第322話 新たなゴブリンキング

父親と同様にゴブリンキングへと進化を果たしたスカーではあるが、片目の傷に関しては未だに治っておらず、進化を果たしても古傷は治る事はない。この古傷は敵にやられて出来た傷ではなく、ある時にゴブリンキングに逆らった際、傷つけられた傷である。


ゴブリンキングとスカーの関係は良好とは言えず、ゴブリンキングは自分よりも配下のゴブリンに影響力を持つスカーの事を快く思っていなかった。それでもスカーが有能だった故に傍に置いていたが、スカーの方もゴブリンキングの事を実の父親とはいえ、心の底では憎しみを抱いていた。


父親が死んだときはスカーも衝撃を受けたが、すぐに彼はこれで自分の邪魔者が居なくなった事を悟り、悲しみよりも喜びが勝った。そして現在は父親の死骸を食らい、父親と同様にゴブリンキングに進化を果たしたスカーは真のゴブリンの王へと成長を果たす。



「グギィッ!!ギギィッ!!」

「ギアッ……」



配下のホブゴブリンの報告を受けたスカーは立ち上がると、自分達が撤退した事で人間達が街の警戒を緩めた事を知る。先代のゴブリンキングは力ずくで街に乗り込み、支配しようとしたがスカーの場合は力任せに攻める方法はしない。


スカーはゴブリンキングに進化を果たし、大きな力を手にした。だが、だからといって無暗に力任せに人間に戦闘を挑もうとしないのは先代のゴブリンキングが人間に敗れたからである。あれほど強かった父親が人間に敗れる姿を見てからスカーの人間の価値観は大きく変わる。


これまでにスカーは人間が脆弱な存在だと思い込んでいたが、実際の所は人間の中には恐ろしい力を持つ者がいる。彼の脳裏にはゴブリンキングを打ち倒した「ドリス」そして「レノ」の姿が思い浮かぶ。




先代のゴブリンキングがレノとドリスに敗れた光景を目にしてからスカーは人間という存在に恐怖を抱き、決して油断できない相手だと認識した。だからこそ彼は万全の準備を整え、街を攻め上げる計画を練るために撤退した。




準備は手間取ったが、既にスカーは街に攻め入る計画は出来上がっており、もう間もなく全ての準備は整う。この計画を実行した時、街の人間達は皆殺しにしてスカーは自分が「主人」と仰ぐ人間の指令を果たせると確信した。





――スカーはまだゴブリンだったころ、彼の前に「女」が現れた。その人物はスカーの力を見抜き、彼の中の「王の資質」を見抜いた女は彼に力を与える。



『貴方に私の力を与えてあげるわ……その代わりに私の言う事は全て従いなさい』

『ギギィッ……!?』

『貴方の中に眠る王の資質を開花してあげるわ』



まだゴブリンだったスカーの元に現れた金髪の髪の毛の女性は彼の頭に指をさし向けると、次の瞬間にスカーは電撃が走ったように身体中が痺れ、意識を失う。次に目を覚ました時、彼は自分の肉体の異変に気付く。



『グギィッ……!?』

『ようやく目覚めたようね、どう?新しい自分の姿に驚いたかしら?』



意識を取り戻した後、スカーは何時の間にかホブゴブリンへと進化を果たしていた。通常、ゴブリンがホブゴブリンに進化するには十分な栄養を摂取し続けなければならず、少なくとも1年近くはかかる。だが、生後一か月にも満たない間にスカーはホブゴブリンへと進化を果たした。


彼の進化を促したのは間違いなく女性の仕業であり、スカーは自分を進化させた彼女に驚き、同時に何故か彼女の存在を敬いたく思う。自分を進化させた事に対する感謝の気持ち、というよりも彼女には逆らえないと頭が理解しているような気分だった。



『貴方に頼みたいことがあるの、それはこれぐらいの大きさの金属の箱を探し出してちょうだい。色は黒、きっと人間が暮らす村か、あるいはその近くに隠されているはずよ』

『グギィッ……!?』

『いっておくけど、一人で見つけ出せる代物じゃないわ。まずは仲間を作り出し、邪魔者を排除して探し出しなさい』



女性の言葉にスカーは逆らう事が出来ず、この日から彼は女性の「僕」として生きる事になった――

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