第81話 襲撃
「誰だ!?いったい何の真似だ!!」
「ぐぅっ……き、貴様ぁっ……!!」
『お客様、どうかされましたか!?何やら大きな音がしたようですが……』
レノに殴りつけられた男は床に倒れた状態でレノを睨みつけ、ここで扉から宿屋の従業員と思われる声が響く。どうやらレノが黒装束の人物を殴りつけた際に音が廊下にも響いたらしく、すぐにレノは剣を掴んで男の様子を見ながら扉へと向かう。
しかし、扉を開く直前に外側の通路から物音が鳴り響き、男の呻き声と聞き覚えのある少女の声が響く。
『ぐあっ!?』
『……私にそんな芝居は通じない』
「ネココ?」
外から聞こえてきた声を耳にしてレノは驚いて扉を開くと、そこにはレノが殴りつけた男と同じ格好をした者が廊下に倒れており、その傍には短刀を構えたネココが立っていた。いったいどういう事なのかとレノは戸惑うと、ネココが説明する。
「この男は従業員のふりをしてレノの部屋に入ろうとしていた。だから、私が気絶させた」
「えっ!?という事はさっきの声は……」
「ぐっ……うおおっ!!」
外から聞こえてきた従業員の男の声が罠だと知り、レノは部屋の中で倒れている男に視線を向けると、相手は自分が壊した窓から逃げ出そうとしていた。その様子を見てレノとネココは止めようとしたが、その人物は振り返ると窓から飛び降りる前に小袋を取り出す。
「喰らえっ!!」
「うわっ!?」
「くっ……!?」
小袋の中身が開くと大量の小麦粉が部屋の中へと散らばり、レノ達は視界を封じられる。どうやらアルトが所持していた「魔法鞄」と同じ類の代物らしく、外見からは想像できない量の小麦粉を収納していたようだった。
小麦粉を煙幕代わりにして男は窓から飛び降りると、レノとネココは口元を抑えながらも窓の外を覗き込む。だが、既に男の姿は見えず、身を隠したらしい。
「くそっ……逃げられた」
「……多分、今の男が取り出した小袋も収納系の魔道具、もしも火を使われていたら大変な事になっていたかも」
「火?」
「大量の小麦粉が散らばっている場所で火を灯すと、何故かは分からないけど爆発を引き起こす。前に私もそれを利用して盗賊の隠れ家を爆発させた事があった。後で知り合いから聞いた話だと、粉塵爆発と言われてるみたい」
「へ、へえっ……」
ネココからの話を聞いたレノは感心するが、すぐに廊下で先ほど倒した男の事を思い出す。二人は部屋の外に出ると、まだ男が倒れている事に気付き、男の首根っこを掴む。
「おい、起きろ!!いったい何の真似だ!?どうして俺達を襲った!!」
「ぐうっ……」
「答えて、でないと……命はない」
レノとネココは捕まえた黒装束の男に問い詰めると、黒装束の男は二人を見て笑みを浮かべ、口元から血を流しながら呟く。
「お前等は……黒狼の尾を踏んだ、もう逃げられると思うなよ……」
「何を言って……」
「……こいつ、自分から毒を飲んでる」
黒装束の男はそれだけを言い残すと糸が切れた人形のように動かなくなり、虚ろな瞳を開いたまま倒れ込む。その様子を見てレノは驚き、ネココは男が詰め寄られる前に自害用の毒物を飲み込んだことを知る。
死んでしまった男を前にしてレノは唖然とした表情を浮かべ、人間が死ぬ姿など初めて見た。しかも男の口から「黒狼」という言葉が聞かされ、いったい何が起きているのか理解できなかった。その一方でネココは男の右手の甲に黒色の狼の頭が刻まれている事に気付いた――
――その後は警備兵が宿屋へと訪れ、レノ達は事情聴取を受ける。レノ達は自分達が急に襲われた事、そして黒装束の男が自殺した事を正直に話す。二人に話を尋ねた警備兵は昼間にレノ達が隼の団という傭兵団と共に訪れた者達だと知っていたらしく、死亡した男が賞金首であった事を話す。
「御二人を襲ったという男を調べてみた所、どうやらこの手配書の男のようです。二つ名は付けられていませんが、何年も前から指名手配されている凶悪犯です」
「……確かにあの男の顔」
「本当だ……名前は、ニールか」
レノの部屋へ侵入してきた黒装束の人物と同じ仲間と思われる男は、警備兵の調べによって名前は「ニール」という賞金首だと判明する。指名手配されたのは5年前である事が発覚し、しかも彼が「黒狼」に所属していた事が発覚する。
「このニールという男は5年前までは黒狼に所属していた傭兵だったのですが、黒狼が壊滅した際に逃げのびた男です。今まで何の情報も集まらず、もう既に死んでいたと思われましたが……まさか、こんな場所で見つかるとは思いもしませんでしたよ」
「あの……ロウという賞金首はどうなりました?あの男なら俺達を襲った相手を知っていると思うんですけど……」
「それが……実はロウは死んだんです。牢獄内に閉じ込めていた所、何処に隠し持っていたのか毒を飲んで死にました」
「えっ!?」
ロウが死亡したという話を聞いてレノは驚き、ネココは眉をしかめる。彼ならばレノが狙われた理由も襲ってきた男の素性も知っている可能性が高かったが、既に死んでいるのならば情報は聞き出せない。
警備兵としても非常に困っているらしく、まさかやっと捕まった犯人が自殺し、しかも5年前から行方不明だった賞金首が死体の姿で発見されるなど想像も出来なかった。
「現在、御二人が見たという人物の捜索を行っています。しかし、正確な容姿が分かっていなければ見つけるのは難しいでしょう。何か、その男に特徴はありませんでしたか?」
「特徴といっても……黒い服を着ていたことぐらいしか分かりません」
「多分、人間じゃない。私達が止まっていたのは建物の3階、つまり宿屋の一番高い部屋に泊まっていた。天井から道具を使って下りてきた可能性もあるけど、私達が襲われた直後に屋根を調べた時は何も痕跡は残っていなかった。だけど、宿屋の向かい側の建物の屋根を調べると僅かに足跡が残っていたつまり、相手は獣人族並の身体能力でレノの部屋まで飛び込んできた」
「そ、その話は本当ですか!?」
ネココの言葉に警備兵は驚き、レノもいつの間にかネココがそこまで調べていた事に動揺する。警備兵が訪れる前にネココは建物の周辺を調べたらしく、黒装束の人物がどのような方法でレノの部屋に侵入してきたのかを調べていたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます