第326話 ゴブリンキングの真の力

「うおおおおおっ!!」

「た、隊長!?これ以上は……!!」

「もう十分です、建物に炎が燃え移りますよ!?」



警備隊長の男は杖から炎を放ち続け、正面に立つスカーの全身が炎に飲み込まれても攻撃を止めない。それを見た兵士は警備隊長を落ち着かせようとするが、彼等が止める間もなく杖先に展開された魔法陣に異変が生じる。



「うあっ……!?」

「た、隊長!?」

「しっかりして下さい!!」



魔力が切れたのか、杖先から展開されていた魔法陣が縮小化し、やがて完全に消え去ってしまう。その直後に警備隊長は白目を剥いて倒れ込み、動かなくなった。


慌てて兵士達は駆けつけて警備隊長を介抱すると、どうやら魔力を使いすぎて気絶したらしく、しばらくは目覚めそうにない。一度の砲撃魔法で全ての魔力を使い切ったらしく、もう魔法が使える状態ではなかった。



「隊長!!聞こえてますか!?隊長ってば!!」

「駄目だ、完全に気を失っている。これだと朝まで目覚めないぞ……」

「で、でも……これで倒したんだよな?」



警備隊長が気絶したのを確認すると、兵士達は不安の表情を浮かべながらも黒煙に包み込まれたスカーの様子を伺う。警備隊長の火属性の砲撃魔法をまともに受けたスカーは全身の炎が消え去ると、煙を噴き出した状態で動かない。



「や、やった……倒したぞ、あのゴブリンキングを倒したんだ!!」

「流石は魔法だ!!こんな化物を倒すなんて……」

「何だよ、思ったよりも呆気なく終わったな……えっ?」



砲撃魔法によってスカーが完全に倒したと思い込んだ兵士達だったが、ここで攻撃を受けた後から動かなかったスカーの身体が震え出し、やがて目を見開くと口元から煙を放つ。



「ブホォッ!?ガハッ……アアッ!!」

「う、うわぁっ!?ま、まだ生きてるのか!?」

「そ、そんな馬鹿なっ!?隊長の魔法はあの赤毛熊も一発で吹き飛ぶんだぞ!?」

「ば、化物だっ!!」



煙を吐き出しながらスカーは起き上がると、何度か激しく咳き込みながらも身体が動く事を確認し、憎々し気な表情を浮かべる。どうやら致命傷どころか肌が少し焦げた程度で大した損傷は負っておらず、それどころか余計に怒りを煽る形になった。


自分をこんな姿にした警備隊長に対してスカーは睨みつけると、ここで彼は後方に存在する城壁に視線を向け、ゆっくりと近づく。その様子を見て兵士達は何をする気なのかと警戒すると、あろう事かスカーは城壁へ向けて手を伸ばす。



「グガァッ……!!」

「な、何だと!?」

「そんな馬鹿なっ……」

「煉瓦の壁を……むしり取った!?」



とんでもないことにスカーは城壁に手を伸ばすと、驚異的な握力で煉瓦製の壁をむしり取り、煉瓦の破片を手の中に収める。そして兵士が投擲を行うようにスカーは右腕を振りかざすと、投擲を行う。



「ギガァッ!!」

「うわぁっ!?」

「ぎゃあああっ!?」

「ひいいっ!?」



警備隊長を介抱していた兵士達に煉瓦の破片が襲い掛かり、ゴブリンキングの怪力で放り込まれた破片の威力は正に大砲の如き威力を誇り、破片に衝突した兵士の肉体は吹き飛ぶ。


投げ飛ばされた破片によって兵士達は倒れ込み、全員が気絶したのか身体を痙攣させるだけで逃げる事も出来ない。それを確認したスカーは鼻を鳴らし、改めて兵士達と向き直る。



「グガァアアアアッ!!」

「う、うわぁああああっ!?」

「ば、化物だ……こんなの、ゴブリンじゃない!!」

「怪物……いや、鬼だ……!!」



スカーはゴブリンとは思えないような鳴き声を放つようになり、その姿は魔物の中でも最弱種と呼ばれるゴブリンなどではなく、正に緑色の鬼という表現が正しい。



「グガァッ!!」

「ぎゃああっ!?」

「うぎゃっと!?」

「た、助け……がああっ!?」



兵士達に対してスカーは遂に本格的な攻撃を実行し、次々と兵士達は吹き飛ばされていく。腕に振り払われただけで兵士達の身体は十メートル近くも吹き飛び、反撃を試みようにも皮膚にはどんな刃も突き刺さらず、攻撃を仕掛けた武器の方が壊れてしまう。



「く、くそっ……旋風!!」

「回転!!」

「兜割りっ!!」



戦技を扱える兵士は何名か存在したが、彼等の攻撃を受けてもスカーは怯まず、それどころか煩わしそうに身体を掴み取り、確実に握り潰す。



「ギアアッ!!」

「うがぁあああっ!?」

「あがぁあああっ!?」

「や、止めろっ!!離せっ、この化物……ぐはぁっ!?」



両手でスカーは2人の兵士を握り潰そうとすると、それを助けようとした兵士を蹴飛ばし、彼は確実に戦技を扱える兵士を始末する。その光景を見て他の兵士は動く事も出来ず、恐怖のあまりに戦意を失う。


兵士の中でも魔法扱えるのは警備隊長だけだり、そして戦技が扱える者達も殺され、もうスカーに歯向かえる力を持つ者はいなくなった。残された兵士達はこのまま自分達も無残に殺されるのかと思った時、唐突にスカーは何かに気付いたように目を見開く。

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