第196話 セツナの興味

「ここまでの道中、街中で巡回する兵士を度々見かけました。彼等に話を聞いたところ、なんでも指名手配犯を捜索しているとの事ですが……本当ですか?」

「そ、その通りでございます!!実は昨日、私が支援している店で騒ぎを起こした者がいまして、その者達を捕まえるために……」

「あの趣味の悪いカジノの事か。噂はよく聞いているぞ」



ゴノ伯爵の言葉にセツナはカジノの事を知っている素振りで話し、そんな彼女の態度にゴノ伯爵は内心では苛立ちを抱く。この街のカジノは周辺の貴族の間でも有名で人気があるので闘技場に次いだこの街の名物と自負していた。それを趣味の悪いの一言で済ますセツナに彼は苛立ちを抱く。



「セツナ様がお気に入りになられないのは残念でございます……ですが、犯人の捜索に関しては我々の方で既に対処しています。街中に犯人の似顔絵を配布し、傭兵団や冒険者ギルドにも協力してもらっていますので必ずや数日中には犯人を捕まえてみせましょう」

「そうか、手に余るようなら私が手を貸してやろうと思ったが、そこまで言い張るのならば伯爵に任せよう。但し、言っておくが指名手配されるほどの犯罪者が存在するかもしれない街に陛下が訪れる事はあり得ない。私の滞在期間中に処理しなければ陛下の来訪はないと思うんだな」

「そ、それは……承知しております!!必ずや、三日以内に犯人を捕まえてみせましょう!!」



セツナの言葉にゴノは顔色を青くさせ、何としても三日以内にカジノで騒動を引き起こした犯罪者を捕まえなければならないと心に決める。忠告を告げたセツナはリンを引き連れ、屋敷の使用人の案内で客室へと向かう事にした。



「伯爵、私達も着いたばかりで少し疲れていてな。しばらくの間は休ませてもらうぞ」

「は、はい……どうぞ、ゆっくりとお休みください」

「視察は明日から行う。今日の所は私も騎士団も街には赴かない……その間に犯人が捕まる事を祈っているぞ」



最後にセツナはゴノ伯爵に発破をかけるように告げると、伯爵は表面上は笑顔を浮かべながらも、内心では今すぐにこの小娘を殴り倒したという気持ちを抱く。そんな彼を残してセツナとリンは退室すると、ゴノ伯爵は癇癪を引き起こしたように部屋の中で待機する使用人に命じた。



「今夜中に犯罪者共を捕まえろ!!どんな手を使ってもだ、情報屋でも何でも利用して引きずり出せ!!」

「は、はい!!」



ゴノ伯爵はセツナの言葉を今夜中に犯人を捕まえろと捉え、どんな手段を用いても犯人を捕まえるように部下に命じた。今回の視察の結果によっては国王が来訪する可能性があるのならばこの好機を逃すわけにはいかなかった――





――客室へと案内されたセツナはリンと向かい合う形で座り込み、持参した茶葉でリンに紅茶を注がせると、セツナは嬉しそうに香りを楽しむ。



「うん、やはりリンの紅茶が一番おいしいな」

「恐縮です……それよりもセツナ様、どうしてあのような事を伯爵に告げたのですか?」

「ああ、指名手配犯の事か?」



セツナは机の上に乗ったゴノ伯爵が発行した手配書に視線を向け、そこに描かれている似顔絵を確認する。手配書は3枚存在し、その3名の内に黒髪の少年と金髪の少女を見てセツナは紅茶を口にしながら眉をしかめる。



「この金髪の女……あの女に似ていると思わないか?」

「王国騎士のドリス様の事でしょうか?確かに似ていると思いますが……他人の空似でしょう」

「普通に考えればその通りだ。王国騎士ともあろう者が指名手配されるなど有り得ないからな。だが……それにしては妙に似ているとは思わないか?」



貴族の令嬢に変装したドリスの似顔絵を見てセツナは妙に気になり、普通に考えれば仮にも自分と同格の王国騎士の位を与えられている彼女が指名手配されるなど有り得るはずがない。


セツナは自分と同じく公爵家で王国騎士の地位に就く彼女の事が気に入らず、自分と違って実力で王国騎士の座に就いたわけではなく、昔かの慣習で王国騎士の座に就いた彼女を認める事が出来なかった。その一方で嫌いだからこそ彼女の事は無視できず、逐一彼女の動向を把握していた。



「あの女は人材集めという名目で王都へ帰還せず、この闘技祭が行われる街に向かうという報告が届いていたな。時期を考えればこの街に辿り着いていてもおかしくはない」

「そうですね、ですがゴノ伯爵はドリス様の所在を掴めていないようです。しかし、だからといってドリス様が指名手配されるなど有り得ないのでは……」

「私が気になっているのはこちらの少年の方だ。この少年、間違いなくこの間にドリスの傍に居た少年じゃないのか?」



3枚の手配書の内、少年の顔が記された手配書をセツナはリンに見せつけると、確かにその手配書の顔はリンも見覚えがあった。黒狼の拠点へ辿り着いたとき、現場に存在した少年と顔が瓜二つだった。

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