第265話 報奨金

――王都へと向かった魔狩りの船長であるエイハブが戻ってきたのは彼が出発してから一か月後であった。移動の日数や国王に会うまで色々と時間が掛かってしまったが、無事に彼は土鯨の討伐の一件が認められ、報奨金を受け取る事に成功した。



「がはははっ!!どうだ、お前等!!こいつが俺達の儲けだ!!」

『うおおおっ!?』



エイハブは帰還する際、彼は新しい砂船に乗って戻ってきた。その砂船はかつてエイハブたちが乗りこなしていたヤマトという名前の砂船よりも大きく、更に新しい旗もたてられていた。



「船長、この旗は……!!」

「おうよ、俺達が土鯨を討伐した証だ!!」



旗には土鯨の絵柄に爆発の背景が記されており、この旗を今後は魔狩りの象徴とする事をエイハブは伝える。憎き仇であった土鯨だが、討伐を果たした以上はもう恨む必要もなくなり、今後は魔狩りの組織の章として旗に記す事にしたという。


新しい砂船に乗ってきた船長に魔狩りの集団は興奮し、彼等は成り行きで船乗りになったが、長い間船に乗り続けた事ですっかりと船乗りになっていった。



「すげぇ、なんだこの船は……ヤマトも良かったけど、この船も悪くねえな!!」

「気に入ったぜ、流石は船長だ!!」

「がははっ!!褒めるな褒めるな、まあ俺達はこの砂漠一の船乗りだからな!!やっぱり、船も立派なもんを用意しないとな!!」

「ふん、調子がいい奴だ……すぐに壊して儂等に直させるような苦労をさせるなよ」



新しい砂船に船員は誰もが喜び、これでジン国から借りていた砂船に乗る必要は無くなり、新しい船で魔物狩りに出かけられるようになった。だが、ここでエイハブは言いにくそうに伝える。



「……なあ、皆。怒らないで聞いて欲しいんだが、実は報奨金でこの砂船を買ったのは良いんだが、ちょっと金が掛かってな……お前等に払う分の金も少しばかり使い込んじまった」

「えっ!?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!土鯨を倒せば俺達全員が金持ちになれるんじゃないのか!?」

「し、仕方ねえだろ!!まさか砂船を買い直す羽目になるとは思わなかったんだ!!それに……」



エイハブはレノ達の前に移動すると、非常に申し訳なさそうな表情を浮かべ、やがて頭を下げて彼等に小袋を手渡す。



「すまねえ、お前等のお陰で土鯨の奴を討伐出来たのは重々承知している!!だから最初は俺達の分と、お前等の分で報奨金を折半しようと考えたんだ!!だが、思ったよりも砂船が高くて俺達の分だけじゃ賄えなくて……残ったのはこれだけなんだ」

「えっ!?」

「……見せて」



ネココはエイハブから小袋を奪うように回収すると、中身を見て眉をしかめる。小袋の中には金貨が50枚程度しか入っておらず、命を賭けてあれだけ危険な目に遭ったのに報酬がこの程度では割に合わない。



「少なすぎる……あれだけ大変な目に遭ったのに」

「いや、本当にすまねえ……この砂船の製作を依頼したとき、桁を一つ見間違えてたんだ」

「製作?え、これってエイハブさんが作ったんですか?」

「ああ、街の連中に頼んでいたんだ。この砂漠一の船乗りに相応しい船を作ってくれとな……これでも値段は抑えた方なんだ、あいつらも土鯨に苦しめられていたからな。俺達のために無理をしてこの砂船を作ったみたいで今更断る事も出来なくて……」

「はあっ……じゃあ、俺達はまた船乗りに戻るしかないのか」

「何だよ、金持ちになれると思ったのに……」



エイハブは報奨金を受け取る前の段階で船の製作を街の人間に伝えていたらしく、街の人間は力を合わせてこの船を製作したという。その理由を聞いて船員たちはエイハブに呆れながらも彼を責めるような真似はしない。


元々魔狩りの集団は他に身寄りがなく、この砂漠で暮らすしかないに人間の集まりである。そのため、砂船がなければ生活は出来ない。だからエイハブが新しい砂船を購入するために報奨金を使い果たした事は責めない。だが、魔狩りに所属していないレノ達にとっては勝手に自分達が受け取る分の報奨金も使い込まれた事になる。



「……こんなのは契約違反、私達の働きならもっと多くは貰えたはず」

「すまねえ、本当にすまねえっ!!」

「ネココさん、よろしいではないですか。私の分の報酬も全て差し上げますから……」

「僕も特に役立ってはいなかったからね……報酬はレノ君にあげるよ」

「えっ、でも……」

「気にしないでくれ、僕としては砂漠の魔物を観察できただけで十分さ」

「……そういう事なら二人の顔に免じて許してあげる」



アルトとドリスが自分達の分の報酬を全て渡す事を伝えると、ネココは完全に納得はしていないが渋々と頷き、レノとしても使い果たした魔石の報酬分は受け取れるのならば問題はなかった。

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