第312話 撤退戦
「レノさん!!走れますか!?」
「くっ……!!」
「私が時間を稼ぐ……早く、ウル達を呼び寄せてっ!!」
魔物の軍勢が動き出すと、まだ完全には回復していないレノを見てネココは蛇剣を構える。そんな彼等を見てスカーは容赦なく魔物達に指示を出す様に鳴き声を上げた。
「グギィイイッ!!」
『ギィイイイッ!!』
魔獣を従えたゴブリンの群れが最初に動き出し、戦闘を終えた直後で披露しているレノ達の元へ迫る。その光景にネココは蛇剣を構えるが、この時に後方から聞き覚えのある声が響く。
「ウォオオンッ!!」
「ぷるる〜んっ!!」
「ウル、スラミン!?」
「グギィッ!?」
異変を察知して駆けつけてきたのか、ウルとスラミンはレノが合図を出す前に辿り着くと、咆哮を放つ。突如として出現した白狼種とスライムに魔物の軍勢は一瞬だけ怯むが、その隙を逃さずにネココは指示を出す。
「ウル、レノとドリスを任せた!!」
「ウォンッ!!」
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
ウルはネココの言葉に即座に従い、二人の服を加え込むと自分の背中に無理やり移動させ、その間にスラミンもネココの元へ向かう。他の者達も慌てて逃走を開始し、街に南側の城門へと向かう。
「スラミン、放水!!」
「ぷるっしゃあああっ!!」
「グギィッ!?」
「ギャンッ!?」
「ガアッ!?」
スラミンは口元から大量の水分を吐き出し、周囲へと放つ。冷たい水を浴びた魔獣達は怯み、ほんの少しだが時間を稼ぐ事に成功した。その間にレノとドリスを乗せたウルは駆け出し、他の冒険者と傭兵も続く。
ネココはスラミンと共に殿を務め、彼女は蛇剣を鞭のように振るって追撃を使用とする魔物達に牽制する。蛇のように不規則な軌道で放たれる刃に対して魔物達も迂闊に近づけず、皆が逃げるまでの時間を彼女は稼ごうとした。
「近づくな……!!」
「ぷるるんっ!!」
「グギィッ……ギギィッ!!」
『グギギッ!!』
ネココが奮闘する中、その様子を見ていたスカーはホブゴブリンの群れに鳴き声を上げると、武装したホブゴブリン達が動き出す。鎧や盾を身に付けたホブゴブリンが前に出ると、ネココは顔色を変えた。
「くっ……このっ!!」
「グギィッ!!」
「ギィアッ!!」
防備を整えたホブゴブリン達に対してネココは蛇剣を振りかざすが、振り払われた刃に対してホブゴブリンは盾や鎧で身を防ぎながら距離を縮める。徐々に距離を詰めてくるホブゴブリンの群れにネココは冷や汗をかく。
「……このっ!!」
「ギャアッ!?」
「グギィッ!!」
隙を突いて鎧の隙間からホブゴブリンの1体に剣先を突き刺す程度は出来るが、その間に他のホブゴブリンが一気に距離を詰める。そのためにネココは攻撃には集中できず、敵が近づかないように対処するのが精いっぱいだった。
(こいつら……戦い慣れしている!!)
ただのホブゴブリンならばこれほど苦戦する事はないだろうが、人間のように武装して数の利を生かすホブゴブリンの群れにネココは戦慄した。それと同時にこのホブゴブリンを従えるスカーに彼女は脅威を抱く。
ゴブリンキングが死んだ途端に魔物の軍勢はスカーの事を当たらな主人と判断し、指示に従う。それはつまりスカーという存在がゴブリンキングの次に恐ろしい存在だと認識しており、ネココはアルトの作戦が失敗した理由を悟る。
(アルトの見立ては間違っていなかった……だけど、こいつらが恐れているのはゴブリンキングだけじゃない、この傷持ちのホブゴブリンが組織の二番手!!)
魔物の軍勢を従えさせていたのはゴブリンキングで間違いないが、魔物の軍勢を最初に指揮していたのはスカーである事をネココは思い出す。城壁にてレノが魔弓術でスカーを狙った時、逆上したスカーは魔物の軍勢に攻撃を仕掛けさせようとした。
あの時にゴブリンキング以外にも魔物の軍勢を統率できる存在がいる事に気付かなかった自分にネココは悔しく思い、それに気づいていればもっと早く対処できた。だが、後悔しても遅く、彼女は追い詰められていく。
『グギィイイッ!!』
「くぅっ!?」
「ぷるるんっ!?」
遂にはネココとスラミンはホブゴブリンに囲まれてしまい、逃げ場を失ってしまう。これまでの戦闘でネココも体力を使い、暗殺者の技能を利用して逃げる事は出来ない。スラミンも水分を放出し過ぎて身体が縮小化してしまい、ネココを乗せて逃げる事も出来なかった。
「グギィッ!!」
『ギィアアアアッ!!』
スカーが指示を出すと、ホブゴブリンは一斉に盾を構えてネココの元へと詰め寄り、もう駄目かと思われた時、ここでホブゴブリンの群れに矢が放たれた。
『グギャアアアッ!?』
「グギィッ……!?」
「えっ……?」
「ぷるんっ!?」
矢がホブゴブリンの群れに到達した瞬間、まるで衝撃波のように強烈な風圧が発生すると、ネココを取り囲んでいたホブゴブリンの群れの一角が吹き飛ばされる。その光景にスカーは唖然とするが、ネココは振り返るとそこには離れた場所からウルの背中の上で矢を構えるレノが存在した。
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