第198話 囮作戦開始!!
「間もなく当闘技場の営業時間は終了します!!用事がない方は速やかに帰宅してください!!指名手配犯が捕まったという報告は受けていないため、御帰りの際はお気を付けください!!」
「ちっ、もうそんな時間か……」
「ここにいるとすぐに時間が過ぎるな……」
「畜生、今日は大損だぜ!!」
闘技場内の兵士が呼びかけを行い、営業時間が終了する前に訪問客の退出を促す。だが、この時に受付の近くにて大声を上げる人間が存在した。
「もうやってられるか!!てめえの下なんぞに付くのは御免だ!!」
「……何がそんなに不満なんだ?」
「うるせえっ!!いつもいつも、偉そうに指図しやがって……てめえの事は昔から気に入らなかったんだ!!」
「キバの兄貴が死んだのもお前のせいだ!!」
闘技所うの出入口に向かおうとした者達は騒ぎを聞きつけて何事かと視線を向けると、そこには酒瓶を片手に盛った男達と、その男達と向かい合う大柄な獣人族の男性が立っていた。
「おい、見ろよ……あれ、牙狼団じゃないのか?」
「マジかよ!!喧嘩か?」
「さ、流石に迫力があるな……」
闘技場に訪れた者達は喧嘩しているのが牙狼団のロウガと彼の配下の団員だと知って驚き、何事かと様子を伺う。闘技場の警備兵が駆けつけ、彼等が何を騒いでいるのかを尋ねる。
「おい、何の騒ぎだ!!」
「どんな客だろうと、ここで騒ぎを起こすのは許さんぞ!!」
「待ってくれ、俺はただ話をしたいだけで……」
「今だ、やっちまえ!!」
警備兵が駆けつけて事情を尋ねようとした時、団員の一人がロウガの頭に目掛けて酒瓶を振りかざし、叩きつける。その結果、酒瓶が割れて破片と中身が零れ落ち、その様子を見ていた女性客は悲鳴を上げた。
ロウガは酒瓶で殴りつけられた際も微動だにせず、頭から酒を被っても顔色変えずに団員を見下ろす。その行為に団員は震え上がるが、ロウガはそんな彼に語り掛ける。
「これで……満足したのか?」
「こ、こ、この野郎……ここ、怖く何かねえぞ……!!」
「お、おい!!何をビビってんだ!!こんな奴、3人がかりでやっちまえば……!!」
「そ、そうだ!!怖くねえぞ!!」
3人の団員はロウガの迫力に今にも股間を濡らしそうになるが、勇気を振り絞るように武器を取りだす。その光景を見ていた兵士達は慌てて彼等を止めようとした。
「や、止めろ!!お前達、武器を収めるんだ!!」
「ここを何処だと思っている!?伯爵が管理する闘技場だぞ!!逮捕されたいのか!!」
「あの、大丈夫ですか!?すぐに拭いた方が……」
「問題ない、悪いが下がっていてくれ」
ロウガを庇うように兵士達は前に出るが、そんな彼等を制してロウガは3人の団員の前に出る。その迫力に3人は涙目を浮かべるが、そんな彼等にロウガは何を考えたのか地面に座り込む。
「お前達が俺にどれだけ不満を抱いているのかよく分かった。ならば、好きなだけ俺の事を殴るといい。だが、武器なんて使うな。不満を発散させたいのであれば全力で殴り、蹴るんだ……そちらの方が気が晴れるだろう」
「な、何を言ってるんですか!?」
「ちょっと、こんな場所でもめ事は……」
「かあっ!!」
兵士達はロウガの言葉を聞いて慌てて彼を立ち上がらせようとしたが、そんな彼等に対してロウガは一括すると、兵士達は怯えた表情を浮かべて立ち止まる。その様子を見てロウガは彼等に頭を下げる。
「迷惑を掛ける事は承知だ。だが、俺にも意地がある。こいつらは俺の部下であり、仲間だ。ならば傭兵団の長としてこいつらの不満を受ける覚悟は出来ている」
「い、いや……そういわれましても」
「申し訳ないが、しばらくの間だけ邪魔をしないでくれ。これが終われば連行でも何でもしてくれて構わない……この通りだ」
「ちょちょっ……頭を上げてください!?」
躊躇せずに頭を下げてきたロウガに兵士達は慌てふためき、牙狼団は傭兵団の中でも有名であり、その団長がただの兵士に頭を下げるなどただ事ではない。闘技場の客の中には傭兵も多数存在し、彼等の前でロウガは頭を下げる姿を見せてしまった。
傭兵団にとって面子は何よりも大事にしなければならず、威厳がない傭兵など誰にも相手にはされない。しかし、大衆の面前でこの街の中でも指折りの実力を誇る「牙狼団」の団長が頭を下げる姿に大勢の人間が注目した。
「う、嘘だろ……あのロウガが頭を下げてやがる」
「信じられねえ……」
「な、何が起きてるんだ……!?」
ロウガが黙って頭を下げる姿に傭兵達は驚愕し、誰もが呆然とした。普通ならば自分の部下に反抗され、さらには警備兵に頭を下げるとう情けない光景なのだが、ロウガの迫力があり過ぎて下手に侮辱する事が出来なかった。先ほどまでは彼を侮辱していた団員達もロウガの姿に涙を流し、武器を落としてその場に土下座する。
「ろ、ロウガさん!!俺達が間違っていました……!!」
「キバの兄貴が死んだのは団長の責任じゃねえ……すまなかった!!」
「本当に申し訳ございません!!」
「……分かればいいんだ。俺も、お前達に苦労を掛けていたようだな。本当にすまなかった」
自分に対して頭を下げてきた団員達にロウガは微笑むと、その光景を見ていた者達は何となくだが拍手を行い、ロウガの器の大きさを感じさせた――
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