第311話 終わらぬ悪夢
「た、倒した……のか?」
「そ、そうよ!!やったのよ、ゴブリンキングを倒したのよ!!」
「流石は王国騎士様だ!!」
「やった、これで終わったんだよな!?」
燃え盛るゴブリンキングの死体を見た冒険者と傭兵は歓喜の声を上げ、作戦通りに本当にレノとドリスの二人だけでゴブリンキングを倒す事に成功した。他の魔物が二人に襲い掛からぬように足止めしていたネココも笑みを浮かべる。
レノもドリスに肩を借りながらも倒れ込んだゴブリンキングに視線を向け、もう何があろうとこの状態から復活する事はあり得ないと確信した。ゴブリンキングは既に全身が徐々に焼け崩れ始め、やがて炎が消えた時にはそこには焼け崩れたゴブリンキングの死骸だけが残っていた。
「や、やりましたわ……本当に私たちだけでこんな化物を倒せるなんて、信じられませんわ」
「でも、勝ったんだよ……俺達の勝ちだ」
「……ええ、その通りですわ!!」
「勝鬨だ!!」
「俺達の勝ちだぁっ!!」
「うおおおおっ!!」
レノ達の元に他の人間は集まると、自分達の勝利を確信して勝鬨を上げる。その光景を他の魔物達は呆然と見つめる事しか出来なかった。
魔物の軍勢を統率していたゴブリンキングが死亡した事により、もう魔物達を従わせる存在は消えた。ゴブリンキングさえ死ねばゴブリンやホブゴブリンに従う魔物達は服従させられなくなり、ゴブリンとホブゴブリンに反抗を開始するのが彼の予想である。
(力で無理やりに従えさせられていたのならもう従う必要は無くなるはず……)
ドリスの肩を借りながらもレノは魔物の軍勢に視線を向け、ゴブリンに従う魔獣種の様子を伺う。魔獣達はゴブリンキングの力を恐れて従っていたのならば、ゴブリンキングさえ死ねば魔獣達は恐れる存在は消えた。
ゴブリンキングを恐れて従っていたのならば、魔獣種はゴブリンキングが死んだ以上はゴブリン達に従う理由はない。レノは祈る様に魔獣種がゴブリンに反抗し、同士討ちを行う事を期待する。
(頼む、作戦通りに上手く行ってくれ!!)
アルトの予想が正しければゴブリンキングさえいなくなれば魔物達は争うはずだが、今のところは魔物の軍勢はゴブリンキングの死体を見ても動きはない。その事にレノは不安を覚えながらも魔物達の様子を伺うと、ここで1匹の魔物が前に出た。
「グギィッ……!!」
「お前は……!?」
前に出てきたのは隻眼のホブゴブリンであり、街の冒険者からは「スカー」と恐れられている魔物だった。スカーは倒れているゴブリンキングの死骸の前に移動すると、何を考えたのか死骸の頭の部分を踏みつける。
「グギギッ!!」
「なっ!?」
「何をするのですか!?」
「っ……!?」
スカーは怒りの表情を浮かべながらゴブリンキングの死骸を踏みつけると、勢いあまって死骸を踏みつぶす。その光景にレノ達は戸惑い、仮にも先ほどまでは主人として従っていた相手を踏みつけるなど信じられない行動を取ったスカーに動揺する。
その一方でスカーの方はゴブリンキングの頭部を踏みつけると、改めてレノ達に向き直った。その様子を見てレノ達は身構えると、ここでスカーは右手を上げて鳴き声を放つ。
「グギィイイッ!!」
『……ギィイイイッ!!』
鳴き声が響き渡った瞬間、スカーの周囲のゴブリンやホブゴブリン達は顔を見合わせ次々と鳴き声を上げ始めた。その様子を見て冒険者と傭兵は混乱する。
「な、何だっ!?」
「こ、こいつら……まだ戦うつもりか!?」
「嘘でしょう!?ゴブリンキングを倒せば終わりだって言ってたじゃないの!?」
「……そんな事を言っている場合じゃない、すぐにここを逃げないとまずい!!」
ゴブリン達がスカーの命令に従うように動き出し始め、それを確認したネココは急いで退散するように指示を出す。やがてゴブリンとホブゴブリンは魔獣達にも指示を出すように身体を叩きつけた。
「ギギィッ!!」
「ギャンッ!?」
「ギィアッ!!」
「フゴォッ!?」
「グギィッ!!」
「ガアアッ……!!」
ファング、ボア、赤毛熊などの魔獣はゴブリン達に蹴りつけられると、それに対して抵抗も出来ずに彼等に背中を向け、次々とゴブリン達は魔獣へと乗り込む。その様子を見てゴブリンキングが死亡したにも関わらず、魔獣達はゴブリン達に従う姿にレノ達は戸惑う。
魔獣達がゴブリンキングの死後もゴブリンに従った事により、アルトの予想が外れた事になる。それは作戦の失敗を意味しており、戦闘を終えて疲れた状態のレノ達に対して魔物の軍勢は襲い掛かった――
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