第95話 爆炎剣の対処法
「し、信じられませんわ……手加減したとはいえ、あの攻撃を受けて意識が残っているなんて」
「まあ、ぎりぎりだったけどね……」
レノは折れた剣に視線を向け、勝手に借りたの物なので後で持ち主には弁償しなければならないと考えながらも新しく武器になりそうな物を探す。一方でドリスは自分の「魔法剣」が防がれたという事に動揺し、彼女は鞘に納めた剣を掴む。
「くっ……もう手加減しませんわ!!次の攻撃で貴方を仕留めてみせます!!はっきりと言って次の攻撃を受けたら貴方も無事ではいられませんわよ!?降参するなら今のうちですわ!!」
「話を聞いてくれるなら別に降参ぐらいしてもいいですけど……」
「問答無用!!行きますわよ!!」
ドリスは再び鞘に剣を収めた状態で接近すると、その姿を見てレノは武器を早く手にしようとしたが、この時に自分が机を倒した時に落ちていた酒瓶を目にする。幸いにも瓶は割れておらず、それを確認したレノは蓋を開けて中身の酒を掌に収めた。
「これだ!!」
「何の真似ですの!?」
「こうするんだよ!!」
掌に酒を含んだ状態でレノはドリスに向けて腕を振りかざし、この際に風の魔力を放出させ、掌に含んでいた酒を勢いよく吹き飛ばす。その結果、掌に収まっていた酒は風圧を受けて四散し、接近してきたドリスは酒を浴びてしまう。
「あうっ!?」
「その状態で火を使えば貴女も無事じゃないですよ!?」
「くっ……姑息な手を!!」
ドリスは自分に飛び散った酒の臭いを嗅いで顔を顰め、レノは彼女が先ほどの魔法剣を使用すれば、身体に浴びた酒が引火する可能性があるため、魔法剣を封じることが出来ると思った。しかし、それに対してドリスは余裕の表情を浮かべる。
「生憎ですが、私の爆炎剣は火属性の魔力で構成された炎!!普通の火のように酒に反応する事はあり得ませんわ!!」
「くっ……!!」
レノはドリスの言葉を聞いて彼女のハッタリではない事を悟り、魔法の力で生み出した炎は純粋な炎ではなく、魔力で構成された炎である。魔法で生み出した炎は酒には引火せず、普通の水では消火する事も出来ない。
折角彼女の魔法剣を封じられたと思ったレノだが、結局は彼女を酒浸しにしただけで終わってしまう。しかし、ここでドリスの身体がふらつき、彼女は頬を赤く染めて膝をつく。
「くっ……くらくらしますわ」
「えっ……もしかして、酔った?」
「ううっ、こ、この程度……何でもありませんわ!!」
身体に浴びた酒の臭いだけでドリスは身体をふらつかせ、どうやら余程酒に弱い体質らしく、彼女の動作は明らかに鈍った。その様子を見てレノは反撃の好機だと判断したが、下手に近付くと先ほどの「爆炎剣」という名前の魔法剣に敗れる。
ドリスの扱う「爆炎剣」は威力だけならばレノの「火炎剣」を圧倒的に上回り、しかも剣に触れた瞬間に爆発を引き起こすので厄介な剣だった。そもそも武器がなければ対抗できず、困り果てている時に階段の方から声が上がった。
「レノ、受け取って!!」
「ネココ!?」
階段の方からネココが現れると、彼女は蛇剣を取り出してレノに向けて投げつける。慌ててレノは蛇剣を受け取ると、ドリスと向かい合う。
「くっ……上に仲間がいましたの!?なら、もう終わらせますわ!!」
「よし、この剣なら……!!」
魔剣を手にしたレノに対してドリスは次の一撃で仕留めるため、剣を握りしめた状態で向かう。一方でレノは蛇剣を手にすると、普通の武器とは異なる魔剣ならば簡単に壊される事はないと判断し、風の魔力を注ぎ込む。
(また受ければ今度は耐え切れない、でも正面から挑んでも勝ち目はない……どうする!?)
迫りくるドリスに対してレノは必至に思考を駆け巡らせ、彼女の爆炎剣を打ち破る方法を考える。仮にレノが火炎剣を発動させてもドリスの爆炎剣には及ばず、かといって「嵐突き」や「火炎旋風」のような大技を繰り出す余裕はない。
考えている間にもドリスは迫り、あの鞘から引き抜かれた刃に触れた時点で「爆炎」が襲い掛かる。どう対処するべきかレノは考えると、ここでアルトとの顔が思い浮かぶ。
(そうだ!!もしかしたら……でも、上手く行くのか!?けど、やるしかない!!)
アルトと行った訓練の事を思い出したレノは迫りくるドリスに視線を向け、上手く行く保証はないが他に手段もなく、敢えて彼女が鞘から剣を引き抜くのを待つ。
「――爆炎剣!!」
「うおおおおっ!!」
「レノ!?」
ドリスが鞘から刃を引き抜き、立ち尽くすレノに向けて振り抜く。迫りくる刃に対してレノは剣を構えると、正面から受け止めた。その結果、ドリスの手にした剣の刃から爆炎が発生し、傍から見ていたネココの目にはレノの身体が爆炎に飲み込まれたように見えた。
「なっ……ど、どうして!?」
まともにレノが剣を受けた事にドリスも驚き、彼女はレノを殺してしまったのかと焦った表情を浮かべる。ドリスも本気でレノを殺すつもりはなく、てっきり彼女はレノが回避するか、あるいは防御すると思い込んでいた。しかし、正面から自分の剣を受け止めた事が信じられなかった。
爆炎に飲み込まれるレノの姿を見てドリスとネココは彼が死んでしまったのかと心配するが、すぐにドリスの方は違和感を抱く。それは彼女の生み出した「爆炎」が消える様子がなく、目の前で燃え盛り続けていた。
(い、いったいどうなっていますの!?)
ドリスの扱う爆炎剣は彼女が持つ特殊な剣の刃に火属性の魔力を蓄積させ、一気に解放する事で強烈な火力を生み出す。しかし、発散させた炎は一瞬で消えてしまい、本来であればもう既に消えていてもおかしくはなかった。
「――うおおおおっ!!」
「まさか……!?」
「そ、そんな……!?」
燃え盛る炎の中からレノの声が響き渡り、その声を耳にしたネココとドリスは信じられない表情を浮かべる。そこにはドリスの生み出した爆炎を自分が手にした蛇剣に纏わせ、刀身に炎を抑え込むレノの姿が存在した。
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