第310話 爆炎の一撃

「ドリス!!」

「準備は出来ていますわ!!」

「ギアッ!?」



片腕を失って動けないゴブリンキングに対してレノは樽爆弾を握りしめると、既にドリスはレノの元へ駆け出していた。樽爆弾がゴブリンキングに触れた瞬間、二人が魔法剣を発動させて「爆炎刃」を解き放つ。


樽爆弾を爆炎刃で引火させれば例えゴブリンキングであろうと倒せるだろうが、その前にレノ達も爆発に巻き込まれない場所まで移動しなければならない。ドリスとレノはゴブリンキングから離れるために移動しようとした時、ここで思いもよらぬ事態が発生した。



「うあっ!?」

「レノさん!?どうしたんですの!?」

「あ、足が……!!」



レノが駆け出そうとした途端、異様な疲労感に襲われて足がもつれてしまい、それを見たドリスは驚愕の表情を浮かべる。自分の身体に何が起きたのかとレノは混乱するが、ここで手にしていた「蒼月」を見て肉体の異変の原因に気付く。



(しまった……蒼月の方が荒正よりも魔力が巡りやすいせいでさっきの嵐断ちで予想以上に魔力を使い込んだのか!?)



先ほどの「嵐断ち」を繰り出した際、実戦で使用するのが初めての事もあり、必要以上にレノは刀身に魔力を送り込む。その結果としてゴブリンキングの腕を切り裂く事には成功したが、その代償として予想以上に魔力を消耗してしまう。


蒼月は荒正よりも魔力の巡りが早い分、時間をかけて魔力を練る必要はない。だが、魔力の巡りが早過ぎるだけに余分に魔力を消耗したらしく、少し休憩しなければ身体は動けなかった。


レノが動けない間に周囲に広がっていた炎も徐々に小さくなっていき、ゴブリンキングの肉体を襲っていた炎も消えていく。魔法で生み出した炎は長時間は維持できず、傷ついたゴブリンキングは血走った目でレノとドリスに残された左腕を振りかざす。



「ギアアアアッ!!」

「まずい、ドリス逃げてっ!?」

「くうっ!?」



迫りくる左拳に対してレノはドリスだけでも逃げる様に促すが、彼女はレノを見捨てる事が出来ずに烈火を構える。だが、樹木を数百メートルも投げ飛ばす程の怪力を誇るゴブリンキングの一撃をドリスだけで受け止めきれるはずがない。


逃げればレノは助からず、かといって庇ったところでドリスでは攻撃を防ぐ手立てがない。だが、退けば仲間が死ぬ状況で自分だけが助かる事など出来ず、ドリスはレノの手元を離れて落ちている樽爆弾に気付いて咄嗟に蹴り飛ばす。



「このっ!!」

「ギアッ!?」

「うわっ!?」



樽爆弾はゴブリンキングの顔面に目掛けて衝突し、この際に樽が割れて中身の樹液と火属性の魔石がこぼれる。その結果、樹液を目に浴びたゴブリンキングは怯んで拳はぎりぎりの所で二人の身体を避けた。



「ギアアアアッ!?」

「今ですわ、レノさん!!」

「くっ……うおおっ!!」



顔面に樹液を浴びたゴブリンキングは悲鳴を上げ、視界が封じられて身動きが取れず、その間にドリスは火属性の魔石がゴブリンキングの足元に転がり落ちたのを確認する。ここで彼女はレノに声をかけ、最後の一撃を繰り出す。



「はああっ!!」

「行けぇっ!!」

「ッ――!?」



レノとドリスは同時に刃を振りかざすと、ゴブリンキングの足元に向けて刃を放つ。そして火属性の魔石に二人の放った「爆炎刃」が衝突した瞬間、火属性の魔石は暴発し、火柱の如く火炎がゴブリンキングを飲み込む。




――ギァアアアアッ……!?




ゴブリンキングの悲鳴が草原に響き渡り、その様子を他の魔物の軍勢や足止めを行っていたネココ達も確認した。既にゴブリンキングの周囲を取り囲んでいた火炎は消え去っており、ゴブリンキングが燃える光景をその場に存在した人間や魔物は目撃した――

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