第263話 国王
「こ、国王陛下……!!」
「ライコウよ……見苦しいぞ、この勝負はお前の負けじゃ」
ライコウの前に現れた老人の正体はジン国の国王である「バルトス」であった。国王は最初からこの試合を観戦しており、そもそも二人の王国騎士に勝負の場を設けたのも国王である。
時は少し前に遡り、北方の領地から戻ってきたライコウは国王に直訴した。その内容はヒカリから王国騎士を剥奪するように申し込むが、それに対してバルトスはある事を告げた。
「ライコウ、儂はこういったはずだぞ。ここにいるヒカリが王国騎士に相応しい力を持つ者かどうか、お前自身で確かめよ。そういったな?」
「はっ……その通りでございます」
「だが、お前はヒカリに敗れたにも関わらず、彼女の力を認めようとはしなかった。それどころか悪あがきのように勝負を続けようとしたな?」
「そ、それは……」
「答えよ、ライコウ!!」
バルトスの言葉にライコウは言い返す事も出来ず、黙って項垂れる。敬愛する主の言葉にライコウは嘘を吐く事は出来ず、そんな彼の肩にバルトスは手を掛ける。
「ライコウ、お前は長い間、この国のために尽くしてくれた事は忘れておらん。今回の一件も私情ではなく、お主なりにこの国のためを思っての行動だと信じておる」
「陛下……」
「しかし、力ある者を素直に認めぬ事は許さん。儂は言ったはずだぞ、ヒカリが王国騎士として相応しい実力を持っていると認めたのならば、その時は共に手を取り合って国を支えるとな……だが、今のお主の心にはヒカリの力に対して認めている一方で嫉妬のような感情を感じ取れる」
「そ、それは……」
ライコウはバルトスの言葉に顔を上げるが、バルトスの鋭い眼光を向けられて何も言い返せず、確かにライコウとしてはヒカリに対して複雑な感情を抱いていた。
勝負の途中でライコウはヒカリの実力を思い知らされ、確かに彼女が王国騎士として相応しい実力を持っている事はすぐに分かった。だが、その力の正体が彼女だけではなく、彼女が所有する「勇者の剣」に頼っているだけに過ぎないのではないかと思ってしまった。
「陛下のおっしゃる通りです……私は、ヒカリ殿の実力を確かめるべく勝負を挑みました。しかし、ヒカリ殿の強さは光の剣に頼っているのではないか、そう考えてしまい、どうしても降参する事を認められませんでした」
「えっ……」
「ふむ、つまりお主はヒカリの強さが光の剣に依存した強さではないかと疑ったのだな?」
「その通りでございます」
ヒカリはライコウの言葉に意外そうな表情を浮かべ、彼女は自分の手にしている「光の剣」に視線を向ける。ライコウの本音を聞き出したバルトスは頷き、彼女に振り返る。
「ヒカリよ、もう一度だけこの者と戦ってくれぬか。但し、今度はその剣を使わずに戦ってくれんか?」
「あ、はい……分かりました」
「な、何……?」
バルトスに言われたヒカリはあっさりと光の剣をバルトスに差し出すと、バルトスはそれを慎重に受け取り、兵士に命じてヒカリに新しい武器を用意させた。
「ライコウよ、もう一度戦うのだ。そして知るがいい、ヒカリの本当の強さを……」
「……承知しました」
「う〜ん……よし、これでいいや!!」
ライコウがバルトスの言葉に頷く間、ヒカリの方は兵士が用意してくれた様々な武器を確認し、彼女はあろう事か「槍」を選択した。しかも彼女が手にしたのは訓練用に刃が潰された槍であり、それを見たライコウは戸惑う。
ヒカリが剣ではなく、槍を選んだ事にライコウは戸惑い、彼女は軽く素振りを行う。その動きは洗練されており、初めて槍を扱う人間の動きではない。
「うん、やっぱり剣より槍の方が扱いやすいや」
「何……では、貴殿は槍使いだったのか?」
「え?いや、お父さんの指導で一通りの武器は扱えるんです。里の族長は武芸の指導も仕事だから、僕が族長になった時のために大抵の武器の指導は受けてたんです。まあ、槍は……一番得意かな?」
「……剣士ではなかったのか」
槍を巧みに繰り回すヒカリの言葉を聞いて嘘だとは思えず、自分が彼女が得意としない剣の勝負でも負けたのかと思い知る。だが、ヒカリが使用していたのは「光の剣」であり、普通の剣ではない。
いくらエルフの里で鍛え上げようと、所詮は十数年しか生きていないヒカリと30年以上も武芸を磨いてきた自分が劣るはずがないとライコウは考えた。だが、国王の言葉を思い返し、今度は焦りや油断をしないように最初から本気で挑む事にした。
「それでは改めて……試合を再開せよ!!」
バルトスが試合の開始の合図を行うと、ライコウは槍を構えて身構える。彼は意識を集中させ、まずはヒカリの出方を伺う。だが、そんな彼に対してヒカリは槍を構えると、離れた場所から狙いを定めるように槍の刃を向けた。
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