第319話 設計図

「だああっ!!」

「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

「にゃうっ!?」



レノが刃を振り下ろした瞬間、強烈な衝撃波が周囲に広がり、収納石が砕け散る音が鳴り響く。地面には収納石の欠片が散らばり、やがて破片から黒色の煙のような物が生まれると、一か所に集まって「穴」のような形へと変化した。


空中に誕生した穴から木箱が飛び出すと、穴は完全に消え去り、地面に落ちた木箱をレノは拾い上げる。無事に収納石を破壊する事に成功したレノは自分のした行為に冷や汗を流し、予想以上に結果に驚く。



(何だったんだ、今の剣技の威力……?)



二つの刃を重ねて攻撃した瞬間、予想以上に強烈な衝撃波が生まれ、あの頑丈な収納石を容易く破壊出来た事にレノは戸惑う。だが、今は収納石を破壊して出現した木箱の中身を確認するのが先決だった。



「う、上手く行きましたの?」

「凄い、まさか本当に破壊できるなんて……」

「……何が出てきたの?」

「これ、だけど……」



レノは全員の前で木箱を持ち上げると、とりあえずは中身を開いてみる。金属製の箱に収納石が収められ、さらにその中には木造製の木箱を封じ込めるなど犯人はどれだけ用心深いのかと思いながらもレノは木箱の蓋を開けようとした。



「よいしょっと……これは、羊皮紙?」

「手紙も入ってますわね」

「なるほど、木箱を利用して収納石に入れていたのか。確かに収納石は一つの物体しか異空間に預ける事が出来ないが、収納物を利用すればこうして複数の物を封じ込める事が出来る。中々考えた使い方だね」

「……感心している場合じゃない、中身を確認する」



木箱には何枚もの羊皮紙と手紙が収められており、とりあえずは先に羊皮紙を広げて確認してみる事にした。その結果、羊皮紙に記されている内容を見てレノ達は驚愕する。




――羊皮紙に記されていたのはどうやら「設計図」らしく、絵柄と文章がびっしりと書き込まれていた。しかも設計図に記されている道具の完成した絵柄も記されており、そこにはかつてムツノの砂漠にてレノ達が目撃した「魔導大砲」と呼ばれるジン国が開発した兵器が記されていたのだ。




「こ、これは……魔導大砲の設計図ですの!?」

「……前に盗賊王の砂船に乗っていた物」

「あの時は確か盗賊王が盗み出したという話だったけど……まさか、あの時に見た兵器の設計図?」

「……これは間違いなく、重要機密だよ。この国が開発している兵器の設計図を誰かが盗もうとした。しかも、その何者かはゴブリンを利用して奪おうとした」



レノ達は設計図を目にして冷や汗を流し、この設計図の内容は決して一般人が見ては良い代物ではない。まだ世間にも知られていない開発中の兵器の設計図がどうしてこんな場所にあるのかを確かめるため、最後に残された手紙を確認する。


手紙を開いて中身を確認すると、ここで手紙の表面に紋様のような物が刻まれている事に気付き、それを見たレノは驚く。何しろ記されている紋様は黒色の狼の姿をしていたのだ。



「この紋様……まさか、黒狼!?」

「黒狼!?それは確か、私を誘拐したあの……!?」

「……まさか、奴等が関わっている?でも、あいつらは全員捕まったのに」

「まずは中身の確認からだ」



アルトは慎重に手紙を開き、その内容を確認した。その際にアルトは中身を読み進めると眉をしかめ、全ての文章を読み終えると頭を抱えた。



「なるほど、そういう事だったのか……これで点と点が繋がった」

「ど、どういう意味ですの?」

「手紙には何が書かれていたの?」

「……要約して」

「ああ、分かりやすく言うとだね……この手紙を書いたのは王都に潜伏している黒狼に所属していた協力者からの手紙らしい」

「あの黒狼の……!?」



かつてレノ達が壊滅させた組織の名前が出てきた事に全員が動揺を隠せず、特にドリスは顔色が青い。彼女からすれば嫌な思い出がある相手であり、本音を言えば二度と思い出したくもない過去である。



「ど、どうして……黒狼の残党はもう捕まったはずでは……!?」

「確かに君達の活躍で黒狼の残党は殆ど捕まった。だが、全員じゃなかった。どうやら王都にも黒狼の残党がいたようだね」

「なら、そいつがジン国の兵器の設計図を盗み出した」

「盗み出したどころじゃない、その兵器の開発に関わる人間だったんだ。手紙の内容によると盗賊王に魔導大砲を引き渡したのもこの手紙の主らしい」

「盗賊王に!?」



アルトによると手紙を書いた主こそが盗賊王に開発中だった魔導大砲を引き渡したらしく、彼は設計図だけではなく、試作段階の魔導大砲を盗賊へと引き渡す。その理由はこの国に対する復讐のためらしく、魔導大砲の存在を公にし、同時に他国に売り渡す予定だったらしい。

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