第264話 ヒカリの能力

「じゃあ、行きます!!」

「何っ!?」



馬鹿正直に攻撃の前に宣言してきたヒカリは真正面からライコウの元へ向かい、片手のみで槍を放つ。その行為にライコウは驚くが、すぐに彼は自分の槍を振りかざし、下から槍を払いのける。



「ふんっ!!」

「っ……!!」



下から繰り出されたライコウの槍によってヒカリが手にしていた槍は弾かれてしまい、それを見たライコウは続けて彼女に槍を繰り出そうとした。だが、ここでヒカリは驚くべき事に空中に弾かれた槍に目掛けて自分も飛ぶ。



「なっ……馬鹿なっ!?」

「はああっ!!」



ヒカリは驚異的な跳躍力で飛び上がると、空中に弾かれた槍を掴み、上空からライコウに目掛けて槍を突き刺す。その攻撃に対してライコウは咄嗟に回避するが、ヒカリは地上に槍が突き刺さると、まるで新体操の選手のように槍を軸にして身体を回転させ、その勢いを利用して蹴りを繰り出す。



「せりゃあっ!!」

「ぐうっ!?」



驚異的な身体能力でライコウはヒカリが繰り出した蹴りを受けて吹き飛び、危うく試合場から落ちるところだった。どうにか踏み止まる事に成功するが、その時には既にヒカリは次の行動に移っていた。


地上に着地したヒカリは槍を手にした状態で今度は目にも止まらぬ速度で動き、その移動速度は常人が見れば彼女が何人にも増えたかのように見えるほどである。残像を作り出す程の速度でヒカリは駆けつけると、ライコウに槍を放つ。



『はああっ!!』

「ば、馬鹿なぁっ!?」



まるでヒカリが増えたかの様にしか見えず、ライコウの身体にヒカリが繰り出した槍が突き刺さる。ライコウは数本の槍が同時に突き出された様に感じたが、実際に当たったのは腹部に部分にめり込まれた槍だけであり、彼は試合場から落ちる程の衝撃を受ける。


腹部に激痛が走ったライコウは苦悶の表情を浮かべ、試合場のヒカリを見上げる。そこに立っているのはヒカリただ一人だけであり、先ほどまではライコウの目には彼女が数名に別れた様に見えたが、実際にいるのは一人だけであった。



(何だ、今の速度は……有り得ない、人が出せる動きではない……!!)



人間よりも身体能力が優れている獣人族であろうと、人数が増えたかの様に残像を作り出す程の移動速度を引き出せるはずがない。ましてやヒカリはエルフであり、人間よりも身体能力は優れているとはいえ、獣人族のような運動能力は持ち合わせていないはずである。


明らかにヒカリの身体能力は常軌を逸しており、ここまでの素早さならばもう武芸を身に付ける必要性すらも感じられず、彼女が本気で動けば誰も付いてこられない。ライコウは光の剣を所有していないヒカリにも負けたことにより、やっと国王の言葉を理解した。



(そうか、これが勇者の資質を持つ者の強さか……!!)



ライコウは国王の言葉の意味をやっと理解し、勇者の剣がなかろうとヒカリは弱くはない。正確に言えば勇者の剣に選ばれる素質がなければそもそも勇者の剣に認められるはずがない。



(俺の、負けだ……)



光の剣も無しに敗北した事でライコウは悔し気な表情を浮かべるが、遂に敗北を認めてしまう。そんな彼の元に試合場からヒカリは降り立つと、手を差し伸べる。その手を見てライコウは驚くが、黙ってその手を借りて立ち上がる。



「ライコウさん……」

「ああ、この勝負は……」

「ねえ、もう一度だけ戦って貰えないかな!?」

「……は?」



ライコウはヒカリが自分から敗北の言葉を聞こうとしたのかと思ったが、ヒカリは何故か興奮気味に彼の手を握りしめ、試合場に戻るように促す。そのヒカリの反応には周囲の者も戸惑う。



「お願い、ライコウさん!!もう一度僕と戦って!!」

「ど、どうした!?急に何を言っている!?」

「だって、僕がここへ来てから槍を弾かれた事なんて初めてだもん!!ここへ来てから本気の僕と戦える人なんていなかったけど、ライコウさんは僕の槍を弾いた!!凄いよ!!」

「な、何だと!?」

「こんなに本気で気持ちよく戦えたのは本当に久しぶりだよ!!ねえねえ、今度は最初から本気で行くからライコウさんも遠慮せずに戦ってね!!」

「お、おい待て……話を聞けっ!!」

「……やれやれ」



自分が本気で戦える相手をやっと見つけたヒカリは興奮気味にライコウとの再戦を望むが、当のライコウは冗談ではないと腕を振りほどこうとする。だが、単純な力はヒカリが上回り、結局彼は引きずられる形で試合場に戻される姿を国王は苦笑いを浮かべるしかなかった。


こうして王国騎士ライコウとヒカリの決闘騒動は終わり、正式にヒカリは王国騎士の座を認められたという――

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