第318話 聖属性の魔法剣

(集中しろ……難しく考えるな、いつも通りに魔石から魔力を引き出せばいいんだ)



ミスリル製の魔法腕輪に装着した聖属性の魔石に意識を傾け、レノは蒼月を握りしめる。荒正ではなく、魔法の伝達力が優れた蒼月を選んだのは魔石から引き出した魔力を瞬時に刃に宿すためであり、レノは感覚を研ぎ澄ませた。


しばらく時間が経過すると、青色の刀身が白く光り輝き、聖属性の魔石から引き出した魔力が刀身に満ちる。その光景を見てアルトたちは驚き、レノ自身も本当に聖属性の魔力を操る事に成功した事に動揺する。



「あれ……何か、上手く行ったみたい」

「……凄い、眩しいはずなのに目が痛くない」

「こ、これは……間違いない、聖属性の魔力が放つ「白光」だ。まさか、本当に聖属性の魔法剣を完成させるなんて」

「し、信じられませんわ……いったい、レノさんはどれだけの魔法の適性があるんですの!?」



通常、魔術師や魔法剣士が扱える魔法の適性は限られており、多くても3つまでしか扱えないと言われている。だが、レノの場合は魔石を利用して魔力を引き出しているとはいえ、これで「風属性」「火属性」「水属性」「聖属性」の4つの適性がある事が発覚した。


適性がなければ魔力は扱えないはずであり、これでレノは聖属性の適性もある事が証明された。刀身に宿った聖属性の魔力を確認してレノは改めて収納石に視線を向け、何となくではあるが今ならば破壊できる気がした。



(……今なら出来る)



蒼月を握りしめたレノは事前に用意しておいた机の上に乗った収納石に視線を向け、刀を構えた。聖属性の魔力を宿した状態では兜割り等の剣技は扱えないが、それでも不思議とレノは力が沸き上がる感覚に陥る。


聖属性の魔力は人体を癒す効果もあり、全ての魔法の属性の中でも生物に優しいともいえる。その影響なのかレノは普段以上に力を込めて刀を振り下ろす。



「はああっ!!」

「くっ!?」

「や、やりましたの!?」

「……壊れた?」



刀が勢いよく叩きつけられると、収納石を乗せていた机は破壊され、地面に残骸が散らばる。その様子を確認したレノはすぐに収納石を調べてみるが、残念ながら机の残骸から出てきた収納石は壊れていなかった。



「ああ、駄目だったか……」

「これでも無理か……」

「やはり、収納石を壊すのは不可能では……」

「……待って」



レノが拾い上げた収納石を見てアルトとドリスは残念そうな声を上げるが、ここでネココは何かに気付いたように近付き、彼女はまじまじと収納石を観察する。そして何かに気付いたようにネココは収納石を指差す。



「……ここの部分を見て、少しだけ傷が入っている」

「えっ!?」

「それは本当かい!?」

「まさか……!!」



ネココの言葉にレノは慌てて収納石に視線を向けると、確かに注意深く観察しなければ分からない程だが、掠り傷のように小さな亀裂が入っていた。それを確認したネココは先の攻撃よりも強烈な一撃を与える様に伝える。



「きっと、あと少しで壊れる。今度はもっと威力を上げる必要がある」

「威力を上げろと言われても……」

「生半可な攻撃は通用しなそうだね……それこそレノ君が普段から扱うような剣技ぐらいの威力でないと」



アルトの見立てでは収納石を破壊するにはレノが扱う地裂のような剣技ぐらいの威力がなければ壊せず、どうにか方法はないのかを考える。レノは聖属性の魔力を宿した蒼月に視線を向け、この状態で風属性の魔力を加えられるか試す。



「くっ……駄目だ、この状態だと風属性の魔力は宿す事が出来ないみたい」

「えっ!?でも風属性や火属性は同時に魔力を宿す事は出来るんでしょう?」

「恐らくは属性の相性が問題なんだろう。火属性は風属性の魔力を吸収する性質を持っているけど、聖属性の場合は風属性と相性が悪いようだね」

「……なら、他の方法を試すしかない」



聖属性の魔力を宿した蒼月には風属性の魔力は受け入れないらしく、魔力を送り込もうとしても反発されてしまう。そのために風属性の魔力を利用した剣技は扱えなかった。


レノが扱う剣技の根本は風属性の魔力であるため、その風属性が受け付けなければどうしようもない。だが、収納石を破壊するためには風属性の魔法剣並の威力を引き出さなければならず、ここでレノは荒正に気付く。



「そうだ、これなら……」

「レノさん?何か思いついたんですの?」

「……皆、下がってて」



レノは収納石を地面の上に置くと、左手に蒼月を構えた状態で右手で荒正を抜き取る。その光景を見てネココ達は驚き、剣と刀を同時に手にしたレノは意識を集中させる。


左手の蒼月には聖属性の魔力を宿し、右手の荒正にはいつも通りに風属性の魔力を宿すと、レノは地面に置かれた収納石に目掛けて二つの刃を構えた。そして剣と刀の刃同士が重なり合うように振り下ろす。

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