第321話 ゴブリンを操りし者
「そもそもこの街が襲われた原因も気になるね……もしかしたら、ゴブリン達がシチノ地方を襲撃した理由はこの収納石を盗み出すために襲ってきたのかもしれない」
「じゃあ、この地方にゴブリンが現れたのは偶然じゃないの?」
「それは分からない、だけど収納石を探している事や、収納石がこの地で見つけた事は偶然とは思えない。ゴブリンの狙いは間違いなく、この収納石だろう」
「……仮に裏でゴブリンが操っている者がいたとしたら、その人物は何者ですの?」
「黒狼、蝙蝠、盗賊王の組織に所属していた残党か、あるいは……」
「あるいは?」
「……この計画に乗った他国の人間、つまりは他の国の人間の仕業かもしれない」
アルトの言葉にレノ達は驚くが、その可能性も否定できない事をアルトは告げる。元々計画の首謀者であるカトレアは設計図を盗み出した後、その設計図を他国に売り渡す予定だった。
他国の何者に売り渡す予定だったのかは不明だが、その何者かがゴブリンを利用して収納石を探し出している可能性もある。重要なのはその何者かがどうやってゴブリンの群れを操っているかであり、魔物使いの能力を持ち合わせた存在かもしれない。
「敵の正体が他国の人間で魔物使いの能力を持っていたとしたら、このシチノ地方の無差別攻撃も納得できる。いくらゴブリンの群れを暴れさせようと、自分の国じゃないんだから構わないと考えて行動しているのかもしれない」
「そんなの酷すぎますわ!!この地方の人間はどうなってもいいというのですの!?」
「他国の、それも敵対している国の人間だとすればむしろ都合がいいんじゃないのかな。ジン国の事を快く思わない国も少なくはない」
「そうなの?」
ジン国は世界の国々の中でも大国で知られ、その勢力は計り知れない。他国からもジン国は恐れられており、表面上はジン国と敵対する国は存在しない。だが、裏ではジン国を陥れようとする国があってもおかしくはないという。
「ジン国は大国だ、それこそ世界有数の国家と言っても過言ではない。だけど、国が大きければそれを快く思わない輩も現れる。特に過去にジン国と衝突した国の人間なら僕の言った事をやりかねない」
「じゃあ、もしも今回の出来事が他国の人間の仕業だとしたら……」
「その人間を捕まえられれば今回の騒動は解決する……はずだね」
「……はず、なの?」
「断言はできないよ、僕の言っている事は証拠もない全て憶測だからね」
「でも、あり得ないとは言い切れませんわ」
アルトの話は全て彼の推測であり、それをはっきりと証明する証拠はない。だが、可能性は決して零ではなく、用心する必要があった。
設計図と手紙の件に関しては一時的にアルトの収納鞄の中に隠しておき、他の人間に話すのはもうしばらく待つ事にした。具体的には王都の援軍が到着すれば彼等に話を通す方が有効的であり、それからレノ達は何もすることはなく、援軍が到着するまで街の防備を固める手伝いをしか出来なかった――
――同時刻、シチノから離れた場所に存在する丘の上にてゴブリンの集団が存在し、街の様子を伺う。姿を気付かれないように彼等は身を伏せ、やがて1匹のゴブリンが駆け出す。
ゴブリンは街から一番近い場所に存在する森の中に入り込むと、そこには多数のホブゴブリンが存在した。彼等は武装しており、人間のように鍛錬を行う。
「グギィッ!!」
「ギィアッ!!」
「ギギッ……!?」
ホブゴブリン達が互いに戦う姿にゴブリンは怯えるが、その様子を見て1匹のホブゴブリンが近付き、用件を尋ねる様に話しかけた。
「グギギッ?」
「ギギィッ……ギギッ!!」
話しかけられたゴブリンは慌てて手振り身振りも加えて話しかけると、それに対してホブゴブリンは頷き、すぐに自分達の「頭」の元へ向かう。
彼等を統率していたゴブリンキングは死亡した事により、現在は新しい頭が生まれた。その頭はゴブリンキングよりも頭が冴えており、他のホブゴブリンからの信頼も厚い。ホブゴブリンは急いで森の奥に存在する岩山へ向かうと、そこには岩の残骸の上に佇む存在が居た。
「グギィッ!!」
「……ギアッ?」
岩の上に座り込んでいたのはゴブリンキングと瓜二つの姿をした「スカー」であり、彼はゴブリンキングの体内に存在した魔石を食らい、進化を果たしていた。
スカーは元々はゴブリンキングがまだホブゴブリンの頃に生まれた子供であり、ゴブリンキングの子供の中でも最も知恵に長け、力の強いホブゴブリンだった。だからこそ他のゴブリンからも信頼され、ゴブリンキングが不在の際は彼が隊長格を務める程に優秀な存在だった。
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