第106話 脱走開始

「ど、どうして君がここに……というか、その恰好はまさか!?駄目だレノ君、何があったのか知らないけど盗賊なんかになるなんて!!すぐに自首するんだ、そうすれば僕が実家に頼み込んで貴族の権限で罪を帳消しに……」

「ちょ、落ち着いてよ……こんな格好をしているのは理由があるんだ」

「理由?」

「チュチュッ……」



レノは手短にアルトにこれまでの経緯を話すと、アルトはレノが見張りの兵士から装備を奪い、脱走しようとしていると知って彼は自分も抜け出す事を告げる。



「なるほど、そういう理由だったのか。それなら僕も一緒に逃げさせてくれ!!必ず役に立ってみせるよ!!」

「それはいいけど……アルトはどうして捕まってたの?」

「実は君たちと別れた後、僕も準備を終えてこの街に引っ越そうと思ったんだ。だけど、途中で森を抜けようとした時に盗賊の奴等に襲われてね……知ってるかい?ここは街じゃなくて、森の中に存在する廃墟なんだよ」

「え!?森ということは……もしかしてシノの街の近くにある?」



アルトの話によるとレノは先日にロウと盗賊団を捕縛した森に戻ってきた事を知り、どうやらここが本当の黒狼の根城だと判明する。森の中でシノの街に向かおうとする旅人が商団が被害を受けているという話は聞いていたが、その犯人が実はロウと彼を雇っていた盗賊団の仕業だけではなく、黒狼の仕業である可能性も出てきた。


森の中にどうして廃墟の街が存在するのかは不明だが、アルトは罅割れた片眼鏡を掛けて建物の壁を覗き込むと、建物の造りと素材から考察を行う。



「ふむ、この建物は随分と昔に建てられたようだね。おそらく、何百年も前から存在するんだろう」

「え、そんな事が分かるの?」

「学者を舐めて貰っては困るよ。そうだ、思い出した……前にこの地方の歴史書を呼んだことがある、今から500年ほど前に魔物に滅ぼされた街があるとね。その街が何処にあるのかまでは書かれていなかったが、もしかしたらこの場所かもしれない」

「500年前……」

「ここは廃墟というよりは「遺跡」かもしれない。恐らく、森の中に隠されていた遺跡をその黒狼という盗賊団が住み着いて隠れ家にしたんだ」

「チュチュウッ(なるほど)」



アルトの言葉にリボンは納得したようにこくこくと頷き、言われてみればレノは外の風景を見た時、多数の廃墟が広がっているのを見たが、確かに「遺跡」という言葉はしっくりときた。


実際に移籍を見るのは初めではあるが、ここがアルトの言う通りに森の奥地に隠された遺跡だとした場合、脱走しても街に戻るのは難しい。しかし、ネズミ婆さんの鼠がここまで来ているとすればネズミ婆さんがこの遺跡の事を知っている可能性もある。



「とりあえずはネココと、その王国騎士のドリスさんが捕まっているとしたら早く助けた方がいい……どうせ助けるまでは君も逃げるつもりはないんだろう?」

「勿論、絶対に助ける」

「それならまずは装備を整えた方がいいね。そんな下っ端盗賊の持っていた武器だと頼りないだろう?」



アルトの言葉にレノは頷き、まずは自分の装備と二人の居所を調べる必要があった。そこでアルトは自分が連れ去られる時に記憶しておいた地理を把握し、この牢屋代わりに利用されている建物のは遺跡の南部に存在する事を思い出す。



「この建物は遺跡の南方に存在する。そして厄介な事にこの遺跡の周囲は魔物の対策のために大きな掘に囲まれている。堀を抜け出すには北の方にある橋を渡らなければならない」

「盗賊の人数はどれくらいいる?」

「僕の確認した限りでは50人ほど……それに厄介な相手がいる。吸血鬼だよ、君は見た事があるかい?」

「吸血鬼?」

「そう、名前はカトレアと呼ばれていたね。外見は若くて綺麗な女性だが、油断したら絶対に駄目だ。この女は危険過ぎる、見つからないようにしないと……」



カトレアという言葉にレノは賞金首のカトレアの事を思い出す。賞金の金額はチェンよりも上であり、ネズミ婆さんによるとロウやヤンよりも恐ろしい存在だと聞いている。アルトが知っている限りの遺跡の地理を把握すると、彼はネココとドリスが捕まっている場所は遺跡の中央にある大きな建物だという。



「二人が本当にチェンの元で捕まっているなら、遺跡の中心にある一番大きな建物に囚われているはずだ。そこが盗賊達の本拠地で間違いないね」

「俺の装備もそこにあるかな?」

「その可能性が高いね、そうだ。実は捕まった時に一つだけ見つからず隠し持っていた魔法の指輪があるんだ」

「え、本当に?」



アルトは自分の髪の毛に手を伸ばすと、後髪に上手く隠していた指輪を取り出す。その指輪をレノに手渡すと、レノは取りつけられている指輪の色合いを見て水属性の魔石だと知る。

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