第199話 侵入成功

「――中々面白い三文芝居だった」

「三文芝居というのは止めてあげなよ……」

「そうですわ、演技とは思えないぐらいに白進の気迫でしたわ!!」



闘技場の受付前にてロウガと彼の配下の団員達が騒ぎを起こして注目を集めている頃、レノ達はこっそりと受付へ忍び込み、奥の通路へと移動を行う。職員や兵士は騒動に夢中だったので上手く3人は侵入する事に成功した。


レノ達は闘技場の営業時間の終了直前に忍び込む事にした理由、それは訪問客が飼えるために出入口に人が集まるために人込みに紛れやすく、上手く受付口に近付く事が出来る。そして闘技場の警備が強まる寸前のため、通路には巡回する兵士もいない。



「……辿り着いた、ここがネズミ婆さんが教えてくれた抜け道が繋がる倉庫」

「手紙に書いてあった通りに魔道具製の錠が施されていますわね」

「この先に行けばゴノ伯爵の屋敷に繋がるのか……」



遂に隠し通路が存在する倉庫へと辿り着くと、レノ達は扉を前にして錠型の魔道具が施されている光景を見て悩む。この先に侵入するためには鍵が必要なのだが、その鍵を調達するのはレノ達ではなく、事前に送り込んだ味方の力が必要不可欠だった。



「チュチュイッ!!」

「この声は……リボン!!」



聞き覚えのある声が足元から聞こえたレノは振り返ると、そこには鍵を抱えたリボンが駆けつける姿が存在し、彼女は息を切らしながらも背負っていた鍵を差し出す。それをネココは受け取ると、リボンの頭を指先で撫でる。



「助かった、ありがとうリボン……これでこの間、私達を見捨てて逃げた件は忘れてあげる」

「チュチュッ……(ごめんなさい)」

「もういいではないですの、ネズミが蛇を恐れるのは仕方ありませんわ」



レノはリボンに手を差し出すと、リボンは彼の掌の上に乗り込み、右肩に移動する。全員の準備が整うとネココは鍵穴に鍵を差し込み、錠を外す。



「よし、外れた……後は先へ進むだけ」

「ですけど、この扉が開いている事を知られれば私達が侵入した事に気付かれるのでは?」

「大丈夫、それもネズミ婆さんに相談済み」

「チュチュチュッ!!」



ドリスの心配に対してネココはリボンに視線を向けると、レノの右肩に乗り込んでいたリボンは鳴き声を上げると、通路のあちこちから複数のネズミが出現し、足元に集まる。


リボンも肩の上から下りるとネズミ達と共に扉の取っ手に引っかかった南京錠型の魔道具へと近づき、力を合わせて鍵を掛ける。更にはリボンがネココから受け取った鍵を掴むと、器用に鍵穴に差し込んで鍵を開く。



『チュチュウッ!!』

「……私達が扉の内側から3回ノックすればこのネズミ達が現れて鍵を開いてくれる」

「べ、便利ですわね……これなら私達が入っても鍵を閉めれば他の人間に気付かれる恐れはありませんわ」

「あまりもたもたしていられない。すぐに中に入った方がいい」

「そうだね、じゃあ行こうか……ゴノ伯爵の元へ」



レノ達は互いの顔を見て頷くと、遂に倉庫へと足を踏み入れて扉を閉める。ネズミ達が上手くやったのか鍵を閉める音が鳴り響き、これで外部からは怪しまれる心配はなくなった。



「ここが倉庫……ですの?」

「正確には金庫代わりに利用している場所……ほら、凄いお金」

「うわっ……これだけでどれだけ入ってるんだろう」



倉庫の中には大量の木箱が並べられ、中身を開いて確認すると銅貨、銀貨、金貨と分けられていた。この場所には闘技場の売上金が保管され、この場所に出入りするゴノ伯爵は売上金の一部を横領している。



「……自分の命を守るために抜け道を作ったというより、このお金が目当てで抜け道を作ったようにしか思えない」

「その通りですわね……カジノを運営するだけではなく、闘技場の売上金にまで手を出すなんて、何処までも強欲な男ですわ!!」

「……先を急ごう。どこに急ごう。何処に抜け道があるんだろう?」



レノは周囲を見渡し、抜け道が隠されていそうな場所を探すと、ここでネココがネズミ婆さんの情報を頼りに壁際へと移動すると、壁に固定されている燭台に手を伸ばす。



「ここをこうすれば開くはず……ほらっ」

「おおっ!?」

「凄い仕掛けですわね……」



燭台をネココは燭台を右に回すと、煉瓦の壁が左右に開き、暗闇に覆われた階段が出現した。この階段を降りた先が伯爵の屋敷に繋がる地下通路が存在し、その通路を進めば伯爵の書斎に繋がるはずだった。


屋敷に忍び込めさえすれば伯爵が隠している不正の証拠があるはずであり、何としても証拠を掴まなければならない。もしも証拠を見つける事は出来なければレノは指名手配された犯罪者のまま生きなければならない。



「……私の後に付いて来て」

「分かった……よし、行こう!!」

「ええ、行きましょう!!」



覚悟を決めるようにレノは両頬を軽く叩き、ドリスも魔剣を強く握りしめ、ネココも頷く。3人はロウガに渡された仮面を念のために装着すると、階段を降りて地下通路を目指す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る