第94話 爆炎の魔法剣士
「もう待てませんわ!!そこを退きなさい!!」
「うわっ!?」
少女はレノへと迫ると、彼に向けて剣を振り下ろす。咄嗟にレノは避けようとしたが、少女の動作を見て本気で切りかかろうとしているわけではない事に気付いてその場に踏み止まる。案の定というべきか、少女の剣はレノに当たる事もなく空振りした。
相手の動作を見ただけで剣を当てるつもりがない事を見抜いたレノの観察眼も凄いが、一方で少女の方は避けようともせずに踏み止まったレノを見て驚き、只者ではないと判断して彼女は剣を構える。
「貴方……何者ですの!?」
「俺は……」
「おらぁあああっ!!さっさと話さないと背骨が折れるよ!!」
「うぎゃあああっ!?」
レノが話しかける前に二階から怒声と悲鳴が響き、その声を聞いてレノは頭を抑え、少女は慌てた様子で悲鳴の主を助けようとした。
「は、早く助けに行かないと……そこを退きなさいっ!!でないと今度こそ切り伏せますわよ!!」
「くそっ、やっぱりこうなるのか!!」
もう言葉では引き留められないと判断したレノは周囲を見渡して武器になりそうな物を探すと、丁度良い事に冒険者と思われる男性が傍に倒れており、その男性の長剣が落ちていた。
少女は落ちている剣にレノが視線を向けたのを確認すると、彼女はレノが剣を回収する前に駆け出し、刃を振りかざす。
「させませんわっ!!」
「くっ……このっ!!」
「きゃあっ!?」
剣を拾い上げる前に仕掛けてきた少女に対してレノは掌底を繰り出し、この際に風の魔力を込めて突き出す。その結果、レノの掌底を受けた少女は風圧を受けて後方へと吹き飛び、壁へ向かう。
(しまった!?やり過ぎたか!!)
レノは魔法腕輪を装着したままである事を思い出し、無意識に風の魔石からも魔力を引き出してしまい、予想以上に少女の身体が吹き飛ぶ。しかし、壁に激突する寸前に少女は空中で身体を回転させると、両足を壁に伸ばして逆に足場として利用し、飛び上がる。
三角跳びの要領で少女は再びレノの元へ向かうと、上空から剣を振り下ろす。それに対してレノは咄嗟に足元に落ちていた剣を拾い上げ、受け止めた。
「てやぁっ!!」
「くぅっ!?」
酒場内に金属音が鳴り響き、二人は遂に刃を交わす。そして少女は着地すると後ろに跳んで距離を取り、剣を横向きに構えてレノと向かい合う。
「今の掌底、結構効きましたわ……貴方、何者ですの!?」
「何者と言われても……話を聞いてくれる気になりました?」
「いいえ、まずは二階の人を助けに行きますわ!!」
「ですよね……でも、俺も話を聞いてくれないなら通せないんですよ」
レノは剣を構えて少女と向かい合い、まさか王国騎士と戦う事になるとは思わなかった。少女の先ほどの動きから見ても身体能力も高く、なによりも先ほどの一撃を受けただけでレノの腕は痺れていた。
(この人、強いな……それにいつもの剣じゃないから使いにくい)
荒正をゴイルに預けてしまったのでレノは倒れている冒険者から拝借した長剣で戦わなければならず、不慣れな剣で魔法剣が出来るのかという不安もある。一方で少女は剣を構えると、ここで名乗り上げる。
「私は王国騎士、炎騎士の称号を承ったドリス・フレアですわ。貴方の名前を伺っても?」
「……レノ」
「レノ……聞き覚えはありませんわね、少なくとも賞金首のようには見えませんけど、私の邪魔をするなら容赦しませんわ!!」
ドリスと名乗った少女は紅色に光り輝く刃を翳すと、精神を集中させるように目を閉じる。その行為にレノは疑問を抱くが、ここで彼女の持っている剣から熱気が放出されていく事に気付き、直感でレノはドリスがとんでもない事を仕掛けようとしている事に気付く。
彼女を止めようとレノは剣を構え、付与魔術を発動させて風の魔力を纏わせる。使い慣れない剣なので上手く扱えるかは分からなかったが、彼女から剣を手放させるために振りかざす。
「嵐刃!!」
天井に向けて剣を掲げるドリスに対してレノは彼女の武器を狙って風の刃を放つと、それに対してドリスは目を見開き、次の瞬間に彼女の持つ剣が振り下ろされる。その結果、風の刃がドリスの振り下ろした剣の刃に触れた瞬間、爆発が発生して風の刃はかき消されてしまう。
「なっ!?」
「驚きましたわ……貴方も私と同じく、魔法剣の使い手のようですわね!!」
ドリスは爆発の際に発生した煙を振り払いながら現れ、彼女は刀身に剣を収めると、レノへ向けて駆け出す。危険を察知したレノは咄嗟に剣を構えるが、ドリスは鞘に納めていた剣を引き抜いてレノが所持していた剣に振りかざす。
「爆炎剣!!」
「うわぁっ!?」
彼女が鞘から引き抜いた刃がレノの剣に衝突した瞬間、爆発が発生してレノが手にしていた剣は折れてしまい、爆発の余波でレノも吹き飛ぶ。この際にレノは近くの机と椅子を巻き込んで派手に床に倒れ込む。
その様子を見てドリスは安心した表情を浮かべ、これで邪魔者はいなくなったと彼女は階段に向かう。しかし、倒したと思っていたレノが起き上がると、ドリスは驚愕した。
「いててっ……」
「なっ!?今の一撃を受けて立ち上がるなんて……」
「流石に死ぬかと思ったよ……剣に魔力を通わせていたからどうにか耐え切れた」
攻撃を受ける際、レノは付与魔術で刀身に風の魔力を纏っていた事でドリスの繰り出した「爆炎剣」なる攻撃を最小限の被害に抑えることが出来た。だが、剣は完全に折れてしまい、もう使い物にならなかった。
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