第320話 黒狼、盗賊王、蝙蝠の共同作戦
「この手紙の主はどうやら黒狼に所属していた事で僕達が今までに関わった連中、つまり蝙蝠の頭や盗賊王とも繋がりをもっていたらしいね」
「あの性悪女や野蛮人と!?」
「……ドリス、せめて名前で呼んであげて」
「まあ、そういう風に言いたい気持ちは分かるけど……」
設計図と手紙を木箱に収めた人物はどうやら黒狼の残党であり、どのような経緯を辿ったのかは不明だが、魔導大砲の開発に関わる人間だった。彼は同じく残党である黒狼の頭を務めていた「チェン」と繋がり、彼に魔導大砲の情報を流す。
魔導大砲の情報を知ったのはチェンだけではなく、彼と手を組んでいた「カトレア」の耳にも入り、彼女はその情報を自分と繋がっている盗賊王にも知らせる。
「手紙によると最初は黒狼の頭であるチェンと取引を持ち込もうとしたようだが、どうやらカトレアが介入して彼女が取引相手に変わったらしい。だからカトレアは自分の代わりに盗賊王のヤクラを利用して手紙の主から魔導大砲の引き渡しを行おうとしたようだね」
「ちょっと待ってください、でも盗賊王は魔導大砲を盗んだのは確かですけど、どうして設計図の方はここにあるんですの?」
「どうやら設計図の方はカトレアが直接受け取る手配をしていたらしい。重要なのがこの設計図がどうやら魔導大砲の完璧な設計図という事だ」
「完璧な……設計図?」
アルトの言い回しにレノは引っかかりを覚えると、若干興奮した様子でアルトは設計図の内容を確認し、この設計図がどれほど凄い代物なのかを伝えた。
「ああ、この設計図はどうやら正真正銘、本物の魔導大砲の設計図らしいんだよ」
「ど、どういう意味?魔導大砲はもう完成しているんじゃないの?」
「いや、僕達が見た盗賊王が盗み出した魔導大砲はまだ試作段階だった。しかも手紙によるとあの魔導大砲は一度使用すると壊れてしまう弱点があるらしい。だが、この設計図は改良を加えられている。つまり、この設計図こそが本物の魔導大砲を作り出せる兵器なんだよ!!」
「ア、アルトさん……どうして少し嬉しそうですの?」
「はっ!?すまない、学者の血が騒いでね……未知の物を前にすると興奮を抑えきれないんだ」
まだ世間には知れていない兵器の設計図を前にしてアルトは学者として意欲をそそられるが、内容が内容だけに興奮している場合ではない。問題なのは設計図に記されているのが魔導大砲と呼ばれる兵器の完全版なのだ。
「この魔導大砲の設計図をカトレアに引き渡した後、彼女を通して他国に売り渡す予定だったんだ。だけど、この手紙を記されているのはかなり前の物だ、ちょうど僕達がゴノの街に赴いたころだね」
「え?という事は……結構前に掛かれた内容じゃないの?」
「ああ、恐らくは手紙を書いた人間はこの時にカトレアがもういない事を知らなかったんだろう。その後、盗賊王に魔導大砲を引き渡すのは成功したらしいが、確か魔導大砲を引き渡した人間はもう捕まっていると言っていたよね?」
「ええ、それは間違いありませんわ。あの性悪女……いえ、セツナが確かにそう言ってましたわ」
「性悪女って……」
ドリスによると魔導大砲を盗賊王に引き渡した輩はセツナが既に捕まえたらしく、その辺の話はセツナの部下から伺っているらしい。つまり、この手紙の主は既に捕まっている事になる。
問題なのはこの手紙の主がどのような方法でカトレアに情報を引き渡すつもりだったのかであり、この手紙と設計図が入っていたのは収納石である。その収納石を収めた金属の箱は地面の中に埋まっていた。それをゴブリンの群れが探している事にアルトは疑問を抱く。
「この設計図と手紙はカトレアに当てられた物なのは間違いない……だが、現実問題としてカトレアはもう死んでいるはずだ。それなのにどうしてこの二つをゴブリンの群れが狙っているのか……謎は増々深まったね」
「ゴブリンの群れが収納石を探している理由……見当もつきませんわ、そもそも魔物が何故ジン国の兵器なんかを……」
「……考えられるとしたら、魔物の群れを裏で操っている存在がいる」
「じゃあ、これまでの魔物の群れの行動もそいつの仕業という事!?」
「現状では何とも言えないね……本当に今回の騒動がゴブリンキングの仕業なのかも怪しくなってきたよ」
カトレアが亡き今、本来は彼女が受け取るはずだった設計図と手紙が収まった収納石をゴブリンの群れが探し求める理由が分からず、レノ達は頭を悩める。まさかカトレアが実は生きており、ゴブリンの群れを操っているとは考えにくい。
セツナとの戦闘で彼女が氷像にされた光景はレノ達も目撃しており、カトレアが生きている事はあり得ない。それならば彼女以外の存在がゴブリンを裏で操って収納石を探し求めている可能性もあるが、その相手が現状では特定できない。しかし、アルトだけは何か気になる事があるのか、彼は考え込むように腕を組む。
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