第197話 セツナの勘

「確かに言われてみればあの時に見かけた子と似ているかもしれませんが……」

「いや、同じ顔だ。間違いない、男の癖にまるでエルフのように綺麗な顔立ちだったからな。それに黒髪の人間など滅多にいないだろう」

「そうですね、確かに珍しいと思いますが……」



容姿端麗な者が多いエルフの血を継いでいるレナも顔立ちの方は整っており、しかも黒髪の人間など滅多に見かけない。しかも手配書の内容によると少年は魔法剣の使い手だと記されていた。



「この手配書の内容が事実だとしたら、この少年は私と同じ魔法剣士だ。そしてあの場に存在した少年も魔法剣士らしいな……こんな偶然があり得ると思うか?」

「では、セツナ様はあの少年とドリス様がこの指名手配された者達と同一人物だとお考えなのですか?」

「断定は出来ない、だが私の勘が告げている。この二人は間違いなくあの女とあの時の少年だとな……」



自分の勘を信じているセツナの言葉にリンはため息を吐き出し、突拍子もない話だがこういう時のセツナの勘はよく当たった。しかし、彼女の推測が正しければドリスは王国騎士の立場でありながらゴノ伯爵に指名手配される事態を引き起こした事になる。



「リン、これは好機だぞ。あの女、また面倒事に巻き込まれているようだ」

「セツナ様……まさか、この指名手配犯を我々の手で捕まえるつもりですか?」

「いや、この街の管轄はあの伯爵だ。私達が出向くわけにはいかない、視察もしなければならないからな」

「ならば、どうするおつもりですか?」

「別にどうもしない、事の成り行きを見せてもらう。もしも本当にゴノ伯爵がこの指名手配犯たちを捕えた場合、私が仲裁すればあの女は私に対して二度と大きな顔が出来ないだろう?」

「……だから伯爵に発破をかけたのですか」



セツナの言葉にリンは呆れ、気に入らない相手だからといって仮にも同じ王国騎士なのにどうしてドリスとセツナはこうも仲が悪いのかとため息を吐き出す――






――同時刻、王国騎士のセツナがゴノ伯爵の屋敷に存在する事も知らずにレノ達は屋敷の侵入の準備を行う。まずは闘技場に忍び込む必要があり、話し合いの結果として闘技場の閉鎖時間の直前に忍び込む事が決まった。



「お前達の格好だと目立つ。この服と仮面を持っていけ」

「仮面?」

「お前達の顔は既に知れ渡っている。それならば顔を隠すしかないだろう、ないよりはましだ」



ロウガは行動を起こす前にレノ達に仮面を渡す。デザインは目元の部分を隠すだけで結構派手な柄であり、むしろ逆に目立つのではないかと思われた。しかし、時間もないのでレノ達は仮面を受け取ると、まずはフードを纏って素顔を見られないように気を付ける。


闘技場に向けてロウガと共にレノ達は牙狼団の団員数名と共に行動を開始した。闘技場に到着すれば後戻りは出来ず、覚悟を決めなければならない。



「ネココ、ネズミ婆さんからの連絡は?」

「……まだ届いていない。だけど、必ずやってくれる」

「ううっ……まるで泥棒に入る気分ですわ」

「似たような物だろう……だが、俺達のやっている事は間違いではない。俺達が行動を起こさなければあの伯爵の悪行を世間に知らしめる事は出来ん」



自分の妹を傷つけようとしたゴノ伯爵をロウガは許す事は出来ず、彼が失脚するのであればロウガはレノ達に全力で手伝う事を約束する。今回の作戦にはロウガの力も必要であり、団員達の力も借りなければならなかった。



「だ、団長……本当にやるんですかい?」

「他に方法はないんですか?」

「ここまできて怖気づくな……お前等は俺の言い付け通りに動けばいい」

「は、はい……分かりました」



団員達は自分の荷物に視線を向け、これから自分達が行う事に顔色を青くさせる。下手をしたら殺されるのではないかと考えるが、どうしても受付の人間の注意を引くには囮役が必要不可欠であった――





――そして遂にレノ達は闘技場へと辿り着くと、ここで全員がバラバラに分かれて入り込む。ここから先は牙狼団に任せるしかなく、人込みに紛れながらもレノはネココとドリスの位置を把握し、作戦の開始時刻まで待ち構える。

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