も驚く。まさか犯人の可能性がある相手に殺人鬼の調査の依頼をしてくるなど思わず、頼まれたレノもロウガの言葉を聞いて訝しむ。
「調査を依頼?どうして俺がそんな事を……」
「簡単な話だ、現状ではあんたは犯人ではない証拠はない。だが、俺達に協力してキバを殺した本当の犯人を探し出してくれるというのであれば俺達はもうあんたに手出しをしない」
「勝手な言い分だな、こっちに何の得もない!!」
「得ならある、金を払おう。金以外の物でも俺達に出来る事なら何でも協力してやる……だが、断るというのであれば悪いが俺達が犯人を見つけるまでの間は大人しくしてもらおう。この街から出て行けないと思ってくれ」
「そんな脅しに……」
「色々と調べさせてもらったぞ、あんた……いや、お前の正体は巨人殺しの剣聖の弟子だろう」
巨人殺しという単語が出てきた事にレノは反応すると、ロウガは腕を組んだ状態で椅子に座り込み、自分達が調べ上げたレノの情報を口にする。
「昨日、お前が闘技場で派手に活躍したという話は部下からも聞いている。それで調べさせてもらったが、まさかあの巨人殺しの剣聖の弟子だったとはな……驚いたぞ、あの爺さんに弟子がいたとはな」
「爺ちゃんを……知ってるの?」
「ああ、実際に会って話した事もある。傭兵の中では伝説の男だからな……もう引退したと聞いていたが、まさか弟子がいたとは驚きだ」
「それで、俺の事を調べ上げてどうするつもりだ?」
「聞くところによると、巨人殺しの剣聖の弟子は凄腕の魔法剣士という噂も聞いている。魔法に関わる者であれば何が欲しがるのかだいたいの察しはつく、それを報酬として用意しよう」
ロウガの言葉にレノはそこまで自分の噂が流れているのかと内心驚き、やはり昨日の闘技場の一件は目立ちすぎたかと反省する。その一方でロウガの方はレノが望む物を依頼の報酬として差し出す事を約束した。
現状でレノが欲しい物は限られるが、強いて言うならば新しく作り出した鞘に取り付ける「魔石」を欲していた。魔石は高価なので店で買い取るとなるとかなりの値段が掛かる。今のレノの手持ちでも買えないことはないだろうが、路銀を無駄には出来ない。そこでロウガはキバの殺人犯の捜索を手伝うのであれば牙狼団が用意できる限りの報酬を用意する事を伝える。
「俺達の依頼を引き受けるのであればこれからは部下たちに二度とお前と、お前の仲間達には手を出させない。闘技場の地下で大活躍したという腕前を買ってお前に依頼を申し込む……俺の弟分を殺した犯人の捜索を手伝ってくれ」
「……その条件を引き受けた場合、俺は何をすればいい?」
「基本的には俺と行動を共にしてもらう。これから俺はある傭兵団の元へ向かう、そこにいる傭兵団の団長とは少し因縁があってな……だが、奴はこの街一番の情報屋と裏で繋がっている。その情報屋と出会って例の黒髪の剣士の情報を探りたい」
「情報屋……」
「場合によってはその傭兵団と揉め事が起きるかもしれない。そこでお前にも協力してほしい、どうだ?」
「……仲間と少し相談したい、時間が欲しい」
「分かった。だが、返事は今日中にしてくれ。もしも依頼を引き受けるつもりがあるならここへ戻ってきてくれ」
「分かった……」
ロウガはレノの言葉に頷き、黙ってレノは廃墟から出て行く。とんでもない事に巻き込まれたと思いながらも、他の者にどのように相談するかレノは思い悩む――
――宿屋へと戻ると、残念ながらドリスとネココは外に出ていた。二人は独自に街の情報屋を当たってゴノ伯爵の不正の証拠を集めるために出かけたらしく、宿屋に残っていたのはアルトだけだった。
「なるほどね、レノ君も僕に負けず劣らず厄介事に巻き込まれやすい体質なんだね」
「うっ……否定できない」
話を聞いたアルトは若干呆れた表情を浮かべ、お互いに会う度に何らかの厄介事に巻き込まれていた。話を聞き終えたアルトは考え込むように腕を組み、まずはロウガから聞いた話を参考にキバが殺された現場へ向かう事を告げる。
「よし、その依頼とやらを引き受けるかどうかは後にして、まずはキバという男が殺された場所に行こう。何か手がかりが掴めるかもしれないからね」
「でも、そんな場所ならもう調べつくしてあるんじゃ……」
「別に確認して損する事はないだろう?」
アルトの言葉も最もだと思ったレノは頷き、彼と共にまずはキバが殺されたという宿屋の近くの橋へ向かう事にした――
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